第34話

「カオスドラゴン……伝説のドラゴンが何で……」




カオスドラゴンは500年程前に歴代最強と言われた勇者に封印されたはずだ。


逆に言えば歴代最強の勇者でも倒すことが出来なかったのだ。




そんなモンスターが何でこんな所に……






――アル! 落ち着け!




アテナ様? そんな事言われたって伝説のドラゴンですよ?


何であんなのがここにいるんですか! アポピスは?






――アポピスが自分の生命力と新世界が集めていた魔力を全て用いてカオスドラゴンをその身に宿しおったのじゃ。




何てことしてくれてるんだ、あの巨大蛇め。






――だが、魔力が足りなかったようだな。カオスドラゴンは完全体では無い。




良かった……完全体ならこの世の終わりでしたよ。






――じゃが、魔力が集まれば完全体に成りうるのじゃ。


ここで倒しておかないといつか酷いことになるぞ。




そんな無茶な……






――妾の力を貸してやる。じゃが神の力を使うのじゃ、反動は覚悟しておけよ? やるか?




やるかって……やるしかないじゃないですか……!






――よし、行くぞ……神聖力セイントフォース解放!




その瞬間、体の内側から煮えたぎるマグマの様な力が溢れてくる。


力が……湧いてくる……?






――ぼーっとしてる暇は無いぞ! さぁ行け!






「うおおおおおおお!!」




俺は声に魔力を乗せて叫ぶ。


魔力を乗せた俺の声は衝撃波を生み出す。




なんかジャイ○ンになった気分……






「グルル……ゴォォォォォ!!」




それに気づいたカオスドラゴンは負けじと叫ぶ。


さすがは混沌の象徴とも言えるドラゴン、迫力が凄すぎる。




アテナ様、神の力って具体的に何が出来るんですか!?




――人間が使える範囲では特に変わらんぞ? 身体能力が底上げされるだけじゃ。




えぇー!? もっとスーパーパワーを期待してたよ!?






――ぼさっとするな! 来るぞ!




待って心の準備が……




その瞬間、カオスドラゴンの姿が空から消えた。


どこいった? 魔力反応は……






――そこから離れろ!!




俺はそう言われてその場から飛び退く。


めっちゃ跳べた!






ズドォン!!




俺がさっきまでいた場所にカオスドラゴンの姿があった。


うぅ、さっきと同じパターン……






――おいアル! 街を守るのでは無かったのか? 避ければ壊されるぞ!




避けろって言ったのはあんたでしょ!? でもそうだ。少しでも守らないと。更地になんてされてたまるか!






「こっちだ! 挑発!」




俺は挑発でカオスドラゴンの意識をこちらだけに向けさせる。






「防御力移動:カオスドラゴンから俺」




そしてカオスドラゴンの防御力を奪っていく。


すると、体の中から何かが暴れるような感覚に襲われる。




何だ……!? 自分が何か分からなくなるようだ……!






「フハハハハ! 我の力を奪おうとするなど愚かなり! 我の力の源は混沌そのもの! それを奪えば貴様の中で混沌の力が暴れるぞ!?」




こいつ喋れるのかよ……そして、混沌の力だと!?


くそっ、防御力を元に戻して……




ふぅ、とりあえず元には戻ったが防御力移動が使えないなんて……






「動揺しているのか? 安心しろ、すぐに楽にしてやる!」






「お断りだね!」




カオスドラゴンは魔力弾を放ってくる。


混沌の力だけでできた魔力弾、触れるだけでも危ない。


恐らく、一発でもまともに受ければそこで終わりだろう。




俺は回り込むように走り、魔力弾を避けていく。


俺の後ろを追うように魔力弾が地面に触れ、爆発する。






「フハハハハ、逃げるだけでは街が壊れていくだけだぞ!?」






「させるかっ!!」




俺は飛び上がり、縮地を使ってカオスドラゴンの背後に回り込む。






「付与魔法エンチャント:ウインド、【風の衣】、エアリアルソード!」




まずは翼を落として機動力を削ぐ!




身体強化、風の衣、能力変更、持てる全ての力を駆使してカオスドラゴンの翼に斬りかかる。






「ぐぅ!」




カオスドラゴンは空を飛び、避ける。






「まだまだぁ!!」




俺は目の前に結界を張り、方向転換する。


それから何度もカオスドラゴンはその巨体からは想像出来ない速度で逃げ続けるが、俺も負けじと追い続ける。






「しつこいわっ!!」




カオスドラゴンは突然止まったかと思うとこちらを向き、ブレスを放つ。




この時を待ってたぜ!




俺は縮地でカオスドラゴンの背後に回り込む。


ブレスを放つときは絶対隙が出来るもんな!






「おおお!!」




俺は剣を握り直し、結界を蹴る。


もらった!






「くっ、甘いわ! ハァッ!!」




カオスドラゴンは全身から高速で鱗を飛ばしてくる。


速いっ!






「アイギスの盾!」




なんとか目の前にアイギスの盾を発動し、鱗を防ぐ。


危ない、もう少しで貫通するところだった……




高速で放たれた鱗はアイギスの盾に突き刺さっている。


半分貫通しているのだ。


神の力を貰ったアイギスの盾ですら守りきれないのか……






「これだけでは無いぞ! ハアアアアア!!」




すると、カオスドラゴンは声に魔力を乗せ、叫ぶ。


それに呼応して鱗が震える。




まさか……






――アル、逃げろ!




バァン!!




カオスドラゴンから放たれた全ての鱗が一斉に爆散した。


破片が辺りを高速で舞う。






「まだまだいくぞ……」




すると、下からの風が鱗の破片を空へ舞いあげ、空は漆黒の鱗に埋め尽くされる。






「おいおい、冗談じゃねぇぞ……」




――アル! 動け! おい!






「さらばだ」




ドドドドドドド!!




漆黒の雨、それは容赦なく降り注ぐ。


抗うことも、防ぐことも出来ず、ただ打たれる。


風の衣も維持できず、漆黒の雨に打たれながら落ちる。




あぁ、死んだな……


第二の人生は誰かを守るとか言ってたけど、俺は誰かを守れたのかな……




皆……ごめん。後は任せた……






――本当にこのまま終わっていいんですか?




仕方ないだろ。もうどうしようもないんだ。






――本当にどうしようもないんですか? やれる事は全て試したのですか?




うるさいな。俺は俺の出来る限りのことをやったんだ。


それでダメだったんだからもうダメだろ。






――助けが来るまで持ちこたえるんじゃなかったんですか?




はっ、助けが来たってあれはどうにもなんねーよ。伝説のドラゴンをどうにか出来るやつなんてこの世にはいねーよ。






――あなたしかいません。あなたならカオスドラゴンを倒すことが出来ます。




何言ってんだ? 無理だったじゃねぇか!






――あなたにはまだ隠された力があります。立ち上がりなさい。そして戦いなさい。あなたは真の英雄になるのです……




頭の中に響く声がどんどんと遠のいていく。


何だったんだあれは……




立ち上がれって言ったってもう体は……あれ?




カオスドラゴンの怒涛のコンボを受けて俺は致命傷レベルの傷を負っているはずだ。


なのに体には傷一つない。






「やっと気がついた。アル、大丈夫か?」




目を開いてまず視界に映ったのはフロウだった。


隣を見ると勇者パーティーもいた。






「みんな……何でここに?」






「何でって呼んできたんだよ。ほら、立てるか?」






「遅くなってすまない、アル」






「レイン……俺のせいで、すまん……街の人が……」






「街の人は心配するな。みんなで一斉に王城に転移させた。だから安心しろ」






「良かった……俺のせいで街の人を巻き込んだかと……でも、街が!」






「街ならいくらでも作り直せばいい。人の命が助かったんだ。それだけでいいじゃないか」






「……うん、そうだな」






「さぁ、気合い入れろ。相手は伝説のモンスター、カオスドラゴンだ。油断するなよ……?」






「アル、一人でよく頑張ったな。今度は俺達もいる。みんなであいつを倒すんだ」






「フロウ……ありがとう」






「ふっ、何を今更。そういうのはこれが終わってからにしようぜ」






「ああ、そうだな」






「ったく……殺したと思えば仲間が集まって回復までされたか……まぁいい、全員ここで始末してやるわ!」






「カオスドラゴン! 第2ラウンドの始まりだ……!」






「行くぞっ!!」






「おお!!」

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