第23話

「さぁ、休憩して明日に出発しよう」






「そうだな」




俺達はぐっすり眠って今日一日の疲れを癒した。








――翌日――






「さぁ、行くぞ!」






「「「「おー!」」」」




俺達は更に下層を目指し、進み出した。








――迷宮・64階層――






「うわ、こりゃひでぇや……」




64階層は瘴気で床や壁が溶けていた。


更に魔物の死体もそこらへんに転がっている。




そのおかげで65階層もその下も魔物は新たに生まれたものぐらいしかいなかった。








――迷宮・70階層――






「さぁ、70階層だ! 気張っていこう!」




そう言って俺達は扉を開けた。






「いないな……隠れているかもしれない」




扉を開けても中には何もいなかった。






「え? ほんとに出てこないんだけど……」






「ちょっと探すね。【探索サーチ】」




そう言ってナージャが魔力反応から敵を見つける魔法を発動する。






「あれ? どこにも魔力反応がない……?」






「え? 倒されたとか?」






「俺達の他に誰がいるんだよ」






「まぁいい、とりあえず警戒しながら階段まで行ってみよう」




俺達はゆっくりと警戒しながら階段まで歩いていった。




階段まで着いたがやはり何も来ない。






「降りるか……?」






「何かがおかしいけどいないならいないでラッキーだね」






「まぁそうだな。降りようか」




俺達は70階層で何もないまま下へと降りた。








――迷宮・71階層――






「ここ迷宮……?」




71階層からはもう迷宮ではなく、どこかの屋敷といった雰囲気だった。






「誰だ、貴様ら!」




しばらく歩いていると装備を付けた2匹の蜥蜴人リザードマンがこちらに走ってきた。






「俺達は人間の冒険者だ。この迷宮を攻略しに来た」






「ここはアンシェル様の迷宮だ! 即刻立ち去れ! さもなければここで死体が転がることになるだろう!」






「ほぉ、死体? それは一体誰の事だ?」




フロウが斧を手に持って威嚇する。






「私達だ」






「お前らかよ!」




何だよそのワ○ピース的なノリはよ。






「アンシェルだって? ちなみにお前達、俺は勇者だ。魔王軍の幹部がいるならなおさら帰る事は出来ないな」






「勇者だと!? だからさっきから嫌な気分がしたのか」






「おい、どうするよ。勇者とそのパーティーじゃかなうわけないぜ」






「ふっ、何を言ってる。俺達はアンシェル様の忠実な部下だ。ならすることは1つだろ?」






「よし、やってやろうじゃないか!」






「お前達、構えろ。来るぞ……」






「そら逃げろっ!!」




すると「俺達はアンシェル様の忠実な部下だ」とか言ってた奴が全力で逃げ出した。






「えぇー!?」




もう1人の方もびっくりしている。


こっちは戦う気だったんだな。






「さぁ、お仲間が逃げ出したみたいだがやるか?」




レインが蜥蜴人リザードマンにそう言う。






「お、覚えとけー!!」




そう言ってもう1人の方も逃げ出した。






「なんだったんだ?」






「さぁ?」




それからどんどんと進んでいくが敵は現れなかった。








――迷宮・74階層――






「勇者が来たぞ! 準備しろ!」




そこにはさっき逃げ出した蜥蜴人リザードマンを含む多くの装備を付けた魔物がいた。






「はぁ……この迷宮の魔物は全部束になって襲ってくるのか?」






「らしいな……」






「いくぞお前達、かかれぇー!!」




蜥蜴人リザードマンの掛け声で魔物達が一斉に走ってくる。






「さぁ、やるか!」






「「「「おう!」」」」




俺達は各々武器を構えた。




その直後、






「やめなさい、みっともない」




空から声が聞こえたと思えば魔物達が吹き飛ばされていた。




そこの中心に角の生えた褐色の肌の人間らしきものがいた。






「誰だ!」




こいつはヤバい!


探索サーチを使ってなくても魔力量がえげつない事がわかる。






「これはこれは勇者パーティーの皆さん。私は魔王軍の幹部、アンシェルと申します」






「お前がアンシェルか! 勇者レインが相手だ!」






「ふふっ、血気盛んですね。いいでしょう、私は魔王軍ですからね。相手して差し上げましょう」






「1対5で勝てる見込みがあるのか? 余裕だな!」






「いえ、1対1ですよ。はぁっ!」




アンシェルは禍々しい魔力を解き放った。




邪悪な気が体に流れ込んでくる。




『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』




うるさい!




『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い』




うるさいって言ってんだろ!


人を憎んでも何にもならない!


虚しいだけだ!






『変わろうとしても無駄だ。他人のため? 馬鹿馬鹿しい。所詮は自己満足だろ。そんな事するくらいなら前みたいに自分勝手に生きようぜ?』




これは……俺の闇の部分が語りかけてきているのか?




自己満足だって? ああそうだよ。


それの何が悪い!


俺は俺が助けたいと思ったからやってるんだ、ごちゃごちゃうるせぇ!






「うおおおお!!」




俺は邪悪な気を心から追い出す。






「みんな大丈夫……え?」




周りを見渡すと立っているのは俺、レイン、アンシェルの3人だけだった。




フロウ達はぐったりと力なく横たわっていた。






「ん? なぜ貴方は立っているのですか? ほとんどの人間は闇の気にやられて気絶するはずですが」






「あ? そんなもん気合いで追い出した」






「貴方、さては申し子ですね?」






「ああ、だからどうした」






「あれに耐えれるのは勇者や聖女、それと申し子だけですからね。今頃あの人達は闇の気に精神を蝕まれていますよ」




アンシェルは笑を浮かべながらそう言う。






「レイン、早く倒してみんなを助けないと」






「わかってる。正直1対1を覚悟していたがお前がいるから大分気が楽だよ」






「しょうがないですね……2人まとめて相手しますよ!」






「行くぞ!」






「おお!」




俺達は剣を抜き、アンシェルに突進した。






「防御力移動:アンシェルから俺とレインに!」




俺はアンシェルの防御力を移動させようとスキルを発動する。




しかし、防御力が移動してくる感覚が全くない。






「ふふっ、能力移動のスキルは私には効きませんよ」




俺がスキルを発動する隙にアンシェルが懐に潜り込んでくる。






「マジかよ……!」






「これでノックダウンですね!」




アンシェルは俺の腹にパンチを繰り出してくる。






「がはっ!!」




体中に衝撃が走る。




一撃が重すぎる……




俺はよろけながら後退した。






「驚きましたね。結構強めに殴ったつもりでしたが」






「ははっ、防御力には自信があってな……」




俺は笑ってみせるが痛みで顔がひきつる。






「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」




レインがアンシェルの死角から現れた。






「忘れてませんが?」




アンシェルは即座に振り向いて、手からどす黒い色をした魔法を放つ。






「ぐあっ!?」




レインは吹き飛ばされる。






「オークジェネラルがやられたと聞いてどんな方達だろうとワクワクしていたのに。ガッカリですね……」






「まだ……終わってねぇぞ!」




俺は再び剣を握る。






「勇者はこんなもんじゃ倒れない……!」




レインも瓦礫の中から立ち上がり、剣を握る。






「そうでなくちゃ戦いは面白くありませんよねっ!」




アンシェルが周囲に闇の波動を放つ。






「アイギスの盾!」






「光剣シャインソード!」




俺は闇の波動をアイギスの盾で防ぎ、レインは光の剣で強引に打ち破る。






「「行くぞ!!」」




俺達はアンシェルに斬りかかった。

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