第22話
「「次で決める!!」」
――スライムドラゴンサイド――
俺は剣を再び構える。
「二人とも、手伝ってくれ!」
俺はセリィとナージャに呼びかける。
「手伝うって何をよ!」
「攻撃効かなかったじゃない!」
「大丈夫、俺に任せろ。なんたって俺は勇者だぜ?」
俺は笑顔でそう言う。
はっきり言って成功するかは分からない。
でも、2人を安心させないといけない。
不安にさせちゃダメだ。
「で、何をすれば良いの?」
「セリィは上級か神級の魔法でどっか1部分だけでも鱗を剥がして欲しい」
「分かったわ」
「ナージャは俺に超加速をひたすら何重にもかけて欲しい。反動で動けなくなるまでに倒す」
強化系の魔法を過剰にかけすぎると魔力反動といった症状が出る。
症状は色々だが、大体は体が動かせなくなったり、気絶したりする。
それも酷いと魔力が暴走して体が爆散してしまうので多重強化は基本的にはしない、と言うのが魔法の基本である。
だが、今はそんな事言ってられない。
「そんな無茶な……」
「俺は勇者だからタフなんだ。それに、怪我してもナージャが治してくれるだろ?」
「はぁ……分かったよ」
「ありがとう。じぁ行くぞ!」
「「うん!」」
「業火を纏いし火の神よ。その強大なる力を矮小なる我らに見せたまえ! いざ、顕現せよ! 【火神】!!」
セリィが神級の魔法を一人で発動する。
普通は国中の魔術師を集めないと発動出来ない程、膨大な魔力を使うのだがそれを一人でやってみせるとはな。
セリィの火魔法がスライムドラゴンに命中し、額の鱗を数枚溶かす。
「ギャォォォォ!!」
スライムドラゴンはさすがに神級の魔法を受けたので少し怯む。
さっき分かった事がある。
いくら早いと言っても回復し始めるのには少し時間がかかる。
今のうちに!
「超加速! 超加速! 超加速!」
ナージャが俺に超加速をかけ続けてくれる。
俺は更に身体強化を使い地面を蹴る。
スライムドラゴンと俺との距離が一瞬で縮まる。
スライムドラゴンはまだ反応できてない。
「光剣シャインソード!」
俺は光を纏った剣で鱗が無い部分に攻撃を浴びせる。
恐らく音の速さは超えているだろう。
一振り一振り衝撃波が生まれる。
「ギャォォォォ!!」
スライムドラゴンは苦しそうに叫ぶ。
すると、傷口が回復し始めた。
「くそっ、回復するスピードが速すぎる!」
斬ってもすぐに元通りになっていく。
間に合わないっ!!
もっと速く、今より速く!!
「こうなりゃやってやる!」
俺は今まで封印していた技がある。
あまりの強さに制御が出来ないので封印していたのだ。
どうなるか分からないがもうそれしか残されてない。
ここで死んだらそこまでだった、それでいい。
「最高神の祝福!!」
俺は封印していたスキルを発動する。
空から光が降りてきてその光が俺に触れると体の中から何かが暴走しそうになる。
くっ、やっぱり抑えきれないっ!!
「ぐっ、おおおおお!」
俺はそれを気合いで無理矢理抑え、攻撃を続ける。
スライムドラゴンは回復しようと魔力を総動員するがそれを上回る速さで俺は斬撃を浴びせる。
少しでも気を抜くと傷口が塞がれていく。
一瞬たりとも気を抜けない。
「ギャォォォォ!!」
スライムドラゴンは俺を振り落とそうと頭を振り回す。
「終わりだあああ!!」
俺は剣を突き刺す。
「ギャォォォォ……」
スライムドラゴンは苦しそうに叫び、倒れる。
「倒……した?」
俺は恐る恐るスライムドラゴンに近づき、傷口を見てみる。
傷口からは血が流れるだけで全く回復する様子は無い。
息絶えたのだ。
「やった……」
俺の意識はそこで途絶えた。
――瘴気の悪魔サイド――
「待ってろフロウ、こんな敵さっさと終わらせてすぐに回復してやるからな……」
俺はそう言ってフロウを瘴気の外へと移動させる。
「さぁ、時間が惜しい。次で決めるぞ」
「グガガガ!!」
瘴気の悪魔はそれぞれの腕から魔法を放ってくる。
魔法の弾幕が目の前から迫ってくる。
「能力変更、防御力を素早さに!」
俺は防御力を素早さに変更してそれらを全て避けていく。
ダメージ蓄積を使いたいんだが防御力無視の魔法がチラッと見えたから避けざるをえなかったのだ。
「どうした? 遅すぎて魔法が止まって見えるぜ?」
「グガァァ!!」
瘴気の悪魔は激昴し、再び魔法を放ってくる。
俺は再びそれを避ける。
「やっぱりまだまだだな。さぁ、今度はこっちの番だ!!」
俺は足元に結界を張り、蹴る。
何故足元に結界を張るかと言うと素早さが高いと地面じゃ踏み込みに耐えきれないからである。
更に瘴気の悪魔の影響で迷宮の床は脆くなっている。
地面が崩れられちゃ満足にスピードも出ないのだ。
「おおおっ!?」
思ったより速いぞ!!
俺の今の素早さはオーバーSSS、更に身体強化も使っている。
それはとてつもないスピードだろう。
「グガッ!?」
瘴気の悪魔は一瞬で目の前に俺が移動してきて一瞬狼狽えたがすぐに攻撃に転じる。
俺は空中に結界を多数生み出し、それを足場にしながら腕の攻撃を避け続ける。
「付与魔法エンチャント:ウインド・【風神】!!」
俺は体に更に激しい風を纏わせる。
これは危険なスキルだ。
風が強すぎてまともに呼吸も出来ないのだ。
「短期決戦だ!!」
俺は目にも止まらぬ速さで瘴気の悪魔を斬っては離れ、斬っては離れを繰り返す。
よし、結構効いてるぞ!
「グガガガガガガガ!!」
瘴気の悪魔は叫ぶ。
すると、瘴気の悪魔を纏う瘴気が更に強くなる。
風神でも吹き飛ばし切れないっ!!
体が少しずつ痺れて動かなくなっていく。
このままでは倒れてしまう。
「次で決めるっ! 【神速】!」
俺は残っているほぼ全ての魔力を使用し、最高レベルの強化魔法を発動する。
体中がビキビキと痛む。
「うああああああ!!」
俺は全力で結界を蹴った。
あまりのスピードに何も見えなくなる。
そして俺の後ろにベイパーコーンと呼ばれる雲が発生する。
音速を超えた証拠だ。
更に加速する。
瘴気の悪魔にぶつかる直前、素早さを力に一瞬という言葉も遅く感じられるほどの速さで変更し、剣を強く握る。
一閃。
俺が着地すると同時に瘴気の悪魔は上下真っ二つになる。
「ふぅ、終わったか……」
あっぶねぇ!!
もうすぐで光の速さに達する所だった!
そうなりゃ体が耐えきれなくなって粒子レベルで崩壊してしまっていた。
「そうだ、フロウ!!」
――フロウ目線――
「待ってろフロウ、こんな敵さっさと終わらせてすぐに回復してやるからな……」
アル……?
そっか、瘴気にやられて気絶してたのか。
早く一緒に戦わないと……っ!
くそ、体が言うことを聞かない!
「グガガガ!!」
すると瘴気の悪魔は腕からたくさんの魔法を発動する。
危ない、アル!! ……え?
アルは目にも止まらぬ速さで魔法を全て避けたのだ。
アルは守護者ガーディアンで素早さは遅いはずだ。
なのにアルはあんなスピードを出したのだ。
そして、瘴気の悪魔は瘴気を更に強くした。
アルは瘴気にやられ、体が上手く動かなくなっているように見える。
まずい、俺が助けに行かないと!
そう思っていたが次の瞬間、
キラン!
何かが光ったと思えばアルが凄く遠くに移動していて、瘴気の悪魔が上下真っ二つになっているではないか。
はは、ほんとにアルはすげぇや……
俺が心配するまでも無かったな……
――――
「おーい、アルー、フロウー!」
少しすると向こうからレイン達が走ってきた。
「おー、お前達も終わったか」
「楽勝だったわ!」
「ほんとか!? すげぇな」
「嘘つくなよ、セリィ。正直勝てる見込みは薄かったぜ」
「ああ、こっちもだ。そうだ、こうしちゃいられない! ナージャ、フロウを早く治してやってくれ!」
「フロウが!? 今行く!」
俺はフロウの所へとナージャを連れていく。
「はぁ……はぁ……うっ、ナージャ……」
「フロウ! 今助けるからね! 【全回復フルヒール】」
ナージャがフロウに高位の回復魔法をかける。
しかし、フロウはまだ苦しそうだ。
「瘴気をどうにかしないと! 【神聖なる光】」
次にナージャが呪いなどを解除する魔法を使う。
「ぐっ……あれ? 治った?」
フロウは立ち上がる。
「フロウ!! 良かった……治せなかったらどうしようかと……」
ナージャが立ち上がったフロウに抱きつく。
「うおっ!? ナージャ!?」
「もう……心配させないでよぉ……」
「……うん。ごめんな……ありがとう」
フロウがナージャの頭を撫でる。
ナージャは嬉しそうに胸に顔をうずめる。
「フロウ、無事で何よりだ」
「おう。ありがとな」
「別に俺は何もしてねぇよ。感謝ならナージャにしとけ」
「そんな言い方ないわよ、アル」
「そうだぞ。感謝の気持ちはしっかりと受け取らないとな」
「……どういたしまして」
「全く素直じゃねぇなぁ!」
「「「ははははは!」」」
こうして魔物連合軍との長いようで短い戦いが終わった。
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