第9校

「じゃあ全員揃ったということなので、これから新聞部と文芸部の新入生歓迎会をしようと思います!」


 部室の半分、新聞部のエリアに集まった両部の部員に、新聞部の部長がいつもより張り切った感じで話す。


「じゃあ最初に自己紹介をしたいと思います。ゴホン、じゃあ一番手は僕から。えー、新聞部部長で二年文系の地頭方太平です。好きな教科は国語、嫌いな教科は数学。部に入った理由は写真部が無かったから。趣味は写真を撮ること。休日はよく、旅好きの副部長に付いて行って、色々な写真を撮っています。ということでよろしくお願いします」


 こんな具合で、二年生から一年生の順に八人全員が自己紹介をした。ここでその全てを説明すると少々長いので、短くまとめると、大谷先輩は、地図好きが転じて旅行好きに。地理を学びたいがために理系を選択。

 文芸部部長の丸山先輩(性別は男)は学年一の秀才。

 柏座陽奈はここの旧校舎が気に入って新聞部に。

 平方夏帆は本物の新聞みたいで憧れたから。

 ……等々である。かくいう俺とアキも無難に自己紹介をすることができた。ただ問題は最後に自己紹介をした、向山涼だった。途中までは普通だったので油断をしていたが、最後に爆弾を抱えていた。


「……あっ、そういえばさっき、俺と古敷谷が昔からの親友と言いましたが、それ以前に古敷谷と今泉さんは幼なじみでして……二人のこと、温かい目で見守ってください」


 なんてニッコリと笑いながら言った。全くとんでもない爆弾だ。ほら、みんなからの好奇の目が俺とアキの方へ……まあ、アキは特に何も気にしていないようだが——。


「先輩……一応全員の自己紹介が終わりましたよ……」


 俺がそう言うと、新聞部部長——地頭方先輩はハッとした顔になった。


「ああ……そうだった、そうだった。えっと、自己紹介が終わったところで、じゃあ乾杯と行きますか」


 そう言うと、先ほど渡されたジュースの入った紙コップを全員が持った。


「乾杯」


「カンパーイ」


 掛け声とともに乾杯をすると、机の上に広げられたお菓子を食べたり、誰かと話したりしている。

 そんなガヤガヤとした雰囲気の中、俺がポテトチップスを黙々と食べていると、肩をトントンと叩かれた。誰かと思ってみるとそこにはメガネ娘、柏座陽奈がいた。


「えっと、何でしょうか?」


 すると柏座は顔を近づけて小さな声で訊いてきた。


「あの……さっきの話って本当なんですか?」

「さっきのって?」

「貴方と今泉さんが付き合っているって話です」

「……付き合ってない」

「えっ、そうなんですか……。じゃあ何処までのご関係ですか?」

「ごく普通の幼なじみだよ……ていうかめっちゃ食いついてくるな……」

「それが新聞部員の本性ですから」

「そうか、じゃあしょうがない……ってなるかぁ!」


 すると柏座は、テヘッとした顔をする。

 

「まあそうですね。で、実際今泉さんのことはどう思っているんですか?」

 

 懲りずに訊いてきた。だが、そろそろ面倒にも感じてきたので、


「ああ、まあ……好きだな」


 と話した。すると柏座はそれを訊いて少し顔を赤らめた。


「いや、なんで柏座が顔を赤らめるんだよ」

「だってですね。幼なじみの恋愛って素敵すぎて……よし、私決めました」

「……何を?」

「それはもちろん、貴方と今泉さんの恋愛を全面的にサポートすることです」


——不安だ。

 

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