第3校

——だってお前ら二人、今でも仲良く一緒に登校しているんだろ? それって並のカップルでもなかなかしないぜ


 夜が明け、いつもの桜並木を歩いている時でさえ、なお、昨日、涼から言われた言葉が俺の脳裏に反芻する。

 まったくどうして、そこから付き合うという結論に結びつくんだか。最初に聞いた時にはそう思ったが、考えれば考えるほどにそれは正しく、自分がこの関係のままでいるのが間違っているように感じるようになった。

 だから、俺はついボソッと言葉に出してしまった。


「俺たちの関係って間違っているのかなぁ?」


 すると隣を歩いているアキは、ちょっと不思議そうな顔をした。


「それはどういうこと?」


 そんな彼女を見て俺は、ああ口が滑っちゃったと思った。


「あ……いや、別に大したことじゃないんだ。何も考えなくてもいい」


 我ながらそんなことを言って乗り切ろうとするのがバカだった。というかむしろこれは逆効果であった。アキは俺の態度を見てよけい不審がったようで、


「ねぇどういうことなの? 私たちの関係って」


 俺の方を向いて、強く尋ねてきた。


「あ、えっと……やっぱあれかなって、俺たち二人、付き合っているわけでもないのにこうやって毎朝一緒に登校するのはおかしいかなって」


 するとアキはわかりやすく頬を緩ませると、プスっと笑ってこう言った。


「今更そんなこと思ってんのぉ? 私たちもう、九年以上一緒に登校しているのよ。正直私は気にしてないけど」

「でも、俺は気になるかなって……」


 そんなことを俺が言うと、アキは何だか考える仕草をした後にこう提案してきた。


「じゃあさ、私たち付き合っちゃえばいいんだよ!」


「……う! え! はぁ!」


 動揺のあまりに、言葉でない言葉を思わず発してしまう。まったく何で二人も揃って、そんなに軽く「付き合う」という言葉が出てくるのだろうか、俺には理解しがたい。もっと重要な事じゃないのかそういうことって。


 ……ん? でも、待てよ。俺は今、片思いの相手から付き合うことを、提案されているっていうことだよな。つまりここで告白すれば晴れて付き合えるっていうことだよな……?

 そんなことを考えた後、改めてアキの方へ目を向けた。するとそこには、ニコニコとした顔があった。

 俺は、そんな様子とさっきの軽い提案にどこか不自然さを感じてしまったのだ。


「もしかして、さっきのは冗談?」


 気付いた時にはすでに、俺はアキにそう尋ねていた。すると、アキはちょっと不機嫌そうな顔になって一言、


「本当にそう見える?」


 と言った。

ここで、俺は少し考えた。もしかしたら、さっきの「付き合う」発言は割と本心から出た言葉かも知れないと。

 でも、それと同時にこうも考えた。もし、さっきの発言が冗談であったとしたら、返答次第で、ただの自意識過剰な奴になってしまうじゃないかと。

 だから俺はこう答えた。


「……分からない」


 と。フェアでな答えでは無い事は理解していたが、リスキーな事を言う勇気が俺には無かったので、結果、こんな中途半端な答えになってしまった。

 

 そんな俺の答えを聞いてアキは、ちょっと槍投げな感じで、


「じゃあ私も分からない!」


 そう言った後、むすっとした顔になって一言こう付け加えた。


「智也のバカ」


 と。

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