番外編SS『念願のウェディングケーキ』






 *・*・*(フィーガス視点)













 頼んだのは、俺だが……こんなにもでかいもんだったとは、予想外だった。



「お待たせ致しました、フィーガスさん」



 姫様ことチャロナの嬢ちゃんに、俺は約一年前に頼んだケーキ。


 マックスとこの嬢ちゃんの前世の世界では、結婚式くらいに用意するらしい……めちゃくちゃでかいケーキがあると、昔マックスに教わり。


 俺のカミさんになるカレリアは食べたい食べたいとはしゃいでいたが……嬢ちゃんが再現出来るとわかり、頼んで約一年。


 カレリアの出産を優先したことで、式を挙げるのがだいぶ遅れた。子供は男で、後継ぎ候補として大事に大事に育てている。今も、カレリアの腕の中ですやすやと眠っていやがる。



「わあ!! すっごい……!! すっごいよ、チャロナちゃん!? これ、全部食べられるの!!?」



 息子を落とさないように抱いてやっているが、目の前のどでかいケーキにカレリアの興奮度はどんどん上がっていた。



「はい! 土台以外は全部食べられますよ?」



 嬢ちゃんの固有技能スキルとも言える、『無限∞収納棚』。そっから出てきたのは……俺の身体とか背丈を余裕で包み込めるくらいに、でかいケーキだった。


 ほとんど白。ところどころに赤い粒……イチゴがあるが、全体的に白くて美しいケーキだった。



「これが……ウェディングケーキ、か」



 種類は色々あるらしいが、俺と言うかカレリアの要望でこの形になった。カレリアがあることをしたいからだが。



「ファーストバイト用のスプーンもご用意しましたよ!」


「でか!?」


「おっきい!!?」



 ケーキほどじゃねぇが、すくう部分も持ち手もでかいスプーンだった!?


 これで食べさせ合う??


 異世界とやらは、食を楽しむ文化もあるとマックスには聞いていたが……やっぱ不思議だ。



「あーう、あーう」


「セシル君にはまだ食べれないからねー?」


「そなの?」


「中にはチョコレートも入れてあるので、赤ちゃんのうちはダメなんですよ」


「ほー?」



【枯渇の悪食】で失われていた食の知識は元に戻らないが。


 嬢ちゃんやマックスがいるお陰で、少しずつだが……各地にふたりの持つ技術が浸透しつつある。


 と言っても、簡単には嬢ちゃんの持つ技術は真似出来ない。義妹になるエイマーでも、まだまだ追いつかないって言っているしなあ?



「楽しみだねぇ、フィーさん!」


「……そうだな?」



 とりあえず、今日は俺達の晴れの日だ。


 せっかくのチャロナ嬢ちゃんのケーキも堪能したい。


 そのケーキは、当然参列者と分け合うのだが。


 最初に俺とカレリアが、食べさせ合う『ファーストバイト』だったが。カーミィのすくった量が多過ぎて、俺がなかなか食べられなかった!!?



「あっはっは!? フィー、真っ白!!?」



 参列者にいるマックスがゲラゲラと笑うのに、いつもなら殴りかかりに行くが……今日は俺とカレリアが主役なので出来なかった!!



「うっせぇ!?」



 けど、味はさすがチャロナ嬢ちゃんなので、甘過ぎず食べやすかった。イチゴも甘酸っぱくてケーキによく合う。クリームもだが、ケーキの生地の部分もふわふわで病みつきになりそうだ。



「はい、フィーさん!」



 カレリアにも食べさせるので、俺は受け取ったスプーンでゆっくりケーキに差し込む。食ったときでわかったがめちゃくちゃ柔らかい。だが、しっかりした感触があった。


 カレリアが食べやすい量をすくい、待っているカレリアの口に運んでやった。



「美味しい!!」



 もぐもぐ食べる表情が相変わらず可愛らしく……ああ、この女をカミさんと呼べる俺は幸せもんだと……俺は改めて実感出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る