178-2.今更ながら(レクター視点)






 *・*・*(レクター視点)







 カイルが自分の思うように行動出来るようになってきた。これは、とても喜ばしいことだ。


 姫様チャロナちゃんを探すことに、使命を抱いていたあの時期を過ぎて。任期が終わった後に、無事に保護出来てからは……どうすればいいのか戸惑いはあったと思う。


 けど、わずか数ヶ月の間に、自分の本当の気持ちを芽吹かせた。王妃様の復活の後になったが、神からの妨害もなく二人は結ばれたのだ。


 これが嬉しくないわけがない。


 それに、あえて二人きりにさせたとは言え、カイルがチャロナちゃんもだが女性を膝上に乗せるだなんて信じられなかった。



(…………それだけ、好きなんだろうなあ?)



 まあ僕も、リーンを諦められるかと問われたら『否』と即答出来るくらいだ。


 僕が実家の男爵家を継ぐと決めてからは、彼女は一層行儀作法を学ぶのに頑張っているそうだ。家格が落ちるのに、それでも良いだなんて……本当にいい御令嬢だよ。


 チャロナちゃんも良き公爵夫人になるだろう。ただ、結婚しても今のように使用人っぽい事をするかはわからないが。



(僕の提案は……彼女が出て行かないように、繋ぎ止めておくだけだったからねぇ?)



 カイルが見つけて。


 僕が治療して。


 その後、あの子が去ると言い出したらどうなっていたことか。結果的には、全てがまとまった状態にはなったけれど。


 だが、チャロナちゃんの異能ギフトは今もあるし、ホムラや他国への正しいパンの調理法を伝えていくと決められた。なら、ある意味で今のままでいいかもしれない。



「このフィナンシェ美味しいねえ?」



 ほんとに退室しようとしたが、カイルから解放されたチャロナちゃんが是非、と食べるように勧めてくれたマッチャで作ったフィナンシェは絶品だった。


 甘さは控えめで独特の風味はあったが、僕は嫌いじゃない。



「抹茶は他に数種類の飲み物とか、パンにベーグル。あと、デザートなんかにも色々扱えます」



 チャロナちゃんはこの屋敷に戻って来てからも、僕らに敬語をやめることはなかった。いつも通りに過ごしたいこともあり、なかなか外せないらしい。まあ、本来の家族である王族とマックスとかは別だそうだけど。



「……チャロナ。チョコレートは合うか??」


「出来ますよー? ホワイトチョコレートが多いですが、飲み物とかでも出来ます」


「!?」


「今から作って来ましょうか??」


「…………頼む」


「はーい。冷たいのとあったかいのとどちらがいいです?? あ、先生も」


「……俺は冷たいのを」


「僕も」


「わかりましたー」



 と言って、チャロナちゃんは行ってしまった。


 本当に僕は……今更ながらだけど、王女殿下に小間使い以上のことをさせていいのか悩んだ。


 カイルにも聞こうとしたが……僕と同じ感じなのか、執務机の前で考え込んでいた。

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