178-1.ドキドキお膝の上






 *・*・*









「……また、遠出などに行かないか?」



 お屋敷に戻ってきて、数日も経ったタイミングで。


 たまたま、私とカイルキア様だけが執務室にいる時に彼から提案があった。私は今日のおやつである、抹茶のフィナンシェを持ってきたところだ。



「お出かけ……ですか?」



 嬉しくないわけがない。


 お出かけ、つまりはデート!!


 恋人になってから初めてのデート!!



「……ああ。街などはまだまだお前の帰還と王妃復活で賑わってしまっている。そちらに出掛けるのはもうしばらく落ち着いてからが良い」


「孤児院への差し入れもですか??」


「そうだな。知らせであったがなかなかに、お前の評判は大変なことになっているそうだ」


「評判??」



 差し入れ以外何かしたっけ? と首をひねっていたらカイルキア様に小さく笑われた。



「……お前が、元リブーシャ子爵を捕らえるまでの足止めで、かなり大きく貢献したことだ」


「リブーシャ??」


「覚えていないとは聞いていたが、リュシアでは『糞子爵』とか呼ばれていた輩だ」


「ん〜〜……あ!?」



 エイマーさんやエピアちゃんと出かけた時に、エピアちゃんを狙おうとしてたケバい男の事を思い出した。けど、私が足止めしたことについては本当に覚えていない。



「お前の活躍を観劇にまで仕立てて……それがかなり人気らしい。だから、今行くのは得策ではない」


「わ……かりました。けど、お出かけは??」


「色々立て込んでいたんだ。たまにはのんびりしないか??」


「カイル様がそんなことを言うだなんて」


「意外か?」


「ふふ。以前でしたら考えられません」



 レクター先生とか悠花ゆうかさんに言われるがままだった。


 もちろん、お互いに片想いだったあの頃も楽しくなかった訳ではない。けど、両想いになり、正式に婚約した今……くすぐったいような不思議な感じになっていく。それは決して嫌な感情ではない。



「……ああ。前と今は違う。だから、改めて申し込む」


「もちろんお受けしますよ??」


「そうか。また遠乗りで行こう」


「……はい」



 私が返事をすると、こちらに来るように手招きをされた。


 なんだろうと近づくと、カイルキア様のお膝の上に座らされてしまったのだ!?



「……思ってた以上に軽いな??」


「か、カイル様!? 重いですって!?」


「そんなことはないが?…………今は二人だ。多少触れても良いだろう??」


「!?」



 なんだろう。


 感情のリミッターが外れてしまったカイルキア様が甘々になってしまっている!?


 しかも、こんな近距離でそんな切なげな美低音を響かせないで欲しい!!


 こちとら前世でも恋人とかいなかったのに!?


 刺激が強過ぎるぅうううううう!!



「戻ったよー、カイル…………ぅ?」



 とかなんとか、カイルキア様の膝の上でジタバタしてたら、レクター先生が戻って来た。私は膝から降りようにもカイルキア様の逞しい腕で抱えられているので無理。



「「「…………」」」



 三人で黙っていると、レクター先生は生温い表情になった。



「あとでもいいから、医務室にいるね??」


「なんで退場しちゃうんですか!?」


「えー? だって、カイルが積極的だなんてなかったからー?」


「助けてください!!」


「はいはい。カイル? そう言うのは『ほんとに』二人っきりの時にしなよ??」


「……………………今お前が出ていけばいいだろ?」


「カイル様ぁ!?」


「はは。おかし〜!!」



 とりあえず、ドキドキ過ぎるお膝の上からは下ろしてもらい。デートについては、明日休むようにさせるとのことで……私は仕事に戻ってから、お弁当をまた作ろうと決めた。

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