173-2.死への手向け(アーネスト視点)






 *・*・*(アーネスト視点)









 イシューとか言った、元男爵家の坊々は儂を見るなり……これでもかと目を見開いていたわい。



「……何故、儂がここに来たかわかるか??」



 儂は問いかけても、ゆるゆると首を横に振るだけだった。まあ、その反応は当然よの?



「陛下からのお情けじゃ。もはや、死罪は確定じゃが最後くらい……儂と話す時間を与えてやらんとな、と」


「陛下……が?」



 随分と甘い処置だが、絶望の状態で死ぬよりもまだええじゃろう?


 儂としてはどっちでもいいんじゃが、此奴が謀反を起こしたきっかけが儂らしいからの? 面倒じゃが、現国王陛下の命令じゃからなあ?


 あと、チャロナちゃんの耳にいずれ入るにしてもフォローはせんといかん。



「さて、イシューとやら? 儂はたしかに自他共に認める程の変わり者で、国随一だとも言われる錬金術師だったが……それだけじゃぞ? 他に取り柄はほとんどない」


「だけ……などと!? あなたは最高の錬金術師様です!!」


「それは過去じゃ? 死にゆくお前さんになら言えるが……儂など王女殿下の前ではちっぽけなジジイじゃわい」


「!? 王女……殿下、が……ですか?」


「お前さんは本当に運が悪い。強固派と言う悪に染まり過ぎて、目の前を見れなんだか。あの方こそ、至高の錬金術師よ」


「……………………では、僕は」


「そうじゃ。その宝の命を奪おうとしてたんじゃ」



 目の前の我欲に染まり過ぎて、なにも見えない。


 それは罪を犯すかどうとでも関係ない。


 儂のせいもあるだろうが、こんな若い年頃の人間が死を迎えるだけと言うことは……いささか悲しいのお?


 しかし、犯した罪は二度と消せるものではないわい。


 それからイシューはひと言も言葉を言わないで終わり。儂も忙しい身ではあるのでこれまでにしておいた。


 牢屋は相変わらず埃っぽかったが、外に出れば清々しい空気が吸えた。



「……本当に、儂なんかの弟子に憧れて阿呆じゃ」



 そんな輩を増やしてしまった、儂のこれまでも阿呆かもしれんが。


 とりあえず、陛下には報告不要と言われているので研究室に戻ることにした。研究室では、フレイズが一心不乱にパン作りをしているとこじゃった。



「!……どうでしたか、そちらは?」



 儂に気づくと顔を上げてきたわい。



「…………まあ、死の手向けになるのなら良いが。よくわからんかったわ」


「そうですか……」



 本当に、儂程度の錬金術師が最高だと儂自身も、チャロナちゃんが来るまでそう思っていた。じゃが、あの子は儂以上じゃ。錬金術師の方も、学べばきっと儂以上じゃろう。


 カレリアが認めているのであれば。



(そう言えば、カレリアには子が出来そうじゃったか……?)



 不肖の弟子の子宝。


 気分を切り替えて、フレイズと一緒に考えることにした。

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