167-6.もどかしい(カイルキア視点)






 *・*・*(カイルキア視点)








 また、チャロナに危機が迫ったのかと思ったのだが……杞憂で済んで良かった。


 父上が中庭で飲んでいると魔法鳥で知らせがあったので、一緒に飲むことになったのだが。チャロナが、何故か父上と一緒にいた。


 声をかけようとしたが、話の内容が内容だったため思わず隠れてしまった。



(……俺の事か)



 俺がチャロナを好いてしまった事。


 それについては、おそらく記憶の封印が解けた関係で知ってしまったのだろう。だが逆に、俺も彼女の気持ちを再確認してしまった。


 お互いに知ってしまっている。しかし、それでもチャロナは俺が王女だと知っていながら……義務感からそうなったと思いかけている。


 訂正はしたかったが、彼女は父上に言われて部屋に帰って行った。実体ではなく、ゴーストのような状態だったらしい。透けた身体越しに月明かりが眩しく写っていた。


 何故……と思った時には行ってしまって、俺は笑いを堪えている父上の横に立っていた。



「くくく……カイル。常日頃から無表情だったお前の顔が形なしだよ?」


「……それどころではありません! チャロナが何故あのように!!?」


「落ち着きなさい。……最高神の御意向かもしれないよ? とは言え、今頃兄さん達は大慌てかもしれないが」


「なら、今からでも追いかけ」


「だから、落ち着きなさい。あの子は自分の意思できちんと飛んでいた。今はちゃんと身体に戻っているはずだよ」


「……だと、いいですが」



 無事であるのなら、それでいいが。


 俺は父上に座るように言われ、剥き出しの段差にそのまま腰掛けた。そして、父上が卓の上に置いたままのグラスに酒を注いだ。



「しかし、良かったじゃないか? 互いに思うところはあれど、あの子はきちんと今のお前を見ようとしている」


「…………俺とて、今のチャロナを見ています」


「なら、明日でも期間を置いてもいい。安心させる意味でも、チャロナにも言ってあげなさい? お互いに子供ではないが、あの子は不安なんだ。自分が王女と知って混乱している部分も大きい」


「…………はい」



 俺は卓からグラスを取り、一気に煽った。強い酒だったが、喉を通ると焼けるような痛みを感じても、無視した。



(……これまでは、神の御意向ですべて『無い』ようにさせられていた。今はそれが無いにしたって!!)



 あのように、不安な表情は彼女には似合わない。


 明日屋敷に戻るとは言え、すぐにチャロナの不安を取り除けるかもわからないのだ。


 王女と皆が知った上で、どう受け入れてくれるのか。そこが一番心配だろうから。



「とにかく、カイル。いずれ娶るのであれば、あの子の不安は全部お前が取り除いてあげなさい?」



 俺が黙っていると、父上は最もらしいことを口にした。



「……はい」



 彼女が一番気にしていた身分差がなくなったと言えど、別の問題が彼女の心を蝕んでいる。それは俺とて、誤解を解きたかった!

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