167-5.遊泳②

 デュファン様に近づくと、彼は何かお酒を飲んでいたのか大きなグラスを手にしていた。中庭みたいな場所にはベンチがあって、そこに座っていたのだ。



「……ふぅ」



 ワイン、みたいなのを飲んでいらっしゃったけれど……なんでこんなところでひとりで飲んでいるのかな?


 カイルキア様もだけど、奥様のエディフィア様もいない……たったひとりだ。



(夢にしては、リアルだし声も姿もはっきり分かるし……?)



 これは……夢を通じて、私が幽体離脱になっているのかな??



『なんでだろう?』



 ユリアさん達が夢を通じて記憶を見せてきたとか、封印はあったけど……それはもう終わった。


 明日には、ローザリオンのお屋敷に帰るのに……今更魔法のようなことを使ってなにをしたいのだろう。けど、思ってもユリアさん達は出てきたりしない。シアちゃんはフィルザス君? と仲良くしているんだろうか?


 とりあえず、私はそっとデュファン様に近づいてみた。音は立てないけど、ちょっと離れて廊下側に降りたら……デュファン様がこちらに振り返ってきた。



「……おや?」



 私のことは、見えてる……みたい?


 しばらく見つめ合ってから、カイルキア様と同じ顔でも柔らかく笑って、私に来いと手招きしてきた。



『……叔父、様』



 名前で呼ぶのとは違う関係になって、少しくすぐったいけれど……実際に呼んでみると、デュファン様は目尻の皺を緩ませていたわ。



「……実体じゃないね? 君はまだ魔法を習って日が浅いと愚息からは報告があったが」


『お父さん……達と一緒だったんです。けど、寝てしまったらこんな状態に』


「なるほど。だが、無意識とは言え身体から離れ過ぎてはいけないよ? 叔父さんとお話したら戻りなさい?」


『お話……ですか?』



 デュファン様がさらに手招きして、ベンチの空いてるスペースに腰掛けると……デュファン様はにっこりと微笑んでくれた。



「王女として迎え入れられたけれど……義姉上の復活も成した君だ。注目されるのは必然だが、今日ひっ捕らえた阿呆な強固派を除いても……君を友好国との結びつきにしようと思う馬鹿な連中も出てくるだろう」


『えっと……?』


「簡単に言うと、君には王位継承権がなくても……望まない結婚をさせて強大な国との結びつきにさせようと思う連中が出てくるんだ」


『え゛!?』


「もちろん。兄さんがそんなことをさせるわけがない。チャロナちゃんは……想う相手がちゃんといるんだから」


『!?』



 知っている。


 カイルキア様のお父様が知っていらっしゃる??


 というか、私達それぞれの想いがバレバレ??



「ふふ。神からの封印も解けたんだね? 君は我が愚息を想ってくれているのは……大抵の人間は知っている。その望みは、叶えてやりたいんだ」



 そう言うと、デュファン様は幽体離脱である私の頭を撫でた……ように見えた。実際にはスカスカとすり抜けたし。



『……いいんでしょうか』


「うん?」


『王女、ってわかってた上で……カイル様は私……を?』


「ふふ。そこは愚息に聞きなさい? 屋敷に戻れば時間は大いにあるんだ。二人でゆっくり話せばいい」


『……はい』


「さ。叔父さんのことはいいから、そろそろ戻りなさい? 明日から君の一日はたくさん変わるから」


『……はい。叔父様は……どうしてここに?』


「うん? 叔父さんには叔父さんなりに感傷に浸っていたかったんだよ」


『??』



 よくわからないが、内緒だとウィンクされてしまったのでもう聞けない。


 だから、そこからは迷子になってでも自分の部屋に戻るのに飛んで飛んで。


 しばらくしたら、窓からお兄さんが身を乗り出しているのが見えた。



「チャロナ!」


『……お兄さん?』


「こっちだ! 君の身体はこっちなんだぞ!!」



 なんだか焦っているようだったので急いで飛んで行き。お兄さんの案内で寝室に向かえば……私の体を抱きしめて号泣状態のお父さんと、それを宥めるお母さんの絵図が出来上がっていた。



『これは……??』


「君の身体が呼吸してなかったから、また何か起きたんじゃないかって大慌てだったんだぞ?」


『……ごめん、なさい』


「いいさ。それは自分の意思で?」


『……ううん。寝てたら、勝手に』


「ふぅむ。……とりあえず、父上を止めるんだぞ!」



 と言って、下手すると窒息手前だった私の身体はお兄さんのお陰で無事に解放され。


 お父さんはお兄さんに失神させられてから、布団に寝かしつけられたのでした。



「さ、寝ましょう?」



 あれだけの事が起きたのに、お母さんは何事もなかったかのようにスルーしてくれた。子供である私とお兄さんは返事をしてから、今度こそ普通の眠りについたのでした。

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