164-3.王女のサンドイッチ②

 美味しい、って。


 初めての人達にも、『美味しい』って言ってもらえた!?


 嬉しくないわけがない!


 臣下の人達は、決して大きくない卵サラダのサンドイッチを最初の嫌がっていた時とは違って、むさぼるように食べてくださっているんだもの。


 私はちょうどあと一個残っていたサンドイッチを、お母さんに手渡した。



「まあ! 本当に柔らかいわ。私が以前に食べていたパンとは別物ね?」



 お母さんは何もためらわずにサンドイッチを上品に口にしてくれた。すぐに、ぱあって顔を輝かせてくれたわ!!



「とても美味しいわ!? ふわふわでむせなくて、しっとりもしているのに内側のバターのお陰で水っぽくもないし……卵サラダとの相性も抜群よ!」


「ありがとう、お母さん」


「これを毎日食べていた、カイルキア達が羨ましいわ」



 お母さんがカイルキア様達の方を向くと、悠花ゆうかさんもだけどレクター先生まで涙ぐんでいた。お母さんがまだ生き返った事が夢を見ているからかもしれない。


 けど、お母さんは今現実にいるんだもの!!



「……皆もわかったであろう」



 とっくに食べ終えたお父さんは、口元を高級そうなハンカチで丁寧に拭いていた。


 その言葉に……騒いでいた臣下の人達はざっ、と姿勢を正して片膝をついた。時代劇っぽく見えるけれど、ちょっとだけ面白いと思ったのは内緒だ。



「王女の腕前は、今食したサンドイッチでよくわかったはずだ。フレイズ殿の口にした事がわかったか?」


『『『『はっ!』』』』


「そして……此度こたびの式典は。王女帰還だけではない。この子の生誕祭と改めて成人の儀を行うためだ」


「え?」


「チャロナ、お前の本当の誕生日は今日なんだ。だから、今日まで色々準備をさせてもらった」


「けど……成人の儀は」


「そちらは我々のわがままだ。王城に帰還の意味も兼ねてやらせてくれ」



 そしてお父さんは、カイザークさんに頼んで綺麗な緑色の金属で出来たゴブレットを私の方に持ってきたのだ。



「……王女殿下、こちらを」



 私はカイザークさんに差し出されたゴブレットに、そっと手を添えてから受け取った。



(二度目……だけど)



 成人の儀式に必要なのは、特別なゴブレットとその中身に入れる薄いアルコールが入ったお酒。それをゆっくりと飲むだけ。


 成人までお酒を飲まないでいた人間が、いきなりアルコール中毒にならないためだ。私はもう成人しているけど、この中身は一緒だろう。


 皆に見守られながら、ゆっくりとゴブレットを口に近づけて中身を飲む。



(!? 美味しい!!)



 口には出せないけど、とても美味しい果実酒の水割りのような。甘味もあるが、酸っぱさもある。ザクロとかグレープフルーツを混ぜた感じですっごく飲みやすい。


 だけど、一気飲みはお行儀が悪いのでゆっくりゆっくりと飲んでいく。


 飲み干したら、お父さんが手を叩いてくれて。


 そこからお兄さんにカイザークさん……お母さん達や臣下の皆さんまで拍手をしてくれたのだ。



「王女の帰還並びに、王妃の復活が相成った!! これより、我らは王女の生誕祭を行う!!」


『『『『はっ!』』』』


「最高神の方々……本当にありがとうございました!」


「いんや?」


「すべては王女の選択の結果。我らはそれに手を添えただけ」



 すると、ユリアさん達はあの空間で再会した時のように、おじいさんおばあさんの姿になり。ユリアさんが私の方に来ると、髪を軽く撫でてくださった。



「ユリアさん?」


「……あなたに重ね掛けした記憶の封印は少しずつ解けるわ。ゆっくり紐解いて」



 とだけ言ったら、ロマンスグレーになったフィルドさんと一緒に消えてしまった。



(……記憶の封印ってそんなにあるのかな?)



 今はすぐに思い出せないが。


 とりあえず、私達は場所移動することになり、カイザークさんについて行くことになった。

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