153-2.抹茶のデニッシュパン②



「「「なんだ/なん!? これぇ!!?」」」



 焼き上がって、少し厚めにスライスしたデニッシュパンを出すと、当然のように三人とも後ずさり。


 これには、苦笑いするしか出来なかった。



「前に、抹茶の揚げパン作ったの覚えてる??」


「揚げパン?」


「おー、ココアじゃねーのなら。あ……なんか緑のあった」


「そん時に使った粉入れたんや?」


「そーそー、デニッシュパンだからそんな苦くないし。さっきも言ったけど、甘い豆も入れたから美味しいよ?」


「「「おー……」」」


「……何を集まっている?」


「「「旦那様!?」」」


「カイル様!」



 今日もお仕事を終えられたのか、相変わらず無表情なカイルキア様だけど。おやつは楽しみだったのか、雰囲気は上機嫌って感じだった。


 ただ、三人に用意したデニッシュパンを見ると。



「これは……パンか?」


「はい。シュライゼン様に以前いただいた抹茶で作ったデニッシュパンです。クロワッサンやミートパイのような生地に、抹茶を練り込んだんです」


「……豆もあるように見えるが」


「はい。小豆やいんげん豆を、甘く煮たんですが餡子とは違うものです。結構甘めなので、苦味がある抹茶とちょうどよくなります」


「……なるほど」



 ひょいっと、カイルキア様はパンを手に取って。もう一度じーっと見てから、ひと口。


 もぐもぐと召し上がってくださっているが、味の感想は……言うまでもなく。


 ひと切れをぺろりと完食されてしまったので、嬉しかった。



「美味しかったですか?」


「……ああ。苦味が美味いとは思うことが出来るとはな。バターもふんだんに使われているし、間の豆がかなり甘いのがいい」


「ありがとうございます」


「チャロナ、お、俺も!」


「俺も食べてみる!!」


「お、俺も!!」



 旦那様が絶賛したので、食べる勇気が出たのかすぐに、もう一人分持ってきて、三人ともその場でパクリと。



「「「うっま〜〜!!?」」」


「ちょい苦いけど、あんま〜〜い!!」


「え、なにこれ!? ほんとにちょっとだけ苦いけど。豆が甘いし、ちょうどいい!!」


「な!? チャロナ……もしやこれも」


「うん、ひとりふた切れまで」


「「「そんな〜〜……!!」」」



 気に入っちゃうと、おかわりが欲しくなるのは当然だけど。


 こればっかりは、仕方がないんです。



「……チャロナ。これのPTも相当高そうに思うが」


「はい。後で、ロティと一緒に食べます」


「レベルアップしたら、すぐに俺やレクターとかに言うんだ」


「……はい」



 小声での何気ないやり取りだけど。


 やっぱり、嬉しくなっちゃう。


 内緒話とも違うけど、カイルキア様の気遣いが少しくすぐったくて、嬉しくて。


 ああ、この人が好きなんだな……って、やっぱり思っちゃう。


 けど、身分問題がほぼなくなったとは言え。



(す、少なくとも、嫌われてないと分かっていても……!?)



 あまね千里ちさとの人生にプラスして、チャロナの約十七年の人生も入れて初めての恋。


 恋愛初心者なので、なにをどうすれば良いのかわからないでいたが。


 カイルキア様が帰られて、おやつ提供がぼちぼち落ち着いてからロティと一緒にデニッシュパンを食べたら。









【PTを付与します。



『濃厚抹茶と甘納豆のデニッシュパン』



 ・製造50人前=1000000PT

 ・食事一人前=10000PT



 →合計1010000PT




 レシピ集にデータ化されました!





 次のレベルまであと509445000PT




 】






 本当に、一人で食べなくてよかった。


 レベルアップには程遠いけれど、製造だけでこの数値。


 コロンもすぐに確認したら、こりゃまあすごいことになっていたので。


 休憩時間はまだあったので、振り分けていた時にちょっとしたことを思い出した。




「あ。誕生日、明日だっけ?」


『でふぅうううううう!?』


「いや、ほんとに忘れてて」



 成人は過ぎたし、今更と思っていたら。小部屋の扉がバンっと大きな音を立てて開いたのだ。



「なんですって、チーちゃん!?」




 顔面蒼白な状態で、悠花ゆうかさんが立っていたのだった。

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