153-3.実は誕生日

 どこから聞いていたのかはわからないけど、悠花ゆうかさんは顔を真っ青にしていた。



「悠花さん?」


『でふぅ?』


「聞き捨てならないワードが聞こえたわよ、チーちゃん!?」



 どかどかと部屋に入ってきたら、悠花さんは私の肩を掴んできた。



「ふぇ?」


「誕生日が明日だなんて、なんで教えてくれなかったのよぉおおお!?」


「ゆ、ゆ゛が、さ……ん!? 苦し!?」



 揺らさないで、揺らさないで!?


 酔いそうになるからぁああ!?


 本当に、肩を揺すぶされただけで酔いそうになったので。なんとか悠花さんの肩をバシバシ叩いてやめさせた。その頃には、頭がぐわんぐわんいってたけど。



「はーはー……一大事だわ」


「そんな、大袈裟な?」


「大袈裟も何も大問題よ!? ちょっと、カイルんとこ言ってくるわ!!」



 と言うなり、ダッシュで部屋から出て行ってしまった。


 本当は止めたかったけど、あの勢いじゃ止めても聞かん坊だろう。仕方がないので、シェトラスさん達にもデニッシュパンのPTとかの報告ついでに口にしたら。



「チャロナちゃん/くん、の……誕生日が明日!?」


『一大事でやんす!?』



 と、こっちまで大袈裟な感じになってしまいました。



「えっと……なんとなく忘れてただけですし。十七歳になるだけですから、別に大したことは」


「そんなことはないぞ、チャロナくん!?」



 盛大に祝う必要はないと言いたかっただけなのに、エイマーさんに肩を掴まれてしまった。



『でふぅ』


「いくら歳を重ねても、誕生日は大切なものだとも! ましてや、君は世界の恩人になり得る人物だ! マックスは旦那様のところに行ったんだね?」


「は……はい」


「ならば! うちうちでお祝いになるだろう!!」


「ええ!?」


「そうだね? 私達も料理で出来る限り、チャロナちゃんのお祝いをしようじゃないか?」


『でやんす!』



 レイ君は知らせに行くと、壁をすり抜けてカイルキア様のところに行ってしまい。


 私は私で、夕飯の仕込みをしながら何が食べたいか、エイマーさん達に聞き込みされまくったのでした。



「唐揚げ、フライドポテト、ピザにラザニアにカレーに……」


「その中で私達が作れるのは、からあげとポテトくらいだな……」


「ラザニアは、なんとかなりそうだが」


「いえ、本当に無理しなくていいですから!」



 誕生日だなんて、実は正確な日にちじゃない。


 ホムラの孤児院の前で捨てられてた日。


 それが誕生日になっただけだから。


 だから、本当に十七歳になったのもわからないし。


 と説明したら、今度はシェトラスさんに肩を掴まれた。



「いくら本当の日じゃなくても。マザー達にちゃんと祝われていたんじゃないかな? 冒険者だった時は、旅先でも成人の儀を済ませたんじゃ」


「そう……ですけど」



 あのパーティーにいた時も、成人の儀をちゃんとやってくれた。


 役立たずだった、家政婦でしかなかったメンバーでも。教会で成人の儀をやってくれたのだ。あれには、感謝してたけど。



「だからこそ、だよ? なんてことのない日に過ぎないかもしれないが、私達には特別な日に変わらないよ?」


「シェトラスさん……」



 本当に、本当に本当に。


 このお屋敷の人達は、優し過ぎるわ。

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