138-1.残りものラスクであーん?






 *・*・*








 ポットパンは厚切りにした食パンで出来なくもないのだが。


 カイルキア様がいらっしゃるこのお屋敷では、男女問わず皆さんたっぷり召し上がります。


 けれど、それでもボリューミーだから女性は一斤の半分。男性は一斤丸ごと使う予定だ。


 乾燥ドライ時間短縮クイックでしっかり表面を乾燥させた食パンをご用意。


 これを、一斤とその半分に人数分切り分けて。


 ここからが大変!


 厚過ぎず、薄過ぎず。そして、器にするパンを破ってはいけない。


 だから、ペティナイフで全員彫刻刀を持つかのように、真剣に挑み。


 途中、お師匠様とかがくり抜いた内側のパンをつまみ食いをしたので、もちろん注意した。



「ダメですよ? それも大事な食事の材料です」


「うん?」


「このパン屑をかの?」


「シチューに浸して食べるんです。量は加減しますが、美味しいですよ?」


「ふぅむ。スープにつけることで、今まではマシかと思っておったが」


「絶対違うとわかります。トロトロで美味しいですから」


「「ほう……!!」」



 ただ、量が多いのでいくらかはかりんとう風の揚げたラスクを作ることに。



『甘々〜〜! らしゅくらしゅく!!』


「ロティはたくさん頑張ってくれたから。はい、あーん」


『にゃあああああ! あーん!!』



 ロティがフライヤー姿からニョキっと手を出したので。ちょんと載せたらすぐに吸い込まれる。細切りにしたラスクのサクサクした音がすぐに聞こえてきた。



「どーう?」


『美味しでふぅううう!! しゃくしゃく甘々ぁああああ!!』


「ふふ、よかった」


「……何やら楽しそうだな?」


「あ、カイル様!」



 フライヤーを設置した場所がカウンターに近かったので、カウンターからこちら側から見えていたらしく。カイルキア様がもう食堂に顔を出されたのだった。



「……甘い匂いだな? 今日の教室は昼食向きだと聞いたはずだが」


「量が多いので、一部をラスクにしてるんです!」


「……ラスク?」


「えっと……パンの耳や白い部分を適当な大きさに切って、素揚げするんです。仕上げにお砂糖やココアシュガーをかけますよ!」


「……食事の前に、少しもらえるか?」


「はい! えっと」



 小皿に取り分けたら、何故かカイルキア様がカウンターから少し上半身をこちらに?


 あと少し口が空いているような?



「……俺もロティみたいにしてくれ」


「は……はぃいいいいい!?」



 なんでなんで!?


 悠花ゆうかさんとかじゃないのに、なんであーんを求められるの!?


 けど、一応ここは人目があるのに、と振り返れば……『やれやれ!』って全員アピールしている、だとぅ!?


 お師匠様には話したことないのに、なんで知っていらっしゃるんだ!!?



「……ほら」


「は……はいぃ」



 とりあえず、比較的長いものを選んで食べさせようとしたが。


 ちょっと私の緊張感が高まって、全然動けずに届かない。


 もう無理かも! と思っていたら、カイルキア様に腕を掴まれて無理矢理カプっと!?



「……うん。お前の料理はやはり美味い」



 で、ついでとばかりに残りも全部食べてしまわれた。


 カイルキア様はからかってすまない、と私が逆の手で持ってた小皿を受け取って、ご自分の席に行ってしまったのだ。

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