137-5.第四回パン教室④






 *・*・*








 二次発酵が終わったら、いよいよ焼きの工程。


 ここも大事な工程なので、まずはロティの天火機オーブンにどんどん型を入れていく。



「普通の窯だと、前後を入れ替えなければいけないんですが。ロティの場合は、ロティが管理しているので均一に火が通ります」


「……擬似生命体が管理。……それは、魔導具に組み込むのは難問じゃな?」


「普通に考えたら難しいですからね? なので、今日は窯でも比較してみます」



 前後はひっくり返さなくても焼けるは焼けるので、今回は蓋をして魔石の熱だけで焼く。


 だいたい二十分以上。


 ロティの歌で、お師匠様が驚いている間に出来上がってしまい。


 銀製器具シルバーアイテムから、専用のケーキクーラーなどで使うような網を取り出して。ミトンを装着した後に、型を軽く打ち付けて取り出し。


 出来上がった食パンは、見た目はどれもいい具合に焼けていた。窯の方も大丈夫だったが。



「……なんとも、香ばしく良い香りじゃ! 出来立てのパンをこんなにも食べたいと思ったことはない!!」


「せっかくですし。窯の方と比較するのに、食べ比べてみますか?」


「良いのか!?」


「作り手の特権です」



 ふんわり、熱々の食パン。


 最初の頃に、シェトラスさん達にも食べていただいた時には好評だったけど。


 今回、窯で焼いた方がどうなのか。


 先に、そっちを皆さんに食べてもらいました。



「あっつ!? けど……ふわふわなんだぞ!? 焼き立てがこんなにも美味しいだなんて!!?」


「「ええ!!」」


「まさしく、チャロナちゃんに指導を受けたからこそ作れる味ですの!!」



 そして、ロティで焼いた場合は?



「「「「!!?」」」」



 窯で焼いたのを食べた時よりも、明らかにリアクションが違っていたのだ。



「なんじゃ……? 同じ生地じゃったのに、炊き方ひとつでここまで!?」


「チャロナの食パンはこちらでしか俺も食べていなかったけど……窯ひとつの差でこれだけ?? ふんわり加減も全然違うんだぞ!?」


「素晴らしいですわ、お姉様!!」


「ですなあ?」



 私も食べてみたが、中のふんわり加減と甘さがそれぞれ全然違っていた。考えられるのは、焼きの工程。熱の通り具合かもしれないが。



「やっぱり、ロティがあってこそですね? でも、窯でこの出来は合格点ですよ? あとは、指導出来る人が増えれば。少しずつ広めていくのは大丈夫だと思います」



 しかし、千里レベルのパン職人を増やすのは、現代社会でならともかく。【枯渇の悪食】で一度は失った料理技術レベルでは、結構難しい。


 孤児院でのお菓子作り教室でも、まだ知らない子供達には教えるのは簡単であっても。


 ある程度、知識と技術があるとそれらが邪魔をしてしまう。今回お師匠様でもそうだったから。



「ふむ。儂の弟子と言う肩書きで、保険はつくが良しとしないバカな連中も多い。じゃが、信頼出来る人材はいくつかアテがある。彼らにも指導出来るのなら、この国の食文化は変わるじゃろう」


「……アーネスト様。まさか、私の師匠に??」


「うむ。彼奴なら、チャロナちゃんの技術を悪用にはせんじゃろ?」


「……そうですね?」



 またなんかとんでもないワードが出て来たんですけど!?



「シェトラスさんの、お師匠様って」


「宮廷料理人の長。アーネスト様とは飲み仲間でね? もし、チャロナちゃんの指導でこれまでのパン作りを改善出来たら……たしかに、この国を筆頭に広まると思う」


「そ、そんな凄い人にですか!?」


「彼奴も儂同様に、ハーフエルフでの? 肩書きは宮廷料理人ではあるが、パン作りだけはダメなんじゃ」



 たしかに。シェトラスさんやエイマーさんが作った、あのパンは庶民よりはマシでも。モチャモチャで食べにくいパンだった。


 それを改善出来れば、きっと大きな発展に繋がるだろう。



「うむ! 今日の食パン、ちょっと持ち帰っていいかい? 俺も一緒に掛け合うんだぞ!」


「わ、わかりました」



 なので、粗熱を取る間に。アイリーン様のも含めて、お土産用の食パンを一斤のブロックで仕分けたのだった。

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