115-2.第二回パン教室②


 発酵はボウルに入れたままの生地の上に、濡れ布巾を置く。


 ここは、前回シュライゼン様とカイザークさんだけに教えた方法と同じだ。エリザベート様にも、発酵の置き方と今は湿気と熱気が多い夏なので、気をつけて欲しいとも伝えて。



「では、空いた時間を利用して。ジャムなどを作っていきます!」


「あら、ジャムを?」


「はい! パンに塗るだけじゃなくて。パンにも挟む具材を作るんです!」


「まあ、そうなの?」



 全部を揚げパンにするのももったいないし、エリザベート様の服や手を汚すのもいけない。なので、普通のコッペパンサンドも作る予定だ。


 小豆の方は、事前に作っているので餡子は省略。


 ジャムに関しては、エリザベート様の方が得意なのでいちごやブルーベリーはお任せして。シュライゼン様には牛乳パンの時も作ったバタークリーム。カイザークさんには、クリームチーズを作っていただく。


 私の方は、まだカレーが残っていたので。それと一緒に挟む卵サラダやポテトサラダを作っていく。シェトラスさん達には、時間があるので手作業でのホイップクリーム作り。



「出来た具材から、私の無限∞収納棚に入れちゃいますね!」



 エリザベート様の疑問はもちろんだが、ちょちょいのちょいで、収納棚に入れるとあれだけあったボウル達が消えてしまったのだ。それを、ちゃんと収納棚にあることを証明するのに、ステータスのディスプレイを彼女に見せれば納得してくださった。



「素晴らしい技能スキル……いいえ、異能ギフトね?」


「あの……エリザ様も異能をお持ちだとお聞きしましたが」


「そうね。……枯渇の悪食で失われたレシピを一部でも再現出来るだけ。【豊穣の恵ファート・シャイン】と言うのだけれど、あなたの持つ異能の違いだけで大したモノではないわ」


「そ、そんなことありません!」


「? チャロナさん?」


「えと……エディ様にお教えなさった、先日いただいたケーキは本当に美味しかったです! ご自分を謙遜なさらないでください」



 異能の善し悪しはあれど、長い年月を経て培ってきた技術は簡単には追い越せない。


 私だって、前世の記憶を蘇らせなければ、異能もロティも手に入らなかった。それを、エリザベート様の両手を握ってからしっかりと伝える。


 不躾な対応にも、エリザベート様は嫌な顔することなく、むしろとても驚いていらっしゃった。



「すごいこと……かしら?」


「はい! この世界唯一の、枯渇の悪食以前のレシピを所持していらした証拠です!」


「ふ、ふふ。嬉しいわ」



 笑顔になってくださった、エリザベート様のお顔はとても輝いていらっしゃった。私のような庶民の言葉でも、お心に届いたんだな……と嬉しくなって、具材の用意が出来たら次は分割だ。


 生地を切る作業には、エリザベート様とカイザークさんに。私はシュライゼン様と丸めに集中する。


 そこそこ期間が空いたとは言え、一生懸命練習なさったシュライゼン様の手つきは、初回に比べたらだいぶマシだった。


 まだ少し力が強いのでそこを注意してから、全部の生地を丸めていき。ロティの発酵器ニーダーポットで冷やすのに鉄板を入れたら、やはりエリザベート様に驚かれた。



「そのまま、形を作るわけではないのね?」


「はい。生地を休ませるのと、形を作る成形の工程をやりやすくするためです。冬場だと、あまり冷やさなくても大丈夫ですが」


「そう」



 と言うことで、一度休憩を取ることになり。公爵家では最近も気に入られている摘みたてハーブのアイスハーブティーで、全員喉を潤すことになりました。ロティにも、グラスを渡して飲んでもらった。



「うむ! すっごく美味しいんだぞ! チャロナ、これはどうやって作るんだい?」


「そうですね。出来るだけ新鮮な緑色のハーブ。ミントやレモングラスと言うものですが。それらを水に浸して一日くらい置いておくと出来ます」


「んん! すっごく簡単なんだぞ!」


「けど、欠点は風味が水に移りにくいので。時間が必要なんです」



 今飲んでいただいているのも、昨日エピアちゃんとエイマーさんと摘んだものを銀製器具シルバーアイテムにあったプラスチックポットに入れて作ったものだ。アイスティーもだけど、茶葉が水に移るのにはどうしたって時間がかかる。


 私には、時間短縮クイックがあるけれど、こう言うのは手作りでも十分美味しいから。



「清涼感があって、普通のハーブティーよりも飲みやすいわ。チャロナさん、これのレシピ。教えていただけるかしら?」


「はい。おかえりまでに、紙に書いておきますね?」


「ありがとう」



 そして、お茶請けにも。バターたっぷりのシュガーラスクを作った。少し時間を置きすぎた食パンや丸パンで作っているが、揚げたのよりもライトで食べやすいので、サイラ君達悪友トリオにも人気だ。



「うむ。美味しいですね? カリカリのパンにバターの風味とたっぷりの砂糖。これは砂糖を漬け込むのですかな?」


「いいえ。ちょっと乾燥しがちなパンを選んで、バターを塗ったところにたっぷりのお砂糖をまぶして。それを窯でカチカチになるくらい焼きます」


「ほう! 古くなりがちなパンの、新しい発想……いえ、チャロナさんにとってはそうでもないですが」


「けど。作り方は私もパン職人を経験してなければ、覚えられませんでした」


「左様ですか」


「あと、今日作るパンの仕上げとも似ているんですが。あえて、油で揚げてしまったところにたっぷりのお砂糖を振りかけるだけでも出来ます」


「「おお!」」


「まあ、美味しそうね?」


「じゃあ、仕上げの際に。そちらもお教えします」


『チャロナはん、パンの耳が大量にあるでやんす!』


「おk。それで作りましょう?」



 作る工程も増えたので、次はいよいよコッペパンと丸パンの成形だ。

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