113-4.第一回鍋パーティー②(それぞれの視点)






 *・*・*(エスメラルダ視点)









 カイル様の合図があってからは取り合い合戦……のようにはならず、部署ごとの長がよそうことになった。これは事前にチャロナ姫様の提案でそうすることになった。


 たしかに、食い盛りの連中ばっかりだから寄ってたかってくらいは予想がつく。なら、あたいも厭わないねぇ?


 まずはあたい、次に次長から順に。同じ量の具材がわんさかつまっている鍋からレードルで具材を大きめの深い器によそい。


 全員に行き渡ってから、フォークでまずカイル様も真っ先に口にした、あたいら特製のウィンナーにかぶりつく。



「はふはふ、うっま!?」



 ただ、スープに煮込んだり焼いたり、パンにくるんで焼いたのともまた違う。


 辛味はあるが、くどくなくてウィンナーに使った香辛料とも喧嘩していない。パリッとした食感の後にやってくるスパイシーなカレーの香りがたまんない!


 こいつは、姫様にカレーに使う香辛料について是非とも聞きたいねぇ? ウィンナーに活かせそうとも思うんだが?



「うっま、この卵が入ってんのめちゃくちゃうま!」


「んー?」



 サイラは、姫様がヌーガスからもらったもので作った食材に興奮しているらしい。


 あたいもそれは気になっていたので、そっと袋になってるそれにフォークを向けるのだった。







 *・*・*(ライオネル視点)








 ……美味い。


 どれもこれも、実に美味い!


 姫様がお作りになられた、スープ煮ともまた違う鍋、という料理。


 味付けがカレーなのは匂いですぐにわかったが、なんというか風味が違う。


 多分、ベースの味付けが違うのだろう。何で作られているのかは、料理をほとんどしない俺にはさっぱりだが。


 だが、あぶらあげという食材は実にカレーと絡んで美味かったが、俺は野菜の虜になっていた。


 スープをよく吸った、にんじんにナス、玉ねぎもだが。


 ホロホロと口の中でほどけていくジャガイモ。


 これが実に美味くて病みつきになり、おかわり合戦では長と言う権限ですぐに器に入れる程だった。



「「「「ライオネルさん、ジャガイモ取りすぎ!!」」」」


「……いいだろ」


「「「「けど!!」」」」



 仕上げのリゾットと言うものも気になるが、俺は最後までジャガイモの虜になってしまっていた。






 *・*・*(ゼーレン視点)









 これはこれは、実に美味ですのお。


 チャロナさんマンシェリー姫様が手ずからお作りになられたこのカレーをベースにした鍋という料理。


 溢れんばかりの具材はスープの味を程よく吸い上げていて、ヌーガス女史のお持ちになられたあぶらあげというのも大変美味ですが。


 私はスープに溶けきらないでいるトマトが絶品でした。


 酸味はほとんどなかったですが、蕩けるような食感がジャガイモに劣らず、私の舌をうならせてくださいました。


 世の中には、数多の食事があると【枯渇の悪食】で、その多くは失われてしまいましたが。


 姫様の持つ異能ギフトで、それらを可能になさっていらっしゃる。


 将来が、実に楽しみですなあ……。






 *・*・*(ウルクル視点)









 うむうむ、うむうむ。


 あの姫の生み出す美味は、実に美味いのお?


 昨日の最高神様方の食事風景は遠巻きに見ていただけだったが。


 昨日の昼に同じく食べさせてもらったドリアとやらも実に美味であった。


 加えて、前々から姫に聞かされていたこの鍋という料理の美味なることよ!


 特に、野菜もだが。妾はヌーガスが持ってきたあぶらあげを使ったものが実に気に入った。


 袋のようにしたものの中に、卵がまるまる一つ閉じ込められて、カレーの味もだが昆布などのベースの旨味などを吸い上げて。見た目もぽってりと愛らしい。


 かなり熱いので、小さくしか頬張れぬが、誠に美味よのお?



「美味しいねー、ウルクル?」


『うむうむ、美味よのお?』



 それに、普段の食事とは違い、同じ鍋を囲むなどこの世界では野営以外でほぼあり得ない。貴重な経験になったものよ。






 *・*・*(メイミー視点)







 あらあら、まあまあ。


 本当に、チャロナちゃんマンシェリー姫様のお作りになられるのはどれもすごく美味しいわ。


 このカレーの辛さも、旦那様が辛いのをお得意とされていないから食べやすい辛さに仕上げているし。


 お肉もだけど、お野菜もカレーのスープを吸い込んでとっても食べやすい。


 ただし、飛び跳ねの汚れには注意しなきゃだから、白の多い私達メイドには少し大変だわ。


 食べる子はよく食べるし、副メイド長のアシャリーとクスクス笑い合うしか出来なかったわ。



「これならサリーちゃんでも食べられるんじゃなーい?」


「そうねー。あの子も辛いのダメだから」



 それとは別件で、我が夫のギフラ様から最近になって魔法鳥を飛ばされたのだった。


 王宮の事情などにより、彼の祖母が隠居生活をすることとなり、私があの屋敷に戻れるかもしれないと。



(……けど。姫様にもしものことがあったら)



 以前なら頷けただろうに、私は悩むことしか出来なかった。

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