【ゾロ目記念SS】出会う直前の出来事







 *・*・*







 いない……。


 今日も、見つからない……。


 いったい、いったいどこへ……?



「なーんで見つからないのよぉおおおおおお!!!!」



 あたし、マックス=ユーシェンシー。


 ちょっと訳有りのぴっちぴち二十歳な、ソロの冒険者。


 少し前までは、ある一行とパーティーを組んでたが。メンバーの一部が引退をすることになり、まだ生活に縛りを課せられていないあたしは、一人で冒険者を続けていた。


 ある目的を成し遂げるために。



「今日も見つからないわぁ……。ま、冒険者になってから一行に見つからないし、仕方ないわよね〜?」



 無理もない。


 手がかりは身体的特徴も、ごくわずかとされているもの。


 あたしとは、そう年が離れていない。行方不明になっている祖国のお姫様。


 生きてたら、たしか十六歳だったわね? 成人の儀は済ませているかどうかってくらいだけど。


 あたしは自国のある伯爵家の嫡男で、将来は親父の爵位を継ぐ身よ? 今は自由にさせてもらってるけどー?



『……マスター。誰もいない荒野だからって、その言葉使いはあかんでやんすよ?』


「うっさいわね、レイ」



 影から、銀毛の虎が出てきた。けど、言葉を使う精霊の類で、ちっさい時からのあたしの相棒。


 口うるさいのが難点だけど、良い奴よいい奴。


 たしかに、ソロ活動している冒険者だけとは言え、魔物(モンスター)達が寄って来ないとは限らない。


 特に、魔物達は甲高い声を苦手としているのが多い。


 けど、あたしは一応ノーマルよ? 理由あって、ひとりとか気心知れた相手にはこの口調でいるけどー?



『……マスター。さっそく魔物のお出ましでやんすよ?』


「マジー?」


『大マジ』



 面倒くさいけど、魔物討伐は食料調達や素材は金になるし、悪いことじゃあない。


 とりあえず、背負ってた戦斧(バトルアックス)を持ち、レイが唸ってる方向に構えた。


 そして、程なくして。





 グルァアアアアアアアアアアアア!!!!!






 出てきたのは、あたしの体格を軽々と超えるくらいのでっかい三つ角の剣歯虎(サーベルタイガー)。


 冒険者ランクD以下でも殺されて当然の対象ね?


 ま、あたしはこの歳にしてランクSSだから?


 パパーっと倒せるんだーけーどー?



『グルルルルゥ!!』



 レイも気合い十分って感じね?


 あたしも標的にさてちゃったら、倒されるわけにもいかないわ。


 今日は、愛しい愛しいエイマーに会いに行くべく、元パーティーメンバーで爵位を継いだ奴の屋敷にも行く途中だもの!



「はっは! お前をミンチにしてやる!!」


『マスター、ミンチにしたら素材回収出来ないでやんすよ……?』


「ものの例えよ、例え!」



 とにかく、威嚇も兼ねてレイの氷結魔法を繰り出して、奴を氷漬けにしてぶっ壊す予定ではいたけど。


 さすがは高ランクの魔物。


 同じく高ランクの精霊であるレイの魔法を俊敏に避けるのは、やるわねー?



『マスター、とりあえず氷結を繰り返しておけばいいでやんすか!?』


「おうけい、おーけー? それでいいわよ、けどこいつの特性ってたしか?」



 と推測してたら、炎の球(ファイヤーボール)らしき魔法が飛んできたので、レイと一緒に慌てて避けたはいいんだけど!?



『うぇ!』


「ぺっぺ!? 泥被せたわねぇ!?」



 せっかく綺麗にしたままで、エイマーに会いに行きたかったのに!


 もう、許せないわこいつぅううううう!!!!



『ま、マスター??』


「俺を本気にさせたなあああああああ!?」



 そこからはもう、無我夢中だった。


 奴が前足で泥をかぶせてくるのを避けずに立ち向かい、得意の雷の魔法をいくつか浴びさせ、首根っこを仕留めて終わらせることが出来たんだけど。



「…………は、腹減った」


『マスターぁああ! だから、称号あるのに本気出しちゃぁあああ!!』



 肉や素材の回収はなんとか出来たんだけど、あとは巨大化したレイの背中に乗って。


 元パーティーリーダー、カイルキア=ディス=ローザリオンのいる屋敷まで乗せてってもらったわ。



(あーあ、またエイマーにやっかいになるわねぇ?)



 体清めなきゃとか色々浮かんだりもしたけど。


 まずは、第一に。究極に減った腹をどうするかで頭がいっぱいになってしまったのだった。

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