113-6.待ちわびる(シュライゼン視点)
*・*・*(シュライゼン視点)
ん、んんん!
なんだか、すっごくすっごく悪い予感がするんだぞ!
強固派の緊急事態とかではない。
我が妹である
明日は少しぶりにパン作りを習いに行くんだが。
いやはや、エリザベート殿と一緒に作ることになるとは思わなかったんだぞ。
「それくらい……早く、マンシェリーに会いたいに違いない」
俺は、夜の執務をひと段落つけさせてから窓を開け、少し夜風に当たることにした。
明日もすっごく晴れそうな雲の動きだが、そろそろ雨が降らないと日照りの被害が出てしまう。雨は憂いも呼ぶが、純粋に恵の雨を農民達が求めているのを俺は知っている。
けど、雨だと視察する時とかが少し気が滅入るので、明日とかは出来るだけ降って欲しくない。マンシェリーのパンを食べる時は、出来るだけ天気がいい方が嬉しいからね!
それに、明日はエリザベート殿もやってくるのだ。ご老体に鍛えていない方を同行させるのは大変だから、あちらは馬車でカイルの屋敷に来るだろうが。
「……出来れば、涙を見せないで欲しいが」
それは無茶かもしれない。叔母上であるエディフィア殿は何度か会っているので堪えたらしいが、その母君であるエリザベート殿は初めてだ。
自分の姪の子供を、しかも姪の生き写しくらいの少女の姿を見て、涙が出てこないわけがない。
「どうなるかも。明日次第だが」
明日はどんなパンを教えてくれるのだろう。定例会以来なのに、もうひと月以上も会っていない気がする。強固派の捕縛などに明け暮れていたせいで、忙しさに目が回ってしまったから。
そして、最高神からのお告げ。
あれのお陰で、大部分の改革は行えたが、根深いところはまだ取り払えていない。いったい、巣食っている連中はどこにいるのか。うまく、神からの罰を逃げおおせたとは思えないが。
「意外と、全員若返させられて〜とか?」
その予想が当たっていればいいのだが、ミュファン達に頼んだ報せはあれ以降特にないでいた。
そんな簡単に捕縛出来れば、今までの苦労はなんだったのか、とか。父上やおじい様達が嘆く意味がなかっただろうし。
とりあえず、適当に夜風に当たってから窓を閉めると、扉を軽くノックされた。
「誰だい?」
「シャルロッテですわ」
「シャル!」
婚約者の来訪に、俺は嬉しさを隠せずにすぐに招き入れた。夜を少し過ぎたとは言え、男の部屋に来るとは。執務室だからって、あんまり良くないよ? と告げると、彼女は軽く腰を折った。
「明日、姫様のところに行かれると」
「うん。じいやと一緒にパン作りをしにね?」
「頑張ってくださいましな。お菓子作りとは違い、重労働とは聞いていますが」
「実は、エリザベート殿も参加するんだ」
「まあ! エリザベート様が?」
母上より前の、社交界の華。
などと呼ばれていたエリザベート殿の美しさは、シャルの世代にも未だ伝わっている程だ。
俺も、立太子の儀式以来会っていなかったが。年老いても尚華のある美貌だった記憶がある。
「彼女も
「まあ、そうですの?」
「んー、俺も直接聞いたわけじゃないからね? シャルは応援してくれるために来たのかい?」
「はい。……それと、最近シュライゼン様とあまり、その……お話出来ませんでしたので」
「ふふ。追い払ったりしないんだぞ?」
「もう……」
けど、イチャイチャしたくても俺は明日が早いので。
何度か軽くキスしてから、待っている彼女の家の馬車の前まで送り。
自室に帰ってからは、俺は明日のために色々と準備することにしたのだった。
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