105-1.遠乗りデート
*・*・*
昨日の朝のこともあり、朝はしっかり寝てから起きて食堂に行ってご飯を食べ。
お昼前にはお屋敷を出発するのと、カイルキア様がお部屋まで迎えに来てくださると言うことで、身嗜みを気にしながらロティと待機して。
そして、部屋の時計が11時をさした辺りで、ノックが聞こえてきた。
「は、はい!」
「俺だ。入って大丈夫か?」
「はい! もちろんです!」
うわ、なんかバカっぽい返事しちゃったかもと思ってももう遅くて。
扉を開けたカイルキア様は綺麗な乗馬服に身を包んでいた。お世辞抜きに、超絶カッコいいよぉ!
「……そちらも準備は出来ているようだな?」
「は、はい!」
今朝方、メイミーさんと
髪も少しハーフアップにまとめられて、と可愛く仕上げていただいた。
ちょっと褒めてくださるかなあ、と期待してたけど。特になくて少し口元を緩められただけだった。けど、悪くないよねと思われただけでもよしとしないと、と座ってた椅子から立ち上がった。ロティは既に影の中に潜り込んでいる。
「では行くか」
「はい」
けど、デートとは言え恋人同士じゃないから手を繋ぐわけでもなく。
並んで一階まで歩いているとすれ違う使用人の皆さんは全員にこにこ笑顔を返してくれた。なんでかな、と思っていると玄関に到着して。
そこには、ゼーレンさんが綺麗な黒い大きな馬の手綱を握られていた。
「ご苦労だな、ゼーレン」
「いえいえ。遠乗りを楽しんで来てください。お荷物は……?」
「ほとんど俺の
「左様にございますか」
「ああ。チャロナ、少し待っていろ」
「は、はい!」
そう言って、カイルキア様は軽々と跳躍して魔法鞄を落とすことなくお馬さんに飛び乗り。私はそんな身のこなしなんて出来ないので、ゼーレンさんがあらかじめ用意してくださった台に乗ってカイルキア様に引き上げてもらう。
「よし、いくぞ」
と言ったら、片腕を私の背に回してご自分の足の間に乗せられてしまった!
「た、高い!?」
初回の、気絶してた時は知らなかったが。ある意味人生初の乗馬だから、馬の高さが人間以上あるとは言え、こんなにも高い位置になるとは思わず。
なので、びっくりしてカイルキア様の服を掴んでしまった。
「す、すみません!?」
「いや、いい。落としはしないがしがみついていろ」
「は、はい!」
「では、お気をつけて」
「ああ。夕方までには戻ってくる。ジークフリート、行くぞ」
「ひひーん!」
お馬さんの名前はジークフリートとかっこいい名前なようで、主人であるカイルキア様が声をかけると高らかに声を上げた。
そして、私のすぐ横にあるたくましい腕の先にある手綱を操り、ジークフリート君はゆっくりと脚を動かし始めた。
「う、うわぁ!」
跨ってはいないが、ジークフリート君の上に乗っていることに変わりないので。振動もダイレクトに伝わってくるし、段々と早くなっていくのが少し怖かった。
お屋敷の敷地内はまだゆっくりだったが、道に出た途端、カイルキア様が声をかけてくださった。
「少し早くする。しっかり捕まっていろ」
「は、はい!」
「ひひーん!」
たしかにこの速度のまま、目的地に向かうのは遅くなってしまう。
カイルキア様の服にしがみつきながら頷けば、カイルキア様はジークフリート君に声をかけて足踏みを駆けるくらいに速くさせた。
風が顔に当たるが痛くはない。けど、さっきとは違って段違いに早い!?
「ひゃ!?」
「すまないが、しばらく我慢してくれ。昼前には着きたいのでな」
「ひ、るまえ?」
「お前には楽しめる場所に連れて行こうと思ってるからな?」
「楽しめる……?」
そう言えば、遠乗りに行く以外特に何をするかも聞いていない。お弁当の準備はしてもいいと言われてたから、ピクニックの感覚ではいたけど。
何か、楽しい出来事でもあるのだろうか?
けど、ここ一帯はすべて公爵様であるカイルキア様のご領地だ。無断で誰かが催し物をするなんて出来ないはず。
とりあえず、馬車とは違って酔うかもしれないとじっとしばらく。
途中木々の多い道にも入ったが、ジークフリート君は難なく駆けて行き。開けた場所についてから、カイルキア様にぽんぽんと肩を叩かれた。
「着いたぞ?」
「ふぇ?」
「ひひーん!」
到着したらしい場所と言われて、顔を上げてみれば。
開けた場所は原っぱは当然だが、垣根の部分に木苺がたくさん実っていた!
「す、っごいです!」
「ここはこいつと時々来る休憩所のような場所だが。チャロナも楽しめそうだと思ってな。手製の弁当をすぐいただくのもなんだが、少し休んでから狩らないか?」
「ありがとうございます!」
たしかに、お話もだけど。自分が楽しめる場所を教えていただけるだなんて。嬉しくて、口元が緩んでしまうと、見上げた先にあったカイルキア様の口元も緩んでいた。
と言うか、目の前に微笑んだ好きな人の顔があって、体勢的に目を逸らすことしか出来なかった!
「……さて、降りるか。俺が引っ張るから少し待っていろ」
「は、はい!」
たしかに勢いで降りたら足をくじいてしまうかもしれないので、大人しく待っていたらさっと降りたカイルキア様の腕が両脇に挟まれた。
「ふぇ?」
「じっとしてろ」
と言われたら、はい、わかりましたとじっとしてるしか出来なかった!
仮にも、使用人とは言え女の子の脇に手を差し込んで子供のように抱き上げてしまうんですか!?
たしかに、行きと違って台とかがないから降ろしてもらうことしかできないけど……カイルキア様よりは小さくたって成人した女なのに!
と文句を言おうにも、好きな人に触れられているのでカチンコと固まっているしか出来ませんでした。
「?……どうした?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
「そうか。ほら、地面に降ろすぞ?」
たしかに年の差はあるけど、私なんか子供と同じなのだろうか?
そう思うと少し哀しくなってきたが、降ろされた場所に群生していた木苺が目に入ると落ち込んでた気分が和らいでいった。
「うわ……うわー、木苺たくさんあります!」
「俺が持ち帰っても、シェトラス達にジャムかジュースにしてもらってただけだが。チャロナにはあのアイスが出来るだろう?」
「は、はい! たくさん作れます!」
そうして、お腹が空くまで。ジークフリート君は適当に草を食んでてもらい。私とカイルキア様は木苺狩りを始めるのだった。
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