104-4.決意(カイルキア視点)
*・*・*(カイルキア視点)
気になることが出来た。
もちろん、
明日、いよいよ姫と遠乗りに出かける日だが。少しばかり楽しみにしてたのに気がかりなことが出来たのだ。
マックスが報告してくれた、今朝方姫が泣きはらした顔で厨房に顔出ししたこと。
何か気落ちすることがあったと思われるが、夢を見た内容を覚えておらずにただ悲しくて泣き続けてただけらしい。
その事実を俺が知ったのは朝食だった。
姫は朝食を持ってくる時はいつも通り笑顔だったし、泣いた跡もないので気づきはしなかったが。無理に朝食を共にしてきたマックスが、姫に気づかれない範囲で話してくれた。
『
『……いつ、だ』
『おそらく神のせいで忘れさせられてるが……多分、王妃様の夢だ』
『……陛下も出てきたと言う夢か?』
『知ってたのか?』
『……遠乗りに誘う時に、見たらしい』
『多分、王妃様が死んだ時の夢じゃないと思うが』
『消されたのであればわからないな……』
王侯貴族に連なる者には、夢は意味があるとされているのがこの国の習わしだ。
だから、姫の夢も意味あるものだと思ってはいたが……まだ成人の儀だけでなく生誕祭をとり行うことを告げられずにいるので、そのことについては知らせられなかった。
が、今回マックスが身分を明かしてはいないが夢の意味を告げたらしい。
どうやら、二人の前世でも夢は意味のあるものとされているらしく、占いまであるらしい。
だが、今回姫が泣きはらすくらい苦しんだ結果は……俺の目の前で亡き者にされてしまった伯母上についてなのだろうか。
それならば、苦しむ理由にはなるかもしれないが。何も覚えていないのであれば、どう対処していいのかわからない。
と言うよりも、明日の遠乗りに出かけた時にそのことを話していいものか。姫は俺が姫の夢のことを知ってはいないと思ってるだろうから。
「…………伯母上」
俺は夕食後、すぐに寝付く気にもなれず執務室で余分に仕事をしていた。
が、やり過ぎてるだけで、片付ける意味もあまりない仕事を消化しているのも飽きてきたので、手を止めてから引き出しを開けた。
取り出したのは、一枚の肖像画。
姫によく似た、もう少し大人の女性。
約二十年前の伯母上だ。
「……伯母上。あなたの娘と明日遠乗りに行ってきます」
微笑んだ表情の伯母上は、今の姫を数年重ねた姿だ。
酷似するくらい、この伯母上と似た姫と、明日遠乗りに行く。
しかも、好意を抱いている女性と二人だけで出掛けるのだ。緊張しないわけがない。
「……あなたに告げた、あの約束を果たせるかはわかりませんが。姫も、今の俺を」
好いているのだと知ってはいるが、神によって色々記憶などを書き換えられてしまっている。
明日、もしや告げられずに終わるかもしれないが、神が語りかけてきた『今』ではおそらくないはず。
あるとすれば、成人の儀だろうが、その時に告げて果たして俺達の想いが成就するとは限らない。神ご自身が、何かしら策を練っているようだったからな……。
「……けど、近づきもせずに完結するなど俺らしくもない。たとえ、記憶を書き換えられても」
せめて、姫の涙を癒すきっかけになるのなら、もう迷いはしない。
俺から告げるのだ、この想いを。
もう二度と、十六年前の時のように失いたくないがゆえに。
俺は伯母上の肖像画を引き出しの中に戻して、明日のために早く眠りにつくことにした。
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