101-2.自信をつけさせても(ウルクル視点)
*・*・*(ウルクル視点)
さて、久しく来てみたはいいものの。
例の王女、マンシェリーことチャロナではあったが。
我らが最高神であられる主神の神々のお二方の手によって、これまた例のカイルキアとはすぐに結ばれぬようにされてしまってはいるが。
はてさて、当人は色々と自信を持てずに気持ちを持て余しているどころか、諦めようとしていた。
おまけに、自身の容姿については平々凡々であると何故か認識しておるのだが。
おそらく、それについては我らが最高神の仕業であろうな?
(死んだ王妃の如く、繊細でなかなかに華やいだ
今も話しながら観察はしておるが、ヒトの子であれば十人中十人は惹きつける顔立ちではあるのに。
何故、我らが最高神はこの者に自信をつけさせていないのか。
おそらくは、転生者ゆえに、自意識過剰にならないようにさせているやもしれぬが。
それにしても、王女は控え目な性格をしているせいか、必要以上に自信を持てていないように思える。
周りがいくら励ましたところで、自信をつけさせてもすぐに違うと消極的になっておるようだが。
はてさて、どうしたものか。
これは再び、最高神のところへ行くべきか?
いやいや、もう少し様子を見るべきか。
「カレーには、パンやお米以外にも色々活用方法があるんですよ」
『ほう。どんな方法なのじゃ?』
「パスタとか、お鍋とかに」
『鍋とはなんじゃ?』
道具で使うモノ自体はわかるが、料理というのはよくわからぬ。
おそらく、転生前に知っていた料理であろうが。
いったいどんなものなのか?
興味が湧いて仕方がないのじゃ!
「昆布と鰹節などで出汁を取ったお湯に、野菜やお肉を入れて煮込んだ料理なんです。カレーのお鍋には残った汁を使って、締めのカレーチーズリゾットを作ったりとか」
『ふむふむ。この前教えてもろうた食材を使ってか? 実に美味の予感がするのぉ?』
「美味しいですけど、ちょっと足りない材料があるんですよね……」
『なんじゃ?』
「油揚げという豆を加工して作った食材です」
『あぶらあげ?』
『お揚げしゃんでふううう!!』
『おあげとな?』
豆の加工したモノとは言っておるが、それも転生前の異世界での食材か?
質問で返せば、王女は嬉々とした表情になって説明してくれたわい。
「大豆という豆で、お豆腐というものを作るんです。そこから、さらに薄切りにしたお豆腐を油で揚げちゃうんですよ。これがこの前のお味噌汁以外にも色々と使えて」
『ふむふむ。興味深いのぉ』
「お味噌があるので、ひょっとしたらお豆腐や油揚げもあるかもしれないですけど」
『ふむ。誰か知っているのがおるのか?』
「使用人棟の、ヌーガスさんです」
『ほう、あの者か?』
快活で、気立てもよく使用人達に慕われている女か?
あの者が、ミソ以外にコンブやカツオブシとやらも調達してきたらしい。
なら、聞きに行かない手段はない。
『チャロナ。気になったら、すぐに聞きに行こうぞ!』
「い、今からですか?」
『気落ちしておる時間に使うより、もっと時は有意義に使おうぞ。妾も行こうぞ!』
『でっふ、でっふぅう!』
この者の将来は、どの道ほぼ確定されたモノになっておるのじゃ。
妾からの助言を聞いて、少しばかり持ち直してもおるようだしの?
ならば、今は目の前のことを優先してもバチは当たらん。
チャロナの腕を引いて、使用人棟の方へと向かい、ロティも従えて行けば。ヌーガスは管理人室の中でのんびりと過ごしておったわい。
「あんら。珍しい組み合わせだねえ?」
「こ、こんにちは」
『こんにちはでふううう!』
『息災か。ヌーガス』
「ウルクル様もどうしたんだい?」
『何、主に聞きたいことがあってのお?』
「あたしに?」
「えっと……ヌーガスさん。豆腐とか大豆って、ヌーガスさんの故郷にありますか?」
チャロナが先だって聞くと、ヌーガスは少し目を丸くしたのだった。
「え、あるけど。あれってスープやミソ作り以外に何か使えるのかい?」
「えっと……豆腐の薄切りを油で揚げたの、とかは?」
「うーん。それはないけど……美味いのかい?」
「煮込み料理や、お米と一緒に食べると美味しいんです」
「ほーう。そりゃ面白い!」
『妾もなくての。チャロナなら、美味なる馳走を作れると言うのじゃ』
「へ〜? それがその煮込み料理とやらかい?」
「はい。お味噌汁にも使えるんですけど……」
「じゃあ、1回目は手取り早くミソシルがいいねえ? 少し時間がかかるが、あたしが取り寄せておくさ」
「ありがとうございます!」
ふむ、これでまたチャロナの新たな美味が食せることになったが。
その分、妾も最高神に確認しに行こう。
チャロナとカイルキアの行く末をどうするのか。
妾はチャロナとロティに帰る事をそのまま告げてから、例の狭間にある空間に飛んだ。
『妾ですぞ』
「やあ、ウルクル。今日はなんだい?」
狭間に行くと、女神は眠りにつかれて男神の方は腕に小さな赤児のような神を抱えていらした。
おそらくだが、生まれたばかりの主神に違いない。
『本日は、貴方様に伺いたいことがありまして』
「答えれる範囲なら」
やはり、そう来られましたかのぉ……。
『例の王女。その番に予定されてる今の雇い主。誠に、先の日に番わせる予定でいらっしゃるのですか?』
「……ああ、それはそのつもりだ」
「ねーね?」
「うん、あのお姉ちゃんだよー?」
『であれば。王女に自分の容姿について認識させないのは?』
「……自信を持たせ過ぎてはいけない。過去の多くの失敗者達のようには」
『失敗者?』
「枯渇の悪食で失われたレシピを復活させようと試みたのは、何も今回が初めてじゃない」
『なんと』
それは妾も知らなかったが……あれだけ色々うまく適合した調理人は、先も昔も知らない。
ならば、より一層今回はうまく行くように裏で動いていらっしゃるというわけか。
「絶対に成功させなくては。このシアを主神にすべく、あの世界を生み出すのも難しいからさ」
『その……女神を?』
「俺と*%#の孫とね? あの世界でも色々あるようだけど、こっちでもうまくいかせないと……食の復活は難しいから」
『そのために、番うよりも先に食の復活を?』
「ま。それも時間の問題だけどね? ひと月後の成人の儀とかで、どのみちチャロナとカイルキアは結ばれるだろうから」
『今ではいかんですかの?』
「時期が悪い。強固派を根絶やしにさせるには、都合が悪い」
『あの阿呆共をですか』
それなら、話は変わってくる。
あの阿呆共のせいで、セルディアスもだが他国でも祝福されない愛が数多くあった。
ならば、妾もこれ以上は言うまい。
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