96-5.神は何をしたい?(シュライゼン視点)






 *・*・*(シュライゼン視点)









 お兄ちゃんはプンスカプンなんだぞ!


 なんだったんだい、あれは!


 ハプニングとは言えけしからん、いや……グッジョブだったんだぞ!


 けども、帰ってきてからのカイルの様子がおかしいんだぞ!



「ど〜したんだい、カイル〜〜?」


「……別に」



 執務室に戻ってきてからのカイルは、俺やリーン達の質問攻めを回避して、ほとんど無表情でもくもくと仕事をこなしている。


 あの衝突キスがあったからにしては、おかしいんだぞ!



『……おかしいですわ、シュラお兄様! あの出来事がありましたのに、お兄様がだんまりだなんて!』


『うむ、おかしいと思うんだぞ! だって偶然とは言え、想い人である我が妹と口づけまでしたのに!』


『だから、ではありませんか?』


『『え?』』


『カイル様のことですから、照れていらっしゃるのでは?』


『カイルが?』


『お兄様が?』



 けれど、我が婚約者の言うこともまったくのハズレではないと思う。


 親族のキスと恋人とのキスはまったく違うのだから。


 あのカイルも、まさかマンシェリーとのキスに照れてたりして。


 なら、とそーっと耳元まで近づいてみると。


 見事、耳が赤く染まっていた。



「ははーん!」


「……なんだ」


「シャルの予想どおり、君は我が妹とのキスに盛大に照れているんだぞ!」


「! うるさい!」


「おっと!」



 至近距離とは言え、爺やに仕込んでもらった体術を会得している俺には簡単に避けれた。


 そして、こちらを向いた従兄弟は今までにないくらい盛大に顔を赤くしていたのだった。



「あの後つけてきたのか!」


「ここからでも十分見えたんだぞ?」


「ちっ」


「カイルお兄様、従兄弟とは言えシュラお兄様は皇太子殿下ですわよ。その方に舌打ちなどと」


「今は従兄弟だからだ!」



 まったくまったく。


 我が従兄弟ながら、こんなにも可愛らしい一面もあるとは!(見た目は可愛らしくないけども)


 マンシェリーの方はどうなっているか気になるが、マックスが見てくれているし大丈夫なはず。


 しかししかし、これは実に楽しくなってきた!



「いい傾向じゃないか。母上とのことがあって、君は喜怒哀楽の感情をほとんど表に出せなくなっていたのだから」


「!……しかし、拒否された」


「「「「え?」」」」


「姫には、あれは事故だと否定されたんだ……」


「なんてことを言うんだい、マンシェリー!」



 我が妹とはいえ、今はしがない使用人の一人といえども。


 想い人であるカイルと、いきなりとは言えキスができたのに。


 なんで、おっちょこちょいで起きたからってそれを否定するんだい!


 だから、カイルは照れてても仕事をこなしてたわけか!



「ですが。王女殿下の思われるお気持ちもわからなくないですわ」


「シャル……?」


「わたくしも思いますわ、お姉様」


「リーン?」



 そう言えば、二人はカイルとマンシェリーを散歩に行かせる前に少しだけ話をしてたらしいし。


 何かあったかもしれない。



「わたくしは今日初めて王女殿下とお会いしてお話させていただきましたが。殿下は、今の立場をよく考えられてカイル様への想いを抑えられていましたわ。ご自分はいくらカイル様をお慕いされていても」


「……姫、が?」


「はい。そこを踏まえますと、ご自分に自信をお持ちではないからですわ。ご容姿についても自信がなく、カイル様には相応しくないと。けれど、今日わたくしとシュライゼン様とのことを話しましたら、やっと本音が出たのです」


「ですわ。カイルお兄様のことがどうしようもないくらいにお慕いされていると」


「むー。それなら、あの時倒れたのは……」



 最高神によって記憶は色々いじられているが、おそらくはマンシェリーが勇気を出してカイルに想いを伝えようとしてたかもしれない。


 カイル自身気付いているがわからないが、今言ってもいいものか。



「ですから、少しずつお兄様と王女殿下の距離を近づけようとわたくしとお姉様はお散歩にお誘いさせるべく準備をしましたの。なのに、お兄様!」


「な、なんだ?」


「わたくしならともかく、武の心得のない王女殿下にいきなり剣の稽古をさせますの?」


「……剣については以前に少し誘ったからだが」


「だと申しましても、か弱い淑女でいらっしゃる殿下になんてことを!」


「……お前が言えるのか?」


「わたくしはわたくしですわ! ね、レクター様?」


「まあ、もう諦めの境地だけど」


「まあ!」



 リーンはリーンだけど、マンシェリーのことをきちんと考えてくれてるんだぞ。


 たしかに、カイルはおしゃべりが得意ではないけど、だからっていきなり稽古に誘うのも云々。


 とは言っても、あれをしてなければあの衝突キスはなかったわけだし。



「なら、君自身はいつ告げるんだい? 我が妹の想いを知ってる身として、自分が姫を想っているのなら……妹にこれ以上不安を抱かせることになればどうするんだい?」


「……しかし」



 おっと、これはもしや。


 俺が気づいた辺り、最高神の計らいに気付いているのかもしれない。


 とは言え、それをリーンとシャルに聞かせるわけにはいかないので。


 二人を無理に退室させて、男三人で語らうことにした。



「これなら、まだ話してもいいと思うんだぞ。君達の想いを告げ合うのも、最高神の計らいで無理かもしれないと」


「え」


「……気付いたのか」


「でなきゃ、マンシェリーの気を失わせる意味もない」



 なら、こちらがいくら計画をしたとしても、二人がすぐには結ばれないというわけか。



(いつだ……いつまでなんだ?)



 早く結ばれて欲しい二人が手を取り合うのは、一体いつに。


 これでは、計画している成人の儀の方もやはり怪しくなってきた。


 今も何も仕掛けては来ないが、最高神は何を考えられているのかわからない。


 あの、金髪の美貌の青年やその妻はいったい何を……。



「姫が倒れた後に、俺の頭に神が語りかけてきた。今は結ばれても得策ではないと」


「「今は……??」」


「だから、シュラが告げてくれた仮の婚約者の話もしにくかった。また姫の記憶を書き換えられるのではと」


「むー、なら後見人の部分しか難しいのかもしれないね?」



 神が言うのなら、今は時期ではない。


 なら、それはいつなのかもカイルは知らされていない。


 実に歯がゆい思いを抱えなければならないが、神御自らのご考えであられるのならば、そこは深く心配しなくてはいいのか。


 なら、俺が危惧すべきことは。



「であれば、俺が策を練らなくてはいけないのはアホな強固派の連中のことなんだぞ!」


「シュラ様、まだあぶり出しを?」


「まだまだ隠れてたからね!」


「慎重にしてるのか?」


「もちろんだとも!」



 我が妹のためならば、最善を尽くすまで。


 一部の者にしか成人の儀のことなどは知らせていないし、慎重にいかなくてはならない。


 お兄ちゃん、頑張るんだぞ。



「あ〜、あと。今日の夕飯は楽しみなんだぞ。オムライスって言うんだっけ?」


「米を使ったオムレツのような料理ですよね?」


「姫の料理に不味いものはない」


「うむ!」



 とりあえず、マンシェリーにカイルが後見人のことを伝えようと三人で部屋に向かうと。


 我が妹は、マックスやシャル達に囲まれてても、少し寂しい顔をしていたのだった。

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