81-1.あんドーナツ実食②(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









「あんドーナツ、あんドーナツよぉおおおおお!」


「騒ぐな、うるさい。あと、言葉遣い」


「これが騒がずにいられないわよ! だって、あんドーナツよ!」


「まあまあ、マックスも落ち着いて。これが美味しそうなパンである事には間違いないけど」



 レクターがなだめようとしても、あたしのテンションはフィーバーよ!


 だって、前世の子供の頃はハマりまくったパンだもの!


 チーちゃん、まさしく神よ!



「まんべんなくまぶされたグラニュー糖……あー、絶対美味しいに決まってるぜこいつぁ!」


「そこまでか?」


「あんたが一口でも食ったら、ハマること間違いなしだな?」


「へー、それなら僕達も先に食べなくちゃ」



 なので、いっただきますと手を合わせて。


 包み紙ごと手に持ち、まずは目で見て楽しむ。



(見た目も、ピカイチ! 程よい大きさの……油で揚げたパンにグラニュー糖たっぷりよ!)



 粉砂糖でもいいだろうけど、グラニュー糖でもあたしは前世食べた記憶がある。


 あれは、まだOLになる前の学生時代。行きつけのパン屋でよく買ってたわ〜。


 それとよく似てる見た目のパンは、もう及第点以上!


 もう我慢出来ないので、かぶりつけば。



「……サクッとしてるが。油がにじみ出てきて」


「ドーナツって聞いたけど、もっと柔らかくて香ばしくて。周りの砂糖と中のアンコが喧嘩してないよ!」


「うめー! チーちゃん最強!」



 見事なまでの再現よ!


 あたしが、かつての前世で食べまくってたパンと同じ味。


 餡子はこっちの方が風味がいいのは当然でも、あんドーナツとしての味は格別よ。


 これに、冷たいコロ牛乳を飲めば。



「……やはり、コロ牛乳との相性がいい。この組み合わせは格別だ」


「カイルー? 独り占めしたらダメだよ?」


「! し、しな」


「今レクターが言わなきゃ、するつもりだっただろ」


「( ´・ω・`)」



 やっぱ、甘党のカイルも虜にしたわね。


 これで、本命のチーちゃんにも……と言いたいけど。本人が告げる時期を見極めているのなら仕方がない。


 仕方ないんだけど……見てて時々イライラするのよね。


 どう見ても、両想いなんだからさっさとくっつけ!って。



(たまに朝食の時も一緒になるけど……絵になり過ぎてんのよ。チーちゃんとカイル)



 コック用の服装でも、チーちゃんは可愛くて綺麗だし、カイルはカイルで時々口元を綻ばせているし。


 周りの一部の連中も気づいているはずだろうけど、応援するしか出来ないのよね。



「そういや、報告し忘れてたが。チーちゃん、やっぱ王妃様の事が気になってたようだぞ」


「! さっさと言え!」


「悪りぃって」



 んでもって。


 昨日チーちゃん自身が打ち明けてくれた事も話したわ。



「熟睡の原因は、ウル様の見解によれば。無理にロティちゃんの中からステータス値のようなのを調べようとした反動みてぇだ。それと、現世での自分自身を知りたい為だからって」


「…………やはり、避けられないのか」


「そんな落ち込むなって。俺とかウル様が今は言えないって言うのは伝えたし。あの子が知りたくても、神とかが阻んでてくれてるみてえだ」


「「神が……?」」


「ウル様は当然知ってても、あの方が何も伝えないって事は神も関係してんじゃねーかって」



 もうひと口、あんドーナツを食べながら考えてみた。


 ウル様もだけど、チーちゃんだけにしか聞こえない天の声は基本的に、神が関わってておかしくないって事を。


 それを、あの見た目幼女神様が知っててもおかしくはないし、むしろあたし達以上に知ってるはず。


 けど、何にも教えてくんないのよね。




「……ウルクル神からは、最高神と関わりが深いと言っておられたが」


「は? いつ聞いた?」


「この前の、ジャガイモのパンを食べた時だよ。実は、ラスティさんにも色々話す事になっちゃったけど……」


「……まあ、ラスティはね〜」



 いずれ、神になる異例の存在だから。


 あと、ぽえぽえほわほわに見えてても。


 あの、高位神に見初められた異質の存在。


 だから、口も自然と固いし、勘も鋭い。


 たしか、チーちゃんからもラスティとエピアには錬金術について少し知られたとも言ってたわね?


 信用も信頼できる奴だし、言いふらさないのはわかってるけど。


 カイルとチーちゃんの、婚約した事についてもぽえぽえほわほわな反応をしたでしょうね……。



「ひとまず、姫には黙っておく事に出来たのか?」


「ウル様のお陰でな。どうも、チーちゃんの出生の秘密についてはあの子のレベルが足りてないせいもあるらしい。どこでいつ分かるかものかも、わかってはいねーが」


「……時間の問題かもしれないね?」


「唯一の救い……って言い方も変かもしれないが。あの子のレベルアップには時間がかかる段階に来てる。次のレベルアップでその可能性があるのも低いが」



 なにせ、植物を急速に成長させる技能スキルがあるくらいだもの。


 以前のピザのように、劇的にPTが貯まる料理はないし。


 ほんと、悩みどころよね?



「……だが。姫自身で知った時は。問い詰められる覚悟はしておかねばな」


「そうだね……」


「こればっかりは」



 あの子が、仮に泣き喚いたとしても。


 あたし達が抵抗する理由にはならない。


 今の世界での母親を目の前で失った事を、どう受け止めるか。


 想像が出来ても、現実は違うもの。


 あたし達が、抵抗する意味なんてない。



(秘密を抱え込んでる時点で、あの子には辛い思いをさせているもの)



 けど、それはあたし達だけじゃなく、神も関わっているのなら、尚のこと今は秘密にしておかなくちゃダメ。


 あの時は、楽しみに取っといてと誤魔化したけど。


 現実は、そんな甘いものじゃないから。



「シュラにも報告を追加しなくてはいけないな」


「……それと、陛下にまで届いたら……こっちまで来そうだけど」


「あの馬鹿が一応止めているんだろう」


「そうだなー?」



 音沙汰もないって言う事は、そうかもしれないわね。


 カイルが魔法鳥で通達を飛ばした後は、あんドーナツ争奪戦になったけど。



「食い過ぎだ、カイル!」


「お前も3つ以上食べただろうが!」


「もー、二人とも口喧嘩しないの!」


「「……はい」」



 幼馴染みでも、腹黒レクターを出したら怖いの知ってるから、大人しくしたわ。

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