81-2.心配事(シュライゼン視点)
*・*・*(シュライゼン視点)
「離せ! 離せ、シュライゼン!」
「離したら、絶対マンシェリーのとこに行くじゃないか!」
「当然だ!」
「だったら、拘束は外さないんだぞ!」
今朝、カイルのとこから魔法鳥で報せが来た。
『一時的にだが、姫が昏睡状態になり。マックスが無理矢理起こしてもすぐには起きなかった』と。
それを知った、その時一緒だった父上にも当然知られてしまい、現在行かせるのを止めている最中だ。
仕事はまだまだ立て込んでいるのに、前回のような理由もなく国王を飛び出させてはいけない。
爺やも、援護して足をロックしてもらっている。
ちなみに、俺はうつ伏せで倒れてる父上の背中の上だぞ。
「なりませぬぞ、陛下。姫様の事をお気遣いになられるのはわかりますが、いきなり理由もなく飛び出されては」
「俺はあの子の父親だぞ!」
「まだ告げてもいないのに、ダメなんだぞ!」
「し・か・し!」
それでも、心配だから行きたい父上の気持ちは分からなくもないが。
本当の父親だと、今は明かせない理由をきちんとわかってて欲しいんだぞ!
俺だって、お兄ちゃんである事を告げれないでいるのに!
「今は起きて、正常な状態でいるらしいから心配ないんだぞ。行くなら、俺が」
「……お前だけずるい!」
「ずるいも何も、俺はまだカイルの従兄弟ともバレていない。依頼者の一人としてなら、不審がられない!」
「そうだとしても、お前だけ会い過ぎだ!」
「もー、父上!」
俺の方が気兼ねなく会えるのは今更だ。
兄と言う真実を伏せて、ただ雇い主となっているカイルとは友人のような付き合いだと見せかけて。
そこを、依頼人となった次第だから。
だからこそ、簡単に会いには行ける。
けど、親しくなってきてはいても、あの子が感じ取っているのはカイルの友人としてだ。
兄と呼ばせたいと茶化していても、いつ呼ばれるかもわからない。
そこは、悔しいけど、今は受け止めておくしかないのだ。
「陛下。殿下も、ご自身が兄君である事を告げてはおりませぬ。その上で、姫様とお会いになられる苦悩をお分かりいただけるはずですが」
「爺や……」
自分も、母上との真実をずっと俺達に伏せていたからこそ。
俺の気持ちをよく理解してくれている。
「…………だが、だが。まだ片手で数えれるくらいしか会いに行ってないのだ。今日くらいいいだろ!」
「そう仰いましても、政務は立てこんでいます。姫様のご快復がなされてる今は、なりませぬ」
「そうだぞ。ひとまず、俺の報告で我慢するんだぞ!」
すると、ここで窓の方から魔法鳥が飛んできた。
爺やに父上の事を任せて、その魔法鳥を取りに行くと。
開封してわかったが、カイルからだった。
「……なっ!」
「殿下?」
「……なんだ、どうした」
「た、大変なんだぞ!」
通達に書かれていたのは、とんでもない内容だった。
「リュシアの街で、例の子爵の被害にあった者から礼を言われたらしいんだが。そこで母上と似てる事を告げられたんだって!」
「なん……だと」
「でしたら、姫様は!」
「それと、昨日昏睡になった原因が。ロティに母上の事を聞いて、拒否された反動で起こったんだそうだ!」
「「何!?」」
「……けど。今は誰も告げられないのを。受け止めてるらしい」
「「( ´ω` )ホッ」」
安心は多少出来たものの。
あの子は、知りかけたんだ。
自分は今の世界で何者なのかを。
それを、いずれ俺にも聞いてくるかもしれないが。
カイルからの通達によれば、ウルクル神のお陰で事なきを得たらしい。
だから、同席してたマックスも、今は告げれないと言い聞かせているらしいが。
心は、きっと正直に知りたいと思ってる筈だ。
育ちは違えど、俺は兄だから、なんとなくわかってしまう。
「シュライゼン」
「ん?」
いい加減、暴れるのをやめた父上が爺やに言って拘束を解いてもらうと俺の方にやってきた。
「あの子は転生者ゆえに、俺達とは違った心を持っているが。基本的には、成人を過ぎた幼い女性と変わりない。聞き分けが良いのも、そこにあるだろう」
「……わかってる」
わがままをほとんど言わないのは、転生者ゆえか、今の性格ゆえか。
どちらにしても、少し哀しいんだぞ。
すべてを諦めているわけではないにしても、聞き分けが良過ぎる。
「なら、告げられずとも。兄として接してやれ。いつも自信過剰気味なお前だからこそ、あの子も笑っているのではないのか?」
「……二度しか会ってないのに」
「これでも、お前達の父親だからな」
こう言うとこで、格好つけたがりなんだから。
けど、それでこそ、父上なんだぞ。
「わかったんだぞ。今から様子を見てきて、本当に大丈夫か確かめてくるんだぞ」
「悔しいが、行ってこい」
「頼みますぞ、殿下」
「おう!」
そうして、マンシェリーの座標を固定して転移で向かえば。
到着した直後、あの子達は食堂で何か食べてたんだぞ。
「ヤッホー、チャロナ!」
「シュライゼン様!」
『ほう。息災じゃな、幼い
「ウルクル様も久しぶりなんだぞ!」
まさか、ウルクル神まで同席とは思わなかったが。
マンシェリーの顔色を見る限り、良好ではある。
今日も元気に仕事をして、おやつに何かを食べているようだった。
「なーに食べてるんだい?」
「えっと。あんドーナツと言う、ドーナツのようなあんぱんなんです。シュライゼン様、何か御用でも?」
「何。君が昨日昏睡になりかけたとカイルから聞いたんだ。元気そうで良かったぞ」
「ご、ご心配をおかけしてすみません!」
「大丈夫ならいいんだぞ」
今は人目も多いし、母上の事は聞き出せない。
シェトラス達は知ってても、この子にはまだ告げられないから。
だから、顔を見て安心出来た今は、俺らしい体裁で行くことにした。
「俺も食べていーい?」
「あ、はい。まだあるのでどうぞ」
「どーれどれ?」
マンシェリーの隣の席が空いてたので座れば。
少しして、皿に包み紙に包まれたパンが出てきた。
砂糖がかなりまぶしてあって、いかにもカイルが好みそうなパンだった。
「いっただきまーす!」
そうして、今日も口に出来た我が妹の手料理は。
答えられない程の美味で、歓喜に震えそうになったんだぞ!
「美味いんだぞ! 外はカリッとしてるのに、中はふんわりで。砂糖をあれだけ感じるのに甘過ぎず、中身とのバランスも抜群なんだぞ!」
「ありがとうございます。前に召し上がられた、イチゴのあんぱんと少し似てるんですが、豆が違うんです」
「なんて豆なんだい? 少し黒っぽいんだが」
『極東にある、最古の豆よ。アズキと言うんだが、こう甘くするのはこの
「あ、チャロナ。ウルクル様にも?」
「
「そっか。この方にはしょうがないからね?」
『ほっほ』
なら、この方がマンシェリーが持ってた母上への興味を止めてくださったのか。
一度、聞かなくてはいけない。
「ウルクル様、ちょっといーかい?」
『なんぞ?』
「ちょっと」
出来るだけ、部屋の端に連れてきて、小声で尋ねる事にした。
「マンシェリーには、母上の事が知られてないけど。なんて誤魔化したんだい?」
『その事かえ? あれは、今自分とロティのレベルが足りぬゆえに知られていないようになっておるが。最も、最高神が阻まれたのだろうて。心配はない』
「……例の、神」
『実は、アズキを持ってきたのもあの方々よ』
「……何をしたいんだ?」
『主になら言えるが。ヒトがかつて起こした【枯渇の悪食】を払拭させるのは、同じヒトしか出来ぬ。主の今の妹はそこに選ばれただけよ。それともう一つ』
「なんだい?」
『ただ選んだのだけではなく、惹かれ合う魂との結びつきにもよるのだ』
「……それが、まさかカイル?」
『そうさな』
大き過ぎる宿命を背負わされただけでなく。
きちんと、運命も出会いがあるのなら。
あの子は、自分も幸せになるために、転生者になったのかもしれない。
それは、すごく安心出来る事だ。
「……なら、あの子のために俺達が今動いてるのは無駄にならないんだね」
『時期を見合わせておるのなら、それで良い』
「うん!」
顔を上げれば、ロティにアンドーナツを食べさせながら笑顔になっている妹の姿があった。
まだ告げられずとも、兄としてその笑顔は絶対守るんだぞ!
そこからは、ウルクル神と席に戻り、アンドーナツとコロ牛乳の美味しさに舌鼓を打つのだった。
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