78-3.ヤバイ、まずい……?(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 まずい。


 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい、まーずーいー!


 予想外の出来事だったからって、チーちゃんの素性が本人にバレそうになって。


 サイラ達も、なんとか聞かれないようにはしてたけど。


 チーちゃん自身が、気になり出したと言うのがまずい。


 まだ付き合いが短いとは言え。


 あの子が気になり出した事をあたしに聞くって事は、あたしが知ってると確信しかけているから。


 たしかに、あたしは色々誤魔化したけど。


 これはもうまずいわ。


 カイル達に報告しなくっちゃ!



『マスター、大丈夫でやんすか?』


「大丈夫に見える?」


『いや、見えないでやんす』


「とりあえず、影に入ってて」


『うぃっす』



 レイも心配してくれてるようだけど、あたしは焦りに焦ってた。


 時期を待つとシュラが代表して提案してくれたことを、幼馴染みのあたしの不注意で妹に知れ渡ったとわかれば。


 一応、仮でも婚約者のカイルに知られればどうなるか。


 とりあえずは、怒られる覚悟で執務室に来たけど。



「カイル、俺だ。ちょっと入るぞ!」


「? どうしたの、マックス」



 今日も仕事を手伝ってるらしいレクターが開けてくれたけれど。


 あたしの顔を見るなり、少し驚いていた。


 どうやら、顔にもむちゃくちゃ出てるみたいね。



「……どうした」



 カイルの方も、あたしの慌てっぷりな表情に多少驚いてるのか、目を少し丸くしてたし。


 それはいいとして、緊急事態よ!



「すまねえ! あのクソ子爵の被害者に礼を言われたんだが、チーちゃんに王妃様と瓜二つだって発言されたもんで、あの子が興味もった!」


「「はあ!?」」


「なんで! なんでそんな事になっちゃうの!」


「不可抗力だって! 噂の方もやっぱ完璧には消えてねーし、姿絵が未だに出回ってるんだからリュシアじゃカツラだけでもダメだったわ!」


「…………で、姫本人はなんと?」


「…………俺にマジで似てるか聞いてきたから、微妙に誤魔化したけど」


「サイラ達は?」


「聞かれてはなかったけど、俺より隠すの下手だしな……」


「「まずい……」」



 やっぱ、カイル達もまずいと思うわよね?


 仕事そっちのけで、これからの対策を考えるしかないわ。


 あと、チーちゃんの容姿への無自覚についても、リーンの考察も合わせて話合った方がいいわね!



「例の神の仕業かはまだわかんねーが、あんた達も知ってるだろうが……チーちゃん自身になんらかのまやかしの力がかかっててもおかしくねー」


「まやかし……そうかもしれないな」


「ご自分の事を、ただの平凡顔と思ってるとこも自信がないにしてはおかし過ぎるし。人生の大半をホムラや他国で育ったにしても」






 コンコン






 あら、誰か来たわね?


 ゼーレン辺りかしら?




「すみません、チャロナですが。今よろしいでしょうか?」



 な ん て こ と!?



(もう我慢出来ずに聞きに来たのかしら!)



 ピンチピンチ、大ピンチよ!


 ああ、でも。


 いっそのこと、大暴露してカイルとのハッピーエンドに強制的に持ち込んだ方がいいのかしら!


 って事を提案しかけたけど、先にカイルが黙ってろと目で指示してきたから、お口チャックにしたわ。



「ああ、入れ」


「失礼しまーす。あれ、悠花ゆうかさんも?」


「た、たまたまよ」


「そーう?」


「それより、ロティちゃん寝ちゃってるけど。どうかしたの?」


「あ、ちょっと疲れたみたいで」



 ああ。影の中にほとんどいたけど、慣れないと精霊によっては疲れるかもしれないから?


 けど、ロティちゃんの場合はスタミナが切れなきゃ問題ないAI精霊だけど……まだまだ未知数な存在だもの。


 それに、いい顔で寝てるから突っ込んで質問するのもやめにしましょうか。



「 それで、何かあったのか?」


「えっと……少し気になったことがあって」



 ピンチはまだ切り抜けていなかったわ!


 態度に出ちゃダメよ、あたし!


 レクターにも、いつのまにか足を踏まれていたけど、極力苦笑いで対応してみて。


 ここは、どんと構えていくしかないと二人の成り行きを見守る感じでいると?



「なんだ?」


「あの。魔力量が異常に増えたりして、フィーガスさんや悠花さんのお陰で魔法が使えるようになってきたんですけど。逆に錬金術の方がどうなったか気になりまして」


「……使えなかったと言うのがか?」


「はい。もともと魔法の方も、適性がなかったんですが。今は違いますし、もしかしたらって」



 あら。


 あらら?


 全然違ってたわ。


 あたしの心配し過ぎ?


 もしくは、わざと避けたか。


 どっちにしても、それはとても興味深い案件だわ!



「なーに? 魔法だけじゃなくて、錬金術の方も極めたいわけ?」


「そ、そうじゃないけど。出来たら凄いかなあって」


「そうね。そうなら、フィー繋がりでいい人材がいるわね?」


「カレリアか?」


「そうそう」


「あ、そっか。カレリアさん!」



 器用さはまずまずだけど、あの子ならちょうどいいわ。


 料理の矯正も、ちょっとばっかし出来そうだし。


 チーちゃんに習う交換条件みたいなのにして、自分の技術を教えるって言うのもありだわ。



「たしかに。国随一の宮廷錬金術師が、唯一認めたのとたったひとりの弟子だし。まだ年若くても弟子を作るきっかけにしては悪くないかも」


「で、ででで、弟子って言うつもりは!」


「まあまあ。あんたも料理を教えてるんだから、良い機会だと思いなさい。カイル、それならいいでしょ?」


「……そうだな。互いに教えを交換するのなら、悪くない」


「じゃ、決定!」



 って事で、あたしが魔法鳥便を送ってから翌日。


 カレリアからは『もっちろん、いいよ!』と返事をもらえたので。


 またまた過密スケジュールになりがちなチーちゃんだったけど。


 色々、充実しそうな日々が続きそうだわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る