78-2.感謝の礼
*・*・*
そして、地獄もいつか終わりを迎え。
以前、あのクソ元子爵の事件があった、食堂屋さんにやってきてお茶する事になったけど。
着せ替えごっこの嵐にもまれた私とエピアちゃんはぐったり子だった。
「っつ……疲れた」
「私……もうダメ」
「何言ってんのよ。まだまだ行くわよ。金はあたしのポケットマネーから出してもいいし」
「マックスさん、やり過ぎ!」
「まあ、普段着メインだったし。出掛け着とかもいるんじゃね?」
「あれだけで十分だよ!」
「あたしの気が済んでないわ!」
「「もー……」」
やっぱり、元女の人の買い物癖は、健在のようだ。
「……ねえ、あれ」
「あの人、SSランク冒険者のマックスじゃない?」
「向かい側に座ってる女の子、たしか」
ところで、さっきからやけに注目を浴びてるとは思っていたが。
やっぱり、現役最高位冒険者である
なんだけど。
なんでか、他にもエピアちゃんより私に注目が集まっているような?
ロティとレイ君は、席の関係上また影に隠れているから違うし。
ちょっと首を動かすと、若い女の人達の席から、『あ!』と声が上がった。
「あ、あの子、元リブーシャ子爵に立ち向かった!」
「間違いないわ、あの顔! 本当に王妃様そっくりの!」
「ちょ、ちょっと挨拶行こうよ!」
なんか、私の顔がとんでもない位の人に似てるって聞こえたけど。
行動力のあるお姉さん達は、こちらに来るといきなり私達に向かって腰を深く折ってしまった!
「いきなりですみません。ですが、あの子爵を捕縛していただきありがとうございました!」
「本当にありがとうございました!」
「私達も、少なからず被害を受けてた者なんです!」
「え、えーと……」
「……そうか。あんたら、あの糞子爵の被害者だったって訳か?」
「「「はい!」」」
まだ深く腰を折ったままのお姉さん達に、悠花さんは冷静に向き合っていた。
「不埒で馴れ馴れしくするのはいつもの事でした」
「誘惑してくるのも、正直辟易としてて」
「なのにしつこくて……好き勝手し放題で、ただの市井でしかない私達にはどうにも出来ず」
「それを、あなた様とそちらのお嬢さんが立ち向かってくださって」
「「「本当に、ありがとうございました!!」」」
どうやら、あの元子爵はとんでもない女たらしな上に問題児だったらしく。
お姉さん達以外にも、被害者はかなりいたようで。
下手すれば、他の治安問題になってたんだって。
シュライゼン様が捕まえてくださって、本当に良かった。
「わ、私……は、自分がムカついただけで。直接は捕まえていませんし、それはシュライゼン様のお陰で」
「けれど。私達も偶然居合わせましたが。あなたの毅然とした態度のお陰で、あれは怯んでいました」
「ま、チーちゃんの弁舌にあんたらは感動して、御礼言いたかっただけだろ?」
「「「は、はい!」」」
「ですが、本当に王妃様とそっくりです。あの方は亡くなられてしまいましたが……」
「そ、そうですか」
さっきのは、やっぱり聞き間違いじゃなかったのか。
「あー、そこはあんま触れないでくれないか? この子、驚いてるし。他国からやって来た子なんでね?」
「「「そうなんですか?」」」
「は、はい。なので、この国についてはあんまり知らないです」
「失礼しました!」
「で、ですが、本当にありがとうございました!」
「失礼します!」
悠花さんが助け船を出してくれたおかげで、お姉さん達は立ち去っていったが。
空気が……空気が、ほかのお客さん達まで私達に話しかけたいような雰囲気になっちゃって。
仕方なく、急いでお茶を済ませてから食堂屋さんを立ち去ることにした。
「あー、びっくりした」
「チャロナ有名人じゃん。俺はあん時居なかったから、どんなのかは見てないけど」
「けど、覚えてないんだよね。キレて怒り過ぎたせいかもしれないけど」
「そうなのか?」
「うん」
気絶した後に、シュライゼン様から感謝状を贈呈とか、孤児院とかに行ったりしてたから、悠花さんに聞くのもすっかり忘れてて。
結局、あの元子爵がお縄にかかったのしか知らないし。
気にする必要もないかな、と悠花さんにも聞かなかったけど。
「マックスさん、私の顔が王妃様に似てるって本当?」
とりあえず、さっきのお姉さん達が特に気にしてた内容を確認しようとしたけど。
振り返って来た彼女?は、苦笑いしただけだった。
(聞けない? 今は聞いちゃダメ?)
そんなまさかな、展開はないとずっと思ってたけど。
まさか……と、私も少し考えなくちゃと思わずにはいられなかった。
なら、ロティと確認しよう。
買い物も、悠花さんの気分で中断になり、馬車に戻ることになったので。
お屋敷に帰って、部屋に戻って、影からロティに出て来てもらった。
「ねえ、ロティ。わかってるかもしれないけど、聞きたいことがあるの」
『でふ?』
「私が転生者で、あなたがナビシステムの一部なら。私の今のチャロナとしての、出自とかってわかったりする?」
『…………』
言いたい事をいっぺんに言うと、ロティは少し固まったが。
そのまま、表情が特に変わることなく、口を開いたのだった。
『解除出来ず。ナビゲーターシステムのレベルが大幅に足りません。所有者、チャロナ=マンシェリーの固有情報は只今開示出来ません。ナビゲーターシステムのレベルを上げてください』
「え」
ロティが滑らかな口調で話す事にも驚いたけれど。
その内容が、私が求めてた答えを否定するものでしかなかった。
『一定のナビゲーターシステムのレベルまで、詳細の情報は開示出来ません。ご了承ください』
そう言い終わると。
ロティは私の方に倒れ込んできて。
抱きとめたと同時に、彼女はスヤスヤと寝てしまった。
「今は……ダメ」
悠花さんに聞いちゃいけないってことは、カイルキア様達に聞いたとしてもはぐらかされるかもしれないけど。
でも、もしも、があるのなら。
私は、初めて、今の自分について、もっと知りたいと強く思えたのだ。
「カイルキア様とのことは関係なく、自分を知りたい」
身分差がどうとではなく。
私を守ってくれてる人達に、ただ守られてるだけじゃダメだから。
少しでも、魔法とかも使えるようになって、自分を磨きたい。
だから、まずは。使えなかった錬金術を使えるかどうか確認すべく。
一度、悠花さんに聞きに行くことにした。
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