79-1.狭間の夢






 *・*・*









 眠い。


 頭が重い。


 けど、眠気が勝って、あんまり気にならない。


 それと、誰かがクスクスと笑う声が聞こえてくるような気がする。



(……たしか、いつものように寝て)



 部屋には、あれから、悠花ゆうかさん達にも錬金術の事を聞いただけで終わらせてから戻ってきて。


 ただ、ご飯の時間になっても、ロティが起きなかった。


 揺すっても何をしても、幸せそうに寝てるだけで。


 これは、流石に心配になって、レイ君に来てもらってもさっぱりだと肩を落とされてしまい。


 仕方なく、私だけが部屋でご飯を食べてから一緒に寝たんだけど。


 まさか、私の方まで何か起きてしまったのだろうか?



『ふふふ。よく寝てるわ』



 女の人の声。


 どこかで聞いた事があるような気がしたけれど、眠気がひどくて判断力が鈍ってる私には分からなかった。



『優しい夢よ

 優しい風よ


 おやすみ、なさい

 おやすみ、愛し子よ』



 歌。


 私が、この世界で唯一覚えてる家族の歌だ。


 じゃあ、これはチャロナの記憶?


 たしか、ロティのAIじゃ今は教えられないと言われたばかりなのに。


 なんでまた?


 転生者の特典?


 よくはわからないが、寝てはいられない。けど、眠気が勝ってうまく意識を保ってられないのだ。



『いい子ね、△●#%。貴女の眠りがいいものでありますように』



 お腹をぽんぽんと優しく撫でてくれる手が温かいものなのはわかったが。


 ダメだ。


 やっぱり、眠気が強くて呼ばれたはずの名前もうまく聞き取れない。


 けど、わかったのは、この人はお母さんだと言う事。


 だって、こんなにも私(?)を慈しんでくれるのは家族でもきっとお母さんだろうから。


 子守唄が続き、手のリズムが一定になると、今度は本格的に眠くなってきてしまう。



『……貴女の未来が、良いものでありますように』



 眠りに落ちる直前に聞こえてきた声は。


 なんだか、とっても寂しそうだった。



「……………………ゆ、め?」



 起きたら、いつもの部屋のベッドの上で。


 くるっと隣を見ても、ロティは起きることなく幸せそうに寝てるだけだった。


 起こすのも可哀想だし、私もまだ眠いのでそこからまた寝れば。


 次に起きた時は、何故か体を強く揺すぶられてしまってた。



「起きて。起きて起きて、チーちゃん!」


『マスター、強過ぎでやんす!』


「けど、無理矢理じゃなきゃ意味ないでしょ!」


『でやんすけども!』


『ふわぁ〜?』


「ゆ、ゆ……かさん、ぐるし!」


「チーちゃん!」


『ロティ!』



 どう言うわけか、悠花ゆうかさんに強制的に起こされてたわけだったが。


 私がうめき声のようなのを上げると、パッと離してくれた。



『でふぅ?』


「ロティ、目が覚めたのね!」


『でふぅ、ご主人様〜!』



 やっと起きたロティに、ぎゅっと抱きつくと何故か悠花さんによりげんこつをお見舞いされてしまった。



「あんた、今何時だと思ってんのよ!」


「…………朝、じゃ?」


「昼の2時よ」


「ええ?」



 夜中から二度寝しただけで、そんなにも経ってた?



『朝も昼も食べに来ないでやんすから、二人とも疲れていると思ったでやんす。けど、マスターとここに来たら』


「あんたらが寝息も出さずに、ずっと眠りこけてたのよ! だから、無理矢理にでも起こそうとしてたわけ」


『マスターの方法は荒々しいでやんすよ!』


「けど、起きたでしょ?」


「そ、そんなにも……寝てた?」


『でふぅ、ロティもずーっと寝てただけでふ』


『ロティは寝過ぎでやんすよ!』



 すると、レイ君は私達の目を構わずに、ロティをぎゅっと抱きしめて涙ぐんでしまった。



『でふぅ?』


『俺っちが診ても全然わからんでやんしたし、ずっと寝てるだけじゃ意味わからんでやんしたよ! スタミナとか他は平気でやんすか?』


『にゅ、おにゃかしゅいたでふぅ』


「んじゃ、朝昼兼のご飯たっぷり食べた方がいいわね? チーちゃんもなんともない?」


「んー、夢見た以外は特に」


『「夢??」』


「うん。夜中に一度見たんだけど……多分、この世界でのお母さんの夢」


「……なんで、わかったの?」


「あ、悠花さんには言ってなかったけど。私、この世界で少しだけ赤ん坊の頃の記憶あったの。子守唄だけしかないけど」


「……なーるほどねえ?」



 ちょっと、悠花さんは言葉をためていたけれど。


 やっぱり、教えてくれそうにないから、私も聞こうとするのをやめた。


 すると、ほぼ同時にお腹から大きな音が聞こえてきた。



「あ……」


「さて、チーちゃんも何も食べてないんだから。着替えは待っててあげるから一緒に行きましょ?」


「うん!」



 そして、着替えてから食堂に行くと。


 エイマーさん達にも心配をかけててしまってたようで。


 お胸で窒息してしまうくらい、ぎゅーぎゅーと抱きしめられてしまった。

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