77-4.ヴィエノワサブレとクッキー実食②


 絞り出しクッキーと言うからには、同じタイプのヴィエノワがいいだろう。


 ヴィエノワと言うのは、パン屋にいた頃や、専門学校時代に教わったけど。


 たしか、フランス語で『ウィーン風のサブレ』って言う意味のサブレに分類されるクッキーの事だったはず。


 一般的には、『w』の形になるよう絞って焼くだけとシンプルだが。


 プレーンだったり、仕上げに粒砂糖で飾りをつけたり、イチゴやチョコにしたり、チョコがけしたりなど。


 用途は色々あるけど、今回はさっきがチョコ入りだったので。普通のプレーンに粒砂糖もあったので可愛く仕上げようと思います!



「今回の砂糖には、仕上げとは別に粉砂糖を使います」


「ま、また、食感が変わるんですか?」


「それもありますね。口当たりが良くなるので」



 手順としては、チョコチップクッキーとそこまで大きな差はありません。


 室温に戻したバターを、なめらかになるまで混ぜて。


 粉砂糖を入れて馴染むまで混ぜたら、少しの塩を加えて。


 卵も、さっきと同様に回数を分けて加えながら混ぜて。



「卵がバターに馴染むまでよく混ぜてください。この注意点だけでも、焼き上がりが変わってきます」


「は、はい」



 そうして、卵が混ざり切ったら。


 ヘラで、振るっておいた粉を入れて粉っぽさがなくなるまで混ぜて。



「窯の火をつけましょう」


「は、はい。さっきくらいで?」


「もう少し低くてもいいですね」



 このクッキーの場合、色は淡い方がいいからだ。


 続いて、クッキングシートを敷いた鉄板、クッキングシートではなく、絹の布袋と口金。


 ここで、一度手本を見せます。



「今回は少し大きめのクッキーにします。絞り方は、この前いただいたのでも大丈夫なので、数個見本を見せますね?」



 綺麗な布袋でも、慎重に。


 生地を少し入れて、絞り出し過ぎないように手で調整して。


 wではなく、もっと波状に縦幅を意識して。


 綺麗な形に出来上がったら、何故かレイリアさんがため息を吐いた。


 落胆ではなく、感動したって感じの。



「す、すごいです。そんな早く綺麗に!」


「え、えっと……慣れれば大丈夫ですよ?」


「は、はい!」



 なので、レイリアさんにバトンタッチすると。


 最初の数個は少し苦戦してたが。慣れてくると感覚がつかめたようでかなりマシな形になり。


 全部の鉄板の上に絞り出してから、今度は粒砂糖を軽く乗せて。



「これで、今度は20分焼きます」


「ほー。チャロナの嬢ちゃん、マジで手際がいいな?」


「ま、まあ。クッキーじゃないですけど、毎日料理はしてますので」


「いや〜、見習わんとあかんわ」


「お前も、矯正のために習えば?」


「ダメですよ、フェリクス。カーミアの暗黒物質をこれ以上生み出してはいけません」


「自分でも認めるくらいあかんもんなー」



 カレリアさん以上に、料理下手さんがここにいたとは。


 暗黒物質は、多分私でも修正難しそう!


 とりあえず、片付けを二人でやってる間に、ミュファンさんがせっかくだからと花の香りがする紅茶を淹れてくださることになり。


 焼き上がったら、レイリアさんの冷却コールドで冷ましてから実食タイムだ!



「うっわ〜、すっごく良い香りです!」


「お気に召したようでなによりです。フラウの花の香りなのですよ」


「あ、なるほど!」



 錬金術でも昔習った、中級くらいのポーション作りに必要な花の名前。


 私には縁のない技術だったけど、今の錬金術では可能だろうか?


 ちょっと気になったので、帰ったら悠花ゆうかさんやカイルキア様に聞いてみよう。


 お茶をひと口飲むと、とってもほっと出来る味だった。



「じゃ、今度はあたしが」



 悠花さんが宣言してから、ひょいと口に入れた。


 サクサクと小気味の良い音が聞こえ、ごくんと飲み込むと、親指をぐっと立てた。



「上出来よ、レイリア。これならきちんと店に出せるわ」


「ほ、ほんとですか、オーナー!」


「ええ。嘘は言わないわ」


「や、やった!」



 そして、ここでもまた滝のような涙を流したけれど。


 もうお約束なのか、サイラ君とかは気にせずにクッキーを食べ出していた。



「はいはい。もう泣かないでください」


「う、ううー」



 さてさて、私も一つ。


 半分口に入れると、悠花さん達のように、サクサクと良い音がして。


 バターの風味が強く、アクセントにある粒砂糖のお陰で甘みが強くなり、しゃりしゃりと歯に当たって心地よい。


 最初の時に食べた、不味くもないけど美味しくもないがどこにもない。


 しっかりと、美味しいクッキーになっていた。






【PTを付与します。



『粒砂糖が美味しい絞り出しクッキー・ヴィエノワ』



 ・食事1個=100PT




 →合計100PT獲得!




 レシピ集にデータ化されました!



 次のレベルUPまであと4100400PT


 】








(温度管理もだけど、混ぜ方がウィークポイントだったのね?)



 型抜きクッキーとかだとよく冷やさなくてはいけないが、絞り出しの場合は、バターの温度管理以外スピード勝負だし。


 あと、卵の混ざり具合も関係している。


 なので、アドバイス失敗したかなと思ったら。


 いきなり、レイリアさんに両手を握られてしまった。



「姐さんのお陰です! こ、こんなにも美味しいクッキーが出来たのは!」


「よ、喜んでもらえて、何よりです」


「今度他のクッキー作る時、混ぜ方も注意します!」


「あ、型抜きとか砂糖衣をつけるのとかは。焼く前に一度しっかり冷やした方がいいですよ?」


「! 前言ってた、温度ですね!」


「ええ」



 とにかく、無事にクッキー教室が終わってなによりだ。


 あとは、歓談と言うかちょっとしたお茶会になったけど。


 私は帰るまで、ほとんどレイリアさんと話しながら口頭で料理指導することになり。


 これは明日疲れるぞ、とカイルキア様にお休みをいただけてよかったと思うのだった。

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