77-3.クッキー実食①



「リンお兄ちゃん昨日ぶり!」


「ああ、そうだな?」


「「お兄ちゃん?」」


「あ、この人が幼馴染みのシュィリンさんなの」


「「ああ!」」



 リンお兄ちゃんについては、少ししかエピアちゃん達にも話してなかったので。どんな人かは教えてなかった。


 だから、お兄ちゃんを見ると二人とも驚いたのかぽかんとしてたし。



「ほー、兄さんってチャロナの幼馴染みだったの?」


「うん、綺麗な人……」


「綺麗……と言われると照れ臭いが」


「これでもこいつ。店のNo.2だぜ?」


「あ、フェリクスの兄ちゃん!」


「サイラは久しぶりだなあ? 彼女出来たって?」


「おう。てか、相変わらず女装下手!」


「うっせ!」



 どうやら、サイラ君はこのお店によく来るようで、フェリクスさんとも仲が良いみたい。


 エピアちゃんも何回かは来てるようだけど、後からやってきたカーミアさんに興味津々に見られている。



「ほー、こんな別嬪な嬢ちゃん、居ったか?」


「え、えと……エピア、です」


「あ、サイラの後ろでビクビクしとった。前髪の長かった嬢ちゃんか! なんなん、イメチェン?」


「い、色々ありまして……」


「あ、カーミアの兄ちゃん。エピアは俺の彼女になったぞ!」


「なんや。やーっとこさひっついたってわけか?」



 カーミアさんもだけど、お屋敷の執事見習いのシャミー君も。


 なんで関西弁を話してるのかな?


 一種の方言にしても、関西弁寄りだ。



「お兄ちゃん、カーミアさんの出身ってどこなの?」


「カーミアがどうかしたのか?」


「えと、話し方が、私の前世でよく聞く言葉だったから」


「なるほど。……カーミアの生まれは、西方のティクルスと言うところだ。そこの没落した辺境伯の家の出だが」


「ティクルス?」


「あとその近郊の街でも、言葉が似通っているそうだ」


「じゃあ。お屋敷にもいるんだけど、その辺り出身の人達はってことかな?」


「そうかもしれないな」



 さてさて、ちょっとまたビクビクし出したレイリアさんを待たせちゃってるので。


 場所を、厨房から陽光のフロアに移動して。


 私は悠花ゆうかさんとレイリアさんの間に座って食べる事になった。



「ほー、これをレイリアが?」


「ね……チャ、チャロナさんに教わりながら……一応」


「だから、別に怖がる事してねーって」


「あんたが、ゴツくていかついからやろ」


「あ゛?」



 フェリクスさん、女装も相まって不気味さが増してるので、私も少し怖かった。


 今は影に隠れてるロティも、テレパシーで震えてるのが伝わってきたほどに。



「あ、あの。コーヒーが合うと思いますし、冷めないうちに食べましょう?」


「せやねー」



 私の号令と、カーミアさんの賛成の声に、皆さんも一斉に座り出して。


 さあ、食べようと言う前に。


 まずは、ここの店長であるミュファンさんに出来栄えを見ていただく事に。



「おや。作るのはずっと拝見していましたが。アーモンドとチョコの香ばしい匂いがしますね? クッキーもそこまで重みを感じません」


「ひゃ、ひゃい!」


「大丈夫ですよ、レイリアさん」



 特に問題点はなかったし、これまでの問題点もなんとか改善したし。


 きっと、美味しく出来てるはず。


 ミュファンさんは、口元にクッキーを近づけて、何もためらわずに口に入れられました。



「!…………これは、舌触りがなんとも言えない味わいですね?」


「て、ててて、店長、どどど、どうですか?」


「ええ、美味しいですよ」


「! おいしい……」



 そうして、なんと。


 ミュファンさんがお得意の綺麗な微笑みで褒めてくださっただけなのに。


 レイリアさん、よっぽど心に響いたのか滂沱の涙を流し始めてしまった!



「おやおや、レイリア」


「う、う……だ、だって、あたしの作ったものが美味しいって」


「初めて褒められて嬉しかったんですね。大丈夫ですよ、美味しく出来上がっています」


「は、ばい……!」



 子供のように泣き出したレイリアさんを、私とは逆の位置に座ってたミュファンさんにそっと抱きしめてもらい。


 数分は泣き続けたが、なんとか泣き止んでくださいました。



「さ、皆さんも召し上がってください。本当に美味しいですよ?」


「「店長がそう言うなら!」」


「あら、ほんと。美味しいじゃない。さすがはチーちゃん直伝」


「うっめ! サクサクしてっし、チョコの甘さとアーモンドのカリカリがたまんねえ!」


「う、うん。美味しい……」


「ほ、ほんと? サイラ?」


「マジマジ!」



 さて、私もと一つ手に取る。


 前世では見慣れたチョコチップクッキー。


 砕いたアーモンドが見え隠れしている、シンプルながらも美味しそうなクッキー。


 他の皆も、美味しそうに食べてるので、私も遠慮なく口に入れた。



(……うん。バターたっぷりの甘いサクサクした生地に加えて、時々出てくるチョコの甘みとアーモンドの香ばしさ。これは上出来ね!)



 特に生焼けにもなっていないし、火の通り加減も悪くはない。


 初回でこれだけ出来れば、もっと的確に丁寧にアドバイスすれば、お店の料理も任されるはず。


 全部が、今までのレシピのやり方で悪いとは言えないけど。やり方を改善すれば、お店の戦力になり得るだろう。





【PTを付与します。



『サクサクチョコチップクッキー』



 ・食事1個=100PT




 →合計100PT獲得!




 レシピ集にデータ化されました!



 次のレベルUPまであと4100500PT


 】






【ロティも食べたいでふううう】


【あとでもらえるか聞いてみるね?】



 まだロティは紹介出来ないので、影の中で我慢してもらうしかない。


 だから、お土産用にもらおうかとレイリアさんの方に振り返ろうとしたら。



「ね、姐さん! もう一種類、もう一種類教えてくれませんか!」


「は……はい?」


「で、出来れば、この前あたしが作ったような絞り出しクッキーで」


「ああ!」



 なるほど。


 私に一度食べてもらった方でも改善点を見つけたいのだろう。


 ミュファンさんには好きに使っていいとすぐに許可も出たし、ゆっくりコーヒーを飲んでから、今度はお兄ちゃん達も見守る中で始めることになりました。

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