67-3.レアチーズケーキ実食②(ライオネル視点)
*・*・*(ライオネル視点)
今日のおやつ、は食堂で食べて欲しいとの連絡があった為。
庭師組は、俺がひと段落ついてから全員を連れて食堂に向かい。
ピデットもだが、若い連中はこぞって早く食いたいと小おどりしそうなくらいに上機嫌になり。
少し早歩きで向かうと、厩舎組と出会い、エスメラルダ先輩が手を上げて俺の方にやってきた。
「庭師は今かい? 今日の八つ時のやつも、この間食べたプリン並みに衝撃的なもんだったよ」
「……あれ以上にですか」
王女様の提案するおやつはどれもこれも初めて食べるものばかりで。
一体、どの国で育ってきたのかは、俺もまだあまり親しくないので知らないでいるが。
一番は、先輩の後ろにいる見習いのサイラ。
たしか、先日菜園の方のエピアと恋仲になったとピデットが悔しそうに嘆いていたのを聞いたが。
「けど、あんた。あの菓子を作るきっかけになったそうじゃないかい。なんか、あの子と話したのかい?」
「!……じゃあ」
まさか、昨日は色々あったようでパンになっていたようだが。
俺の気になっていた、レモンを使った美味。
あれを、菓子にしてくれたのか。期待が内心高まっていく。
それが顔に出ていたのか、先輩には吹き出すように笑われたが。
「今日ばかりは感謝しとくよ。さっさと行ってやんな。あの子も、あんたからの感想を待ってるようだし」
「……はい」
しかし、一応部下らがいる手前、走り出す事が出来ないため、全員で早歩きしながら向かうことにした。
食堂に到着すれば、各部署ごとの卓の集まりで、思い思いにケーキのようなものを食べているのが見えた。
「美味しい〜」
「冷たくて、さっぱりしてて最高〜」
「もう一個欲しい〜」
「もらえるか聞いてくる〜」
「「「お願い〜」」」
特に、メイド達の方は全員虜になってしまっているようだ。
そんなにも……そんなにも、美味な菓子なのだろうか。
「俺、伝えてきますね」
ピデットが王女様に伝えてくるとカウンターの方に行けば、すぐに出てきた彼女が笑顔を見せ奴と会話のやり取りをし出した。
「筆頭、これだそうっす。レアチーズケーキって」
「…………チーズ?」
ピデットが俺の分を持ってきてくれて、受け取ったトレーの上に鎮座してたのは。皿に乗った、白いケーキのようなもの。
底が少し茶色く、あとは全体的に白くて上にはレモンのスライスが乗せてあった。
一見、クリームがたっぷり使われているケーキのように見えたが、この前彼女と会話した時にも出てきた『チーズ』と言う言葉が引っかかる。
(この白い部分がチーズ? メイド達もこぞって気に入ってる様子だった、さっぱりとした口当たりの部分か?)
チーズが白っぽいのはわかるが、牛乳やヨーグルトのように白い。
チーズをクリームに?
けれど、普通のチーズにクセの強さでは女性があそこまで喜ぶ理由にはならない。
ならば、とんでもない美味に違いない、とまた期待感が高まり、俺達は空いてる卓を探してから全員で座った。
「…………では、いただこう」
『はい!』
俺が言いださねば、食べにくいような雰囲気だったためさっさと言うと、皆一斉にフォークを持ってケーキに入れると。
「やっわらか!」
「え、これ普通のクリームじゃねー」
「なんだっけ、こう言うの?」
「ムースケーキの一種です」
「「「あ、チャロナ(ちゃん)!」」」
食べる前に、それぞれ驚いていると王女様ご本人が俺達の卓の前にやってきた。
何故、と思っていると俺に軽く会釈をしてきてから説明を入れてくれたのだった。
「プリンとは違うんですが、クリームみたいなのをゼラチンで固めるとそんな感触になるんです。冷たくしてあるので、夏にはぴったりですよ」
『へー』
なるほど、フォークでもすくいやすい秘密はゼラチン。
スプーンでもいいかもしれないが、ケーキなのでフォークを使うわけか。
香りは、酸味をほのかに感じる程度だったが、味は……。
迷わず口に入れると、一瞬でチーズが溶けた!?
「……これが、チーズ?」
「はい。クリームチーズって言うチーズを加工して作ったんです。お口に合いましたか?」
「美味い。……さっぱりしてて、後味が爽やかだ」
スライスしたレモン以外からも酸味を感じると言うことは、中にもレモンが使われているのだろう。
チーズのクセがほとんどなく、軽くてさっぱりしてていくらでも食べれる。
底の茶色い層はクッキーを砕いたものらしいが、いいアクセントになってケーキによく合う。
これは、メイド達が騒いでた理由も納得の味だ!
「ライオネルさんが、レモンを使ったものが召し上がられたいとおっしゃってましたので作ってみたんです」
「え、筆頭。いつ言いに来たっすか?……あ、弁当箱」
「うん。ピデット君じゃない日に少しお話ししたんだ。クリームチーズは朝に時々出してるカッテージチーズと少し似た調理法なんだけど」
「へー」
朝に時々出してるチーズで、少し思い出した。
塩気とオリーブオイルでさっぱり和えただけの粒々としたチーズ。
あれも大変美味だったが、それとよく似た作り方で?
ここまで凄い腕を持つこの女性は、本当になんなんだ?
旦那様が見つけられた以前は、たしか冒険者だとピデットから聞きはしたが。
【枯渇の悪食】で失われたかもしれない、いにしえの口伝を、まさか再現されたのだろうか?
そう思えるくらい、彼女の料理は革命的だ。
(が、旦那様が広めていないとなると、そこは秘匿事項かもしれない)
一介の庭師でしかない俺が、踏み入ってはならない領域だ。
だからここは、ただ美味いと味わうしかなかった。
「一人一つまでならお代わり出来ますが」
『いります!』
「……俺も、頼む」
一個だけでは物足りない。
セットで出された紅茶ともよく合うこの美味を、もっと味わってみたい。
全員でお代わりを頼んだ後に、俺はまた彼女に頼み事をする事にした。
「このチーズの菓子は、ケーキ以外でも出来るのか?」
「ありますよ? ケーキ以外にも、クッキーだったり……少し味付けしてパンに塗るのもアリですし、パンに包み込んでおくタイプも」
「!…………幅広いんだな」
「また料理長にお伝えしてから考えますね?」
「ああ」
どれもこれも味わってみたいのだが。
一番に味わえるのは、今日は風邪で伏せっていらっしゃる旦那様だ。
エスメラルダ先輩もだが、俺達使用人が頼み過ぎるのもよくない……と思うが、今はまだ彼女は同じ使用人。
いつか、戻られる立場のところに行くまでは。
少しばかり、わがままを言いたいと思うようになったのは。
彼女の料理に胃袋を掴まれたからだろう。
そこに、恋慕はなく、単純に彼女の生み出す料理の虜になったからだ。
二個目のチーズケーキを味わいながら、俺は自分でそう納得させたのだった。
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