67-2.レアチーズケーキ実食①(マックス《悠花》視点)
*・*・*(マックス《悠花》視点)
「起きないわね?」
「それだけ嬉しかったんじゃない?」
「にしても、気が緩み過ぎだわよね?」
誰かって、カイルよカイル。
チーちゃんがレアチーズケーキを作ってる間にもう一度様子見がてら来たんだけど。
あれからまた付き添ってるレクターが居ても、ピクリともしないくらいに眠りこけてるんですって。
昔、特に冒険者だった時は大怪我でもずっと起きてたこいつが、だわよん?
たった数分程度、想う相手から少しばかり介抱されただけで。
昔馴染み、幼馴染みのあたし達が近寄っただけでも起きないだなんて、ダイナマイトくらいに衝撃よ!
「薬もさっき飲ませたし、無理しなければ二日後には回復すると思うよ」
「もうちょっとくらい休ませたら?」
「そうさせたいんだけど。姫様の生誕日会と成人の儀に向けて色々計画練ってるようだし。なんだかんだであっと言う間に時間は過ぎちゃうから今のうちに頑張ってるみたい」
「想う相手だし、今は婚約者だしねぇ?」
もともと仕事馬鹿なところはあったけど、チーちゃんの事なら張り切って当然だもの。
先日、よーやく……よーやーく、自覚出来たし認めたんだから、早い事くっつけって思うんだけど。
チーちゃんが、まだ根っこの部分で気にし過ぎてる身分差が広いまんまじゃ、あの子自身受け入れようとしないから。
カイルも、カイルなりに考えて、その日に向けて頑張ることにしたんだろう。
けど、これだけ無防備な寝顔って、ガキ以来じゃないかしら?
「……顔に落書きしてやろうかしら?」
「面白いけど、流石に起きるからやめておこうか?」
「へいへい。やめておきますよー」
一瞬、腹黒レクターが見えたもんだから、悪戯はやめておくことにした。
こいつ、姉に似て時々黒い部分を見せるんだから。見せた場合、カイルでも言葉を飲み込むくらいなのよね。
コンコンコン。
とここで、聞こえてきたノック。
レクターが開けに行くと、チーちゃんがロティちゃんを連れて入ってきたわ。
「出来たのかしら?」
「うん。先に食べてきたけど、いい出来だったよ。
「あら、ありがとう。……ちょいと、カイル。少し起きろ、チーちゃんがおやつ持ってきたぞ?」
「……?」
少しあくびをしながら、素直に起き上がったカイルの寝起きの声に、チーちゃんの方から『ひゃっ』と可愛らしい声が聞こえたけど。
あたしもそうだったけど、こいつも見た目以上にイケボだったわね?
聞き慣れ過ぎて、と『
レクターはチーちゃんの横でクスクス笑ってたが、彼女の肩を軽く叩いてこちらに来るよう促した。
「綺麗で可愛いお菓子だね? ケーキ?」
「あ、はい。ムースケーキで、クリームのようなチーズを使ったレアチーズケーキと言います」
「レア……って、生のチーズ?」
「朝に時々お出しするカッテージチーズと少し似た作り方で、クリームチーズと言うのを作るんです」
「へー?」
たしか、水切りヨーグルトを限界まで水分絞っただけでも出来たっけ?と、前世の記憶ではあるんだけど。
チーちゃんの場合、生産チートな
ワゴンに乗せられてたチーズケーキは、乙女心をくすぐるような可愛らしい見た目の、白いムースケーキ。
楕円型に仕上がった白いケーキは底だけがクッキーを砕いた生地の層になってて。
上には、レモンのスライスが可愛く飾られている。
白によく映えるから見た目でも楽しめるわ。
「柔らかいケーキですので、カイル様でも食べやすいかと思います」
「もう一回、あーんしてあげたらん?」
「で、出来ないよ!」
「まあ。少しは回復してるし、カイル、自分で食べる?」
「…………チャロナに無茶振りをさせるな、阿呆」
「え〜〜、もったいなーい」
あれだけ、食事でもあーんを許した相手なのに?
もったいないわね〜と思っても、チーちゃんがカチコチに固まりかけたので、仕方なく諦めることにした。
チーちゃんとロティちゃん以外に行き渡ると、手元にあるケーキが可愛すぎて、少し食べるのがもったいなかったけど。
久しぶりのレアチーズ。食べなきゃ損損と思って、フォークを入れたら。
つるんとした感触がフォークから伝わり、なんとも言えない快感を味わったわ。
「「「いただきます」」」
「はい」
『でふぅ!』
三人でほぼ同時に口に入れたら。
まず感じたのは、舌の上でとろけるように消えてレアチーズ。
なめらかで、鼻にほんの少しチーズの風味が抜けていくけれど。
後味はさっぱりで、すーっと消えてく感じがなんとも言えないわ!
スライスしたレモンもいい感じだし、アクセントになってるクッキーの層も香ばしくてレアチーズと合う合う!
「美味しー」
「……美味いっ」
「チーちゃん最高! これ店で売ったら、絶対繁盛するわよ?」
「材料がいっぱいあったんで、少し贅沢なクリームチーズを作れたお陰です」
「「贅沢?」」
「ヨーグルトだけでも作れるんですが、牛乳と生クリームを温めてレモン汁を加えて水切りしたの」
「贅沢だわね」
ここがカイルの屋敷だから、出来る調理法ね。
けど、本当に美味しいから。カイルもだけど、レクターとあたしももう一個お代わりして。
そのあと、ロティちゃんから
「……
「えと、水をかなり切らないといけないので、半日か一日くらいは……」
「必要以上に手間がかかるんだね?」
「晒し布で濾してもいいだろうけど、人力じゃあこのなめらかさは難しいしな?」
あたしくらいの腕力なら出来なくもないけど。
クリームチーズは程よく水気も残ってなきゃいけないもの。
あたしが作ったら、茶巾絞りになっちゃうわ。
「けど。この前のプリンのように喉越しのいい食べ物は病人にも最適だね。チャロナちゃん、明日はまたカイルにプリンを作ってあげられない?」
「わかりました」
「お、俺は……」
「二日は休む。これは医者として言うよ? 仕事もひと段落はしてるんだから、養生しないと……どうなるかわかってる?」
『「ぴゃ!?」』
「……………………わか、った」
あーあ、腹黒本領発揮ね。
あたしも見るの怖いから目を逸らしているけど。
とりあえず、チーちゃん達はまた厨房に戻っていき。あたしも明日のギルドへの出立準備があるから、部屋に戻ることにした。
「……あーんま、行きたくないのよねぇ?」
なんでかって、どうもリュシアじゃ問い合わせ殺到してるらしいのよ。
その連れと、あの事件の時に口にしたあたしから説明しろとギルドマスターからの命令が来てて。
何回かは無視したんだけど、カイルに知らせると王女の事実は伏せて、適当に話して来いと言われたのだ。
ただし、万が一にチーちゃんが王女だと勘付かれてたら、釘を刺しておけとも。
「面倒だけど……あのオッさん、勘が鋭いから嫌なのよね」
まあ、ギルドマスターな分口は固いけど。
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