61-3.プリンアラモード実食(カイルキア視点)
*・*・*(カイルキア視点)
レイバルスから、溶けるのも早いから来てくれと言われただけで、肝心の八つ時の内容を聞いていない。
とにかく早く早く、と言うだけで去って行き、執務もひと段落したところだったからよかったものの。
「今日はどんなおやつなんだろうね?」
「溶けやすいと言うのがよくわからないが」
一体なんなんだ、と異世界の珍味を食べさせてもらえる俺達がとやかく言えた立場ではないのだが。
ひとまず、急ぐことにして魔法陣で一階まで移動してそそくさと食堂に向かうと。
「やっほー、なんだぞカイルぅ……ぐぇ!」
「何故いる」
「こ、孤児院の打ち合わせ……」
「……そうか」
うざいぐらい輝かんばかりの笑みを浮かべて出迎えて来たので、従兄弟と言えど反射的に胸ぐらを掴んで詰め寄った。
サボり?ではなく、理由が理由なら致し方ないと納得しかけたが。
「そいつ、サボってはないみてーだけど。チーちゃんの作った昼飯食べに来てたんだよ」
「何?」
「いいじゃないか! 食べられなかったくらい、今日は忙しかったんだぞ!」
それよりも早く、溶けちゃうぞ!と豪語する理由がわからないので
ここは、宝石商の店か?と思うくらい美しい光景が広がっていた。
「こちら、プリンアラモードと言うお菓子です」
笑顔で出迎えてくれた、姫の口にした言葉の一部には少し聞き覚えがあった。
「……昔。マックスがよく口にしていた菓子か?」
「は、はい。ウスターソースや中濃ソース作りに必要な材料の一つにもありましたので、せっかくならと」
「? あのソースに?」
「はい。とりあえず、盛り付けの一部が溶け出して来ていますので」
どうやら、メインの『プリン』とやらではなく、盛り付けの一部が溶けやすいものだそうだ。
赤、紫、白黒、卵色に……と、色鮮やかな果物や見たこともない、黄色の塊が器に盛り付けられていたが。
俺の席に置いてあるのは、俺が好きなベリー類で盛り付けられていたのだが。
(……なんと言うか、愛らしいな?)
どちらかと言えば、リーンのような年頃の女性が好みそうな盛り付け。
別に嫌いではないのだが、少し気恥ずかしさを覚えた。
「うわ、カイルのって可愛いね?」
「す、すみません。
「いいんじゃないかな? カイルの
「!…………あ、ああ。いただこう」
リーンと結ばれたことで、大胆さに拍車がかかったのかと思ったが、口にされたことは嘘ではないので、頷きながら席に着いた。
着く前に、他のプリンアラモードとやらを見比べても、俺のは段違いに愛らしさが際立っている気がする。
が、想い人が俺のために作ってくれたもの。食べないわけにはいかない。
「え、えと……このプリンの黒い部分ですが。それだけだと少し甘苦い味なので黄色の部分と一緒に召し上がってください」
「甘いのに、苦味を?」
「言うほど苦くはねーんだよ。ずっと甘いとあんたみてーな甘党とは違って、普通の奴だと舌が疲れんだ」
「…………とりあえず、すくえばいいのか」
スプーンしか用意されていないので、まずはメインのプリンよりも周りの……特に気になっていた白くて丸い塊に手をつけてみよう。
柔らかそうに見えたそれは、ホイップクリームだった。
「甘い……」
これだけでも十分な菓子とも思えるが、プリンの方がさらに美味いのかもしれない。
ミルクの風味が濃いホイップや、少し冷えたベリー類。ウサギに見立てたリンゴは格別で。
そして、とうとうメインのプリンにスプーンを当てると、感じたことのない感触が伝わってきた。
「うっわ。ゼリーみたいにプルプルしてるね?」
「はい。けど、ゼラチンとかは使ってないので牛乳と卵で蒸し焼きにしたものなんです」
「卵を、焼いた?」
「正確には、蒸して焼いたんです」
手法が違うだけで、このように感触が違う代物になるのだろうか?
【枯渇の悪食】以前にあったいにしえの口伝にはあったか定かではないが、まずは食さねばならない。
少し刺す感じで、スプーンを入れてみると。
プルプル、プルプルン!
すくっても尚、プルプルとした感覚はそのままで。
ゼリーと似て非なるものとはどんなものか。
とにかく、口に入れてみれば!
「うんま〜〜い!」
「これよ! これぞ、プリン!」
『プルプルしててもうんまいでやんす!』
「なにこれ、甘いけど面白い!」
皆が豪語する中、俺はなにも言えないでいた。
いや、言えないくらいの美味が口の中に広がったため。
思わず、確認のために何度も何度もすくっては口に入れてしまっていた。
「か、カイル……様?」
姫に声をかけられた時には、もう器にはなにも残っていないのにまたすくおうとしていた。
「す、すまない。美味すぎて……」
なんとも恥ずかしい姿を見せてしまった。
けれど、それくらいの美味だったのだ。
ミルクと卵の濃厚な黄色の部分だけでも素晴らしいと思っていたが。
上の少し黒みを帯びた茶色の部分を一緒に食すと、わずかに苦味を感じたが、同時に香ばしさも加わって舌の上で踊るような感覚を得て。
いつまでも、いつまでも食べていたくなるような幸福感を得た。
当然、俺の慌て具合に姫とロティ以外は笑い出したが。
「だろ? うめーって。あー、これもいいけど、チーちゃんの腕前だととろけるやつとか色々食ってみたくなるー」
「まだ……種類があるのか?」
「もうちぃっと焼き込んだりとか、味を変えたりとか色々あんぜ? 日本じゃそれこそ星の数くらい」
「けど、あと焼きプリンやとろけるのしか作れないよ?」
「……作れるだけすげーよ」
「一応製菓とパンの専門学校卒だもん」
なにやら、姫の前世では学び舎が色々とあったようだ。
そんな会話をしつつ、姫は自分のを食べながらも、ロティがまだスプーンを使いにくいので適宜食べさせてやっていた。
その光景が、16年前一度か二度見た伯母上が姫に食事を与えてる光景と重なって見えたような気がしてならない。
すると、俺は変な顔をしていたのか、何故かマックスとレクターに部屋の端まで引きずられてしまった。
「おっ前、今すっげー顔してぞ?」
「……どんなだ?」
「姫様が好き過ぎて〜って感じ。大旦那様に報せたいくらい」
「やめろ!」
すぐにではなくとも、女の影がない俺にようやく云々で伯父上と画策しそうで危険だ。
「だったら、普段の無表情くらいもうちっと出せよ。チーちゃんの前だけで、なんで……いや、チーちゃんだからか?」
「姫様限定も……うん、姫様だから納得しちゃうね」
「とりあえず、社交界には滅多に呼ばれないにしても。他の女の前でその顔になんなよ? チーちゃんを泣かしてみろ、殺すぞ」
「ユーカ、顔怖い……」
「チーちゃんは俺のマブダチだかんな」
「とにかく、姫の前以外に晒す気がない。……俺自身も自覚してないが」
「「自覚なしであの顔か!」」
「おーい。チャロナがおかわり作ってくれるって言うけど、いいのかーい?」
「「「すぐ行く!」」」
そして、少し多めにアイスクリームを盛ってもらったのを食べた俺は。
あと数日に迫った、妹とレクターの祝いの席について少し話し合うのだった。
リーンにも、このプリンアラモードはきっと好きになるだろうからな……。
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