59-2.望んでたソース(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 ちょ〜っと、おやつをもらいに行くのが遅くなったけどいいわよね?


 今日は何かしら〜?っと、ちょっと音の大きいスキップをしながら向かえば、やっぱり食堂側は誰もいない。


 なので、愛しのエイマーにも会うべく、カウンターから中を覗き込んだんだけど。



「ど、どどど、どうしたのよあんた達?」



 全員もだけど、ロティちゃんまでがしーんとしてるのが珍しいわね?


 手にはなにかを持ってるようだけど、背を向けられてるからよく見えないわん。



「! 悠花ゆうかさん!」



 最初に振り返ってきたのは、チーちゃん。


 手には、醤油のような黒いシミがついた小皿を持ってたけど。醤油って、ここにあったかしら?



「どうしたのよ?」


「あのねあのね! 作ってみたウスターソースがうまくいったの!」


「ウスターソースって!」


「そう、あの万能ソース!」


「マジ!?」


「マジ!」



 揚げ物には大抵合う醤油に似た色の黒っぽいソース。


 あたしがコロッケを食べるたびに欲しいと思ってたソース。


 それを、この子が生み出した?


 前世はパン屋だって言ってたのに、どんだけ生産チート過ぎるのよ!



「ど、どどどど、どうやって作ったのよ!? つか、何で食べてたの!?」


「え? えと、コロッケで」


「あたしにもちょうだい!」



 ずっとずっと食べたかったものが目の前にあるのなら、食べないわけにはいかないわ!


 ちなみに、エイマー達はまだ放心状態だったので作ってくれたのはチーちゃんだけど。



「はい。揚げたてだから気をつけて?」



 差し出されたのは、普通の小判サイズのコロッケに、薄くかけられたさらっさらな黒いソース!


 受け取った直後に、鼻にぷんと香ってきたのは酸っぱいながらも懐かしいソース特有の匂い。



(これはもう、我慢なんないわ!)



 箸がないのが残念だけど、フォークでコロッケを割って、サクサクのうちに口に運んだわ!



「!〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」


「ね、ね? 自分で言うのもなんだけど、美味しいよね!?」


「んもぅ、あんた天才過ぎよ!」



 なんてこと。


 コロッケ自体は言うこともなく、サクサクのホクホクで。


 その衣に染み込んだ、黒いながらも濃厚で酸味の優しいソース!


 酸味と辛味が、絶妙なバランスで油っこいものをくどくさせず。


 そして、コロッケを食べただけなのに、『美味しい』が口の中で強調されて、とんでもない幸福感を得られて。


 そう言えば、チーちゃんが今日は自分で育てた作物を収穫して作ったって聞いたけど。



「いやー、パン屋だった頃に。店長の幼馴染みさんのお肉屋さん秘伝のソース作り仕込む機会があったの。覚えててよかった〜」


「……特殊過ぎるわよ、そのパン屋」


「けどけど、これであれも出来るよね!」


「あれ?」


「揚げ物もいいけど、粉もん!」



 たしか、チーちゃんの前世のお母さんだった人が関西人だったらしいわね?


 あれ以降聞いてないけど、チーちゃんにもちょこっとだけ関西弁がうつってるらしいし。


 この世界だと、セルディアスでも地方に何故かあるんだけど。


 とは言え、粉物ね!



「お好み焼き、たこ焼き、焼きそばは外せないわん!」


「お好み焼きはまだいいにしても、たこ焼きの鉄板は流石にないよ?」


「そうね。焼きそばもパスタ以外中華そばってないし」


「それはホムラにあった」


「うっそん!」



 わいきゃいわいきゃい話していると、ようやく正気に戻ったエイマーから軽く小突かれたわ。



「騒ぐのは構わないけれど、ここで君達が転生者だと言う事実を広めてしまう事になるよ? ひとまず、こっちにきたまえ」


「「はーい」」



 たしかに、おいそれと広める訳にもいかないので、将来の奥さんの言うのを聞く事にしたわ。


 なので、小部屋に移動すると、チーちゃんからまず三日後のレクター達の祝賀会について聞かれた。



「アイリーン様のお好きなものって、どんなの?」


「そうねぇ。全部を知ってるわけじゃないけど……兄貴に似て甘いものは好きだったわ」


「甘いもの……さっきのウスターソースでカラメル使うんだけど、プリンってどうかな?」


「プリン……ですってえ!」



 あたしが前世の中で好物過ぎた甘いものトップ3に入るデザートじゃないの!


 それを……もう一度食べられるかもしれない?



「うん。私がいたパン屋って、ちょっとしたケーキとか焼き菓子とか作ってたから」


「あたしが食べたいわ!」


「あ、うん。じゃあ、試作も兼ねて明日作るよ」


「ありがとう、チーちゃん!」



 念願のプリンが食べれるわ!


 じゃなくて、



「ピザとかは、せっかくのドレスが汚れる可能性があるからパスで……あとは、ひと口揚げ物とかのアラカルトとか?」


「いいんじゃないのかしら? ピザは無理なのは承知でも、大抵の来賓客はあんたとあたしが転生者だって知ってるし」


「あ、やっぱり?」


「カイル達のお袋さんはどうかはちょーっと聞いてないけど」


「お、お母……様?」


「大奥様なら、ご存知かもしれないけれど」


「どうでしょうね?」


『でふ?』



 チーちゃんがふせってた時には来れなかったか、来るのを止められてたかもしれない、カイルとリーンのお袋さん。


 実は、今世のチーちゃんのお母様だった亡き王妃様の親友さんだったらしいから、気にかけてないわけないのよね?


 親父さんが、どう引き止めているのかはわかんないけど。



「ま、深く考え過ぎてても、成るように成るわよ。で、チーちゃん。一個だけ試したいのがあるんだけど」


「な、何?」


「ロティちゃんの、炊飯モードでお米炊いて欲しいのよ!」


「へ?」


「マックス、もうすぐ夕飯だよ?」


「けどけど! コロッケにたっぷりソースかけてご飯の上に乗せたの食べたいのよぉおお!」


「「ん??」」


『あー、昔なんか言ってやしたね……』


「あれね!」



 チーちゃんもわかってくれたので、即座に残ってた米を洗って、技能スキルとロティちゃんの炊飯器で炊いてくれたのを、これまた全員で試したら。


 もう言葉が出なかったわ……。

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