58-6.確認(ウルクル視点)
*・*・*(ウルクル視点)
さて、予定外ではあったが。
無論、この屋敷の主人であり、ラスティの雇い主。
無駄に顔がいいのに、無愛想ゆえに妾は少々気に入らないでいるが。
そんなちっぽけな理由で、確かめないわけにはいかないのじゃ。
「……ウル。旦那様に何言うつもり?」
『ん? 主は、あの王女についてどう聞いている?』
「どうって……言っても、旦那様からは特に何も」
『ふむ。なら、なおの事確認せねばならんて』
彼奴の気配が濃い、扉の前に立ってから声もかけずに妾は手をかざすだけで戸を開け放った。
『カイルキア、久々に来たぞ!』
「!?」
「え、あ、ウルクル……様?」
「僕もいますよ、レクター先生〜」
仕事を終えたばかりか、ソファでコーヒーを飲んでゆるりと過ごしておったわ。
なら、
ラスティの手にあるそれを力で移動させて、奴の前にある卓の上に乗せてやったら。
「! これは、姫のパン?」
「今日もまた美味しそうだね?」
「旦那様〜、先生〜。今日はウルも手伝ったからいつも以上に美味しいですよ〜?」
「ウルクル神も?」
『応。それと、あの王女が持つもともとの加護と相まって、非常に美味かった』
あれは……あれは、ほんに美味過ぎた!
パンの部分はふわふわでほのかに甘みもあり。
中に入れた具の部分と一緒に食すとなんとも言えない、幸福感を得て。
焼く直前に入れたチーズもカリカリしていて。
いくらでも食べられそうだった。
そして、食べた直後に満たされた多幸感。
あれはおそらく、*%●△様が与えられた加護のお陰よの。
「なるほど。だが、何故貴女様自ら運びを?」
『うむ。確かめておきたい事があっての? あの王女に加護を与えた神……妾にも今は名を封じておられるが、世界の最高神がここにいらっしゃらなかったか?』
「「「!?」」」
『その様子は……来られたか*%●△様は』
「ウルクル様、彼は*%●△……え、え、あれ?」
どうやら、来られたには違いないが。神である妾がいる前でも仮の名をも封じられている状態か。
あの方は、結構うっかりしてる部分が多いゆえに、王女のためを思ってそれを封じられたのだろう?
加えて、番であられる%◇○▲様の方も。
『うろたえるでない。妾らにも名を封じられていらっしゃるあの方は、結構抜けておるのでの。なにかを危惧なされて、妾達にもわからぬようにされておるのじゃ』
「僕も、知らないけど〜。……あ、でも。もしかして、あの男の子が?」
『主も会うたか? 妾以外、ここに来る神はほとんどおらぬが、あの方は自ら動かれたようじゃな。気まぐれかもしれぬが、加護の確認やもしれぬ』
「……貴女様の場合は?」
『うむ。ラスティに頼まれて、あの王女が育てた作物を見てやってほしいと言われての?』
「……出来は?」
『妾がラスティに与えた加護と、あの方がお与えになさった加護で、珍妙な光景になったのぉ?』
「ねー?」
ほんに、驚いたわい。
あの大きさもじゃが、豊穣の加護をあそこまで使われるとは。
いやはや、面白い!
「……ラスティ。この方が喜ばれるという事は、悪い状態ではなかったのか?」
「ええ。僕がウルからもらった加護以上に、実も巨大化して豊作になりましたね〜。その例の最高神からの加護も加わったのなら、納得がいきます」
「そうか。そして作ったパンがこれか?」
カイルキアは、妾を一度見てからパンにかぶりつくと。
いつも以上に美味いせいか、少しの間動かなかった。レクターの方ものお。
「…………な、んだ。表現しがたい、この幸福感は?」
「いつものパンも美味しいのに、なんかこう……胸があったかくなるよね?」
ふむ、この多幸感はいつもはないのじゃな?
(ほんに、あの方の気まぐれ……ではないようじゃな? %◇○▲様の御声も、この者達は知らぬようじゃし。やはり、【枯渇の悪食】で失われたレシピを復活させんがためか?)
そのために、わざわざマックスのように、他の世界から連れてきた魂を、この世界の赤児を器として成長させている。
その話は、まだ此奴らには出来んな。
あまりにも、壮大な話ゆえに。
『カイルキア。あの王女は、自分が王女と言うのを知らぬでおるようじゃが。あのままではよくなかろう?』
「…………告げる時期は決まりました。今はまだ言えないだけです」
『そうかえ?
「!?」
『ほっほっほ。図星だったようじゃな?』
おそらくは、あの方々が『
あの控えめな性格の王女にはちょうどいいじゃろうて。
此奴も、あの王女の事を少なからず想っているようだしの?
「え、え〜? じゃあ、姫様と旦那様が?」
「ラスティさん、まだ言わないでね? 表向きには後見人だけど、実は陛下達からも婚約前提の守護者に任命されてるんだ」
「了解で〜す。すごいなぁ〜、絶対お似合いですよ〜」
「…………っ」
あの小生意気だった
一人前に誰かを想うとは思わなんだ。
最も、王女の母であった、あの王妃を目の前で亡くした過去のせいで、それが出来ずにおったらしいが。
『ただの
「っ!」
「ウル、姫様を気に入ったの?」
『うむ。妾が直々に加護を与えたからのぉ?』
「そう言えば、そうだったね〜」
「うわぁ……。豊穣の女神様のご加護って、カイル相当だよ? 大丈夫?」
「…………ああ」
ほっほ。
あの王女は、皆に愛されておるようじゃの?
特に、本人も好いておるらしいこの小生意気な
これはこれは行く末が楽しみじゃのう?
『であれば、時期を迎えた後に。きちんと大事にしてくりゃれ。あれは見た目以上に恋に臆病なところがありそうじゃ。それは主もかもしれないがの?』
「ウルクル様、正解です……」
「…………」
『ほっほ。では、妾達はそろそろ行くぞえ』
「失礼します〜」
こちらも滅多に会えぬゆえに、語れる間は語りたいのでのぉ。
菜園に戻る途中、幾人かには敬意を払われたが気にはしない。
妾とラスティは恋仲ゆえに。
『しかし、主らは羨ましいのお。あのような馳走を毎日のように食せるとは』
「ウルも、時々でいいならおいでよ〜。おやつは、毎日違うからさ?」
『そうじゃの。あの
「あの男の子の姿をした、最高神様は……本当に姫様を見に来たのかなぁ〜?」
『うむ。妾も一度お会いに行ってみるぞ』
「お願いね?」
妾の推測はほぼほぼ正しいと見込んではおるが。
出会ったからには、確かめねばならない。
余計なことかもしれぬが、妾自身も加護を与えたからのお。
ひとまず、菜園に戻ってラスティと軽く口付けを交わしてから。妾は神界に移って、あの方達の元へと飛んだ。
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