56-2.次への目標(アイリーン視点)






 *・*・*(アイリーン視点)







 ようやく……ようやく、レクターお兄様と結ばれましたわ!


 わたくし、幸せ過ぎて……天にも昇る気持ちでいっぱいですわぁ!


 だって、だって……いきなりキスもしていただけましたもの!



「お兄様大好きですわ!」


「あ、うん。ありがとう……それなんだけど。直すように練習しようか?」


「! そ、そうですわね!」



 もう、お兄様をお兄様と呼んではいけません。


 わたくしの……わたくしの将来の旦那様ですもの!



「さて。早速だけど、将来の義兄さんに報告かなあ?」


「ですわよね、ですわよね! 転移でささっと」


「こらこら。仕事中かもしれないんだから、盛大に雷落とされるよ?」


「……そ、それは、嫌ですわ」



 お父様とは違って笑顔を携えていませんのに、お父様くらい怖いんですもの!


 昨夜もお父様に散々怒られてしまいましたし、節度ある行動をとも、と、言いつけられましたから。ここは我慢ですわ。



「だから、普通に歩いて行こう? ほら、立って」


「はい」



 しっかりと立たされてから、わたくしとお兄様は手を繋ぐ……ではなく、腕を組んでからカイルお兄様のお部屋に向かいましたわ。


 途中、すれ違う使用人達には一瞬だけ目を丸くされても、すぐに微笑んで軽く会釈してくれましたわ。


 レクター様のお気持ちは今日まで存じ上げておりませんでしたが、わたくしの方はおおっぴらになるくらいまで知られていましたもの!


 決して……決して恥ずかしくなどありませんわ。


 けれど、その至福の時間も、カイルお兄様のお部屋に着いてからは終わりましたわ。



「カイル。レクターとリーンだけど、今いいかな?」


「…………入れ」



 レクター様がノックをした後に、カイルお兄様の少し呆れたご様子の返答がありましたけれど、わたくし達は執務室に入らせていただきましたわ。


 中に入ると、お兄様は先ほどの声音通りに、少し呆れたご様子でこちらを見てきました。



「やっ」


「……遅い。ようやく腹をくくったか」


「えっへん、ですわ!」


「リーンが威張る理由があるか……」


「けど、なんだかんだで姫様達の協力もなかったら……僕はずっと臆病なままだったよ」


「……そうか。まあ、座れ」



 ひとまず、お話を聞いてくださるようなので、応接スペースのソファに向かい合う形で腰掛けましたわ。


 わたくしは当然、レクター様のお隣で、ここぞとばかりに腕を組んでしがみつきましたわ!



「…………兄の前だからとは言え、いちゃつくな」


「お兄様も、王女殿下と頑張ってくださいましな?」


「!…………マック、スか」


「ええ、ええ。殿下のお気持ちもお聞きしましたし、すっごくすっごくお似合いだと思いますわよ?」


「…………はあ」



 誠に、絵になるお二人ですわよ?


 今日の殿下のシンプルなドレス姿も素敵でしたが。あれがご婚礼の衣装となれば……お兄様に釣り合う以上に素敵だと思いますわ!


 わたくしも、いずれレクター様の隣で着ますけれど!



「けど。これで、僕も含めてそれぞれの想い人と結ばれたんだ。残るはカイル、君だけだよ?」


「……まさか。ここまで早い段階で決まるとは」


「ですが、お兄様。殿下……お姉様は何故かご自身に自信がおありではないご様子ですわ」


「……気づいては、いる。が、すぐに解決出来る問題ではない」


「まあ?」


「何かわかったの?」



 お気づきですのに、すぐに解決出来ないとはどう言う事なものでしょう?


 お兄様は手ずから淹れられたお茶をひと口飲まれてから、口を開かれましたわ。



「……身分差が、相手の負担になるかもしれないと。こちら側が気にしていなくても、彼女はそう思ってるらしい」


「まあ。何故お分かりに?」


「……ちょうど、お前達の事を話した時だ」


「ってことは、今日?」


「ああ」



 ですが、殿下は強固派の事をよく存じ上げていないはず。


 ならば、単純に身分差が妨げになるとお思いで?


 わたくし自身はちっとも気にしませんでしたが、レクター様は……?


 そう思って隣を見上げると、レクター様は少し複雑な表情でいらっしゃいました。



「そうか。僕と同じ状況に……あと、前世の記憶が引っかかってるのかもしれないね?」


「お姉様の?」



 お父様からは、内密にとおっしゃられた、お姉様の前世と異能ギフト


 ユーカお姉様と同じようで違う能力は、この国どころか世界の食事情を揺るがしかねない特異的なもの。


 だから、いずれ出会うのであれば、貴族王族関係なく接してあげなさいと告げられましたわ。


 けれど、殿下……お姉様はまだその真実を知らないでいるから、お気になされて?



「だが、彼女に真実を告げる予定は……二ヶ月後の彼女の生誕日の時だ。それまでは……どう告げてよいか、フィセル殿にああ言われても悩む」


「僕らで決めた事だけど。一番の障害がそれなら、いっそのこと告げてもいいかもしれないよ? シュラ様達だってきっとわかってくださるはずだし」


「し、しかし……」


「お兄様は、お姉様を愛していませんの?」


「あ、愛……!?」



 慌てるお兄様を見られるのは珍しい事ですが、それどころではありませんわ。



「わたくしは、ずっと妹のようにしか思われていませんと思っていましたもの。それが違うとわかり、皆さまのお力添えのお陰で……こうしてレクター様のお心も知れましたわ。お姉様は、一人でなくとも抱えていらっしゃるかもしれません。そのお心を溶かせるのは……カイルキアお兄様だけですわ!」



 かなり長く話しましたが、きっとそのはずですわ!


 お姉様は……きっとお待ちのはずです!


 お兄様のお心を知れば、きっと変わられるはずですわ!




「うん。リーンも言うじゃないか。とは言っても、なかなか言えないのがこのカイルだけど」


「そうですわよね?」



 でしたら、とっくの昔にお姉様と結ばれていますもの。


 わたくし達二人に言われると、お兄様は図星だったのか何もおっしゃいませんでしたわ。



「……言うにも、どう言えと」



 やっとお口を開けられたら、この一言でしたわ。



「んー、勢い? 流れ?」


「は?」


「いやだって、僕の場合はついさっきそうだったし?」


「……何をしたんだ。アイリーン……」


「レクター様にきちんと想いをお伝えしたまでですわ!」



 涙は、本当に込み上げてきたのですから嘘ではありませんわ!


 ギュゥっとしがみつくと、レクター様は空いてる方の手で髪を撫でてくださいましたわ。



「うん。いつも以上に真っ直ぐ伝えてもらっただけだよ。あとは、途中まで居合わせてくれた姫様やマックス達のお陰でもあるけど。だから、僕も腹をくくったわけ」


「そう、か。だが……勢いと言われても」


「もうこの場が勢いそのものですわ! お姉様のお加減も大丈夫ですし、今すぐに行かれても!」



 問題なしですわ!と叫ぼうとした途端。


 レクター様から、それは待ったとおっしゃられましたわ?



「今堂々と呼び出ししたら、マックスとかが尾行しにいくよ? あと、君も行こうとするでしょ?」


「まあ」



 やはり、この方はわたくしの事をよくわかっておいでですわ。



「……絶対来るな。姫の気持ちをわかっていても、こちらとて慎重に行きたいんだ」



 お兄様はお兄様でものすごくお顔が真っ赤な状態でしたわ。


 仕方ありませんが、尾行は諦めざるを得ません。


 ですが、お兄様がこのようですとお姉様は……。



(ご自身に取り柄がないとおっしゃっていましたわ……)



 何が?


 どこが?



 あれほど、美しくいらっしゃるのに。気づく以上に知らない・・・・でいるような?



「……リーン?」


「レクター様、お兄様」


「……なんだ」


「お二人は、お姉様を美しいとお思いになられますわよね?」


「あ、ああ……」


「もちろんだけど、そこがどうかしたの?」


「はい。お姉様はもしかしたら知らない・・・・ようにされてるのかもしれませんわ。取り柄がないとはっきりおっしゃっていましたもの」


「「!?」」



 わたくし達が認識出来ていても。


 もしかしたら、異能ギフトをお与えになられた神の手により、何か細工をされていてもおかしくはありません。


 あのお優しい性格以上に、何かおかしいですわ。


 それをお二人にもお伝えしますと、さすがのお兄様も素面に戻って深く考えるご様子になられました。



「一度、ユーカお姉様にも確認をとりましょう。わたくし行ってまいりますわ!」


「待って、リーン。僕らの報告のついでに、マックスを引き入れよう。それなら怪しまれないだろうから」


「ええ、ええ。ご一緒に」


「姫に悟られるな」


「はい」



 次は、お姉様とお兄様のためにも。


 不肖のわたくし、いざ行きますわよ!

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