56-1.小さなお客様






 *・*・*









 あれはもう、めでたく結ばれたのだろう。


 それは、すっごくいい事なんだけど。



「あう?……おねーしゃんはどちらしゃま?」



 診察室をすぐ出た後に、可愛い可愛い二歳くらいの女の子の赤ちゃんに遭遇!


 だ、誰のお子さんなんだろう?



「あら、サリーじゃないの?」


「え、知り合い?」


『メイミー姐さんのお子でやんすよ』


『でふ?』


「あー、マックスしゃんだー」



 トテトテと可愛らしい足取りでこっちに来るサリーちゃんは、悠花ゆうかさんのところに迷わず向かっていき。


 彼?彼女?(もうこのくだり疲れた)はおいでおいでと手招きしてから膝をついて、サリーちゃんが目前まで来たらすかさず抱っこして持ち上げる。


 結構背が高い悠花さんだから、サリーちゃんは嬉しそうにきゃっきゃと笑い出した。



「わーいわーい、マックスしゃんの抱っこー」


「久々よねぇ。って、あんたお母さんは?」


「おちごとしてたから、にゅけ出ちてきたのー」


「『「おいおいおい」』」


『でふ?』



 見た目、ロティの一個上くらいだけど、しっかりわんぱくなとこが抜きん出ています。


 きっと今頃、メイミーさんは探しているかもしれないので、こちらから向かう事にしたが。



「レイ。メイミーどこにいるの?」


『んー。あちこちウロウロしてるでやんすね。サリーはんをめっちゃ探してる感じでやんす』


「じゃ、そっちに案内して」


『ほいきた』



 今が二階だけど、メイミーさんは三階にいるようなので。


 先頭をレイ君とロティ。後ろを私達にして進む事に。



「……おねーしゃん、どちらしゃま?」


「わ、私? 私はチャロナって言うの」


「ひゃ……ひゃろなおねーしゃん?」


「あ、言いにくいね?」



 赤ちゃんには、チャって発音が難しかったか……。


 と言うのも、孤児院にいた頃も、下の子達がよく噛んだりしてたから。



「今のうちに慣れなきゃ。ちゃーろーな」


「う、しゃ、しゃろな?」


「ちょい惜しい。チャロナ」


「ちろな?」


「ゆ……マックスさん遊んでない?」


「全然」


「う、う、ひゃろな……ひろな、ちろな、りゃ……チャロナ!」


「「おお」」


『出来たでふー』


「うん、チャロナおねーしゃん!」


「あ、ありがとう」



 なんだか、不思議な達成感を得たけど。まあ、言えて良かった良かった。


 すると、悠花さんに抱っこしてもらってるサリーちゃんが私の方ににゅっと手を伸ばしてきて。



「おねーしゃん、抱っこ」


「え、え、私?」


「あら、こんなにも早く慣れるのは珍しいわね?」


「だーっこぉ」


「はいはい。ちょっと待って」


「え、え、え」



 もう抱っこする流れになったので、一度立ち止まってから受け取った。



「う、わ。ちょっと重」


「大丈夫かしら?」


「あ、うん。大丈夫、久しぶりに小さい子抱っこするだけだから」



 落とさないように両手でしっかり抱え上げて、落ち着く場所を確保。


 やっぱり、AI精霊の重さと人間の重さは全然違うんだなと実感しちゃう。



「おねーしゃんの髪、シュラしゃまと同じー」


「そ、そう?」


「うん」



 髪まで気に入ったのか、痛くない力でくいくいと引っ張るのはやっぱり赤ちゃんだからか。


 今日は下ろしているから、すぐ掴みやすいとこにあったからだけど。そんなにもシュライゼン様と似てるのかな?


 出身国は違っても、緑の髪って珍しいかもしれない。


 この国では、お貴族様の象徴だとも言われてるし、まさかとは思ったりもしたが、私はただの孤児だ。


 そんな、テンプレ王道ルートがあるだなんて思えないし、おこがましい。


 だから、考えないようにしてるけど。



「あ、サリー!」



 三階の階段を上る前に、お母さんことメイミーさんのご登場。


 転けないように、けれど素早く駆け下りてきてから私に抱っこされたままのサリーちゃんのおでこをつんとした。



「ダメじゃないの。勝手にいなくなったりして!」


「……だって、おかーさんおちごとだったもん」


「あとで遊んであげるって言ったでしょ?」


「しゅぐが良かったもん!」


「……はあ」



 うんうん。


 二歳児らしい駄々っ子ぶりだ。


 こう言うところは、お貴族様だろうがなんだろうが関係ないみたい。


 ただ、すぐにお母さんのとこには行かずに、私にぎゅーっとしがみつく。これも実に子供らしいわがままの表現方法だ。



「ごめんなさいね、チャロナちゃん。うちの子が」


「い、いえ。小ちゃい子抱っこするの久しぶりでしたし、大丈夫です!」


「けど、まだ病み上がりでしょう?」


「レクター先生からも、もうほとんど大丈夫だとさっき診察してもらいましたし」


「おねーしゃん、びょーきだったの?」


「うん。ほとんど治りかけだけど」



 すると、何を思ったのかサリーちゃんは目の前に来てるお母さんの方に手を伸ばして。


 メイミーさんはちょっと苦笑いしたけど、抱っこする姿勢になったので私はサリーちゃんを渡してあげて。


 お母さんにぎゅっと抱っこしてもらうと、サリーちゃんはぽつりと言い出した。



「おねーしゃん、いたいいたいにゃのに、ごめんにゃさい」



 い い 子 過 ぎ る!




「うんうん。お姉さんはまだ本調子じゃないんだから、わかってよかったわね。いい子」


「……あい」


「ところで、こんな大所帯でどうしたのかしら? お散歩の時間はもう終わったのでしょ?」


「実は〜いい事があったのよん」


「あらあら?」



 ああ、これはもうガールズ?トーク勃発かもしれない。


 とりあえず、悠花さんが簡潔にリーン様とレクター先生について話すと、メイミーさんはぱあっと笑顔になりました。



「とうとうあの子が言ったのね! これはもう大旦那様大奥様にお伝えしなくては!」


「あたしも幼馴染み連中に知らせるわ〜。とりあえず、全員」


「にゅ? レクちゃーおにーしゃんにいいこちょ?」


「そうよ、サリー。リーン様とお兄さんが結婚するかもしれないのよ?」


「ふわわわわ!」



 サリーちゃんも意味がわかると、お母さんの腕の中でぶんぶんと手を振り出し。


 そして、メイミーさんはそのまま娘さんを抱っこのまま駆け出していった。



「父と母にも連絡するので、失礼するわー!」


「まちゃにぇー」


「はいはーい」



 あ、なんでサリーちゃんがこのお屋敷に来てたのか聞けずじまいだったけど。


 その疑問については、悠花さんが代わりに答えてくれました。



「月に何度か。旦那さん家の使用人が連れて来るのよ。旦那の方は王宮勤めだから滅多には来れないんだけど」


「そうなんだ?」



 なるほどなるほど、と頷いていると、お腹が軽く空いてきたので。


 今度は魔法陣を使って、全員で食堂に向かいました。


 あと、先生達の事の報告も兼ねて!

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