50-2.大の大人からの謝罪(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 まったく……なんて事?


 親父達がチーちゃんのお見舞いに来るって全然聞いてなかったわよ!


 しかも、カイルに魔法鳥を寄越したってことは、既に来ててもおかしくないわ。



「今頃、チーちゃんの部屋にいてもおかしくねーぞ」


「シュラからの知らせであればな……」



 たまたま、二階の廊下を歩いてる途中で少し顔色を悪くしたカイルと遭遇して、手に握ってた魔法鳥通達を見せてもらったら、あたしも卒倒しかけたわ。


 あたしの親父もだけど、なんでカイルの親父さんまで来るわけ?


 いや、一応姪っ子・・・だから会いたいだろうけど。表向き、あの子はただのカイルの使用人。


 正体を明かすヘマはされないにしても、急過ぎない?


 なんかきっかけってあったかしらん?



「なんか用があるとしても……チーちゃんに告げるのはあの人の事だから、陛下から伝え聞いてもしねーだろうし」


「だからこそ、わからない。とりあえず行く」



 ぞ、と角を曲がりかけた時に紫の髪の誰かとぶつかった。



「! も、申し訳ありません、旦那様!」


「お」


「エピアか。どうした?」



 慌てて出てきたのは、エピアだったわ。


 カイルにぶつかったからすぐにぺこぺこ謝ってたけど、カイル本人は全然気にしてないから訳を聞こうとしていた。



「!……えっと……その」


「「??」」


「あ、あの! 大旦那様とフィセル様が、しゅ、シュライゼン様とご一緒に……ひ、姫様のお部屋に!」


「…………」


「やっぱ、シュラの野郎……」



 既に時遅しってやつね。


 エピアの話によると、カイルの親父さんが来る事をどうやら聞かれてたようで。それをチーちゃんに伝えた直後、タイミングよくシュラが転移の魔法で全員連れてきて。


 今は、チーちゃんには申し訳ないがお茶を淹れるのと誰に対応してもらえばいいか、とりあえずメイミーを探してたみたい。



「エピア、その処置は適切だ。姫の事はとりあえず俺達に任せて、メイミーを探して来てくれ」


「は、はい!」



 適材適所。


 エピアには貴族との対応だなんて出来ないから無理はない。


 だから、カイルの指示に即座に従って、また一礼してから去っていった。


 あたしらは、まっすぐにチーちゃんの部屋に向かってノックしたら。


 出て来たのはシュラだったわ。あと、なんか困った笑顔でいるけどどーしたの?



「此度は誠に申し訳ない!」



 と思ってたら、中で親父が何故かチーちゃんに謝罪してたわ!



「親父!?」



 いったいなにしてんのよ、あんた!?


 そう叫びそうなくらい、親父が他人……しかも、チーちゃんが赤ん坊の時以来面識のなかったのにいきなり謝る意味がわからない。


 おまけに、中に入ったら、先日カイザーの爺様がしたのと同じように、あたしが昔教えた土下座を、ぽっかーん顔のチーちゃんがいるベッドのすぐそばでやらかしていた。



「む、マックスか」


「いきなり、し……初対面の相手になにしてんだ!」


「だが、拙者はこちらに謝らねばならない。お前にも後日そうするつもりでがいたが」


「はあ?」



 主語抜けてるから、なにが言いたいのかさっぱりだった。


 すると、脇に控えてたカイルの親父さんが困った笑顔で肩を落としていた。



「先日の偽見合い計画についてさ。あれは言い出しっぺが、実はフィセルだったんだよね。僕達は、酒の席でそれに便乗しただけさ」


「……父上」


「おお、おお。怖い顔をするなよ、我が息子。エディフィアと同じくらい似てるんだから、そう凄むな」


「誰のせいだと……」


「うん。だから、お見舞いついでに謝罪しに来たんだよ」


「俺は移動係なんだぞ!」


「お前には聞いてない」


「(`ε´)ブー」


「じゃあ、あんたら……」



 あの騒動の原因になってた、張本人って訳?


 そこで、なんであたし達より先にチーちゃんに謝る訳?



「ああ、誤解しないでくれよマックス。君やエイマーにもきちんと謝罪する予定ではいたさ。けれど、シュライゼンからこの子が心を砕いて二人のために頑張ってくれてたと聞いてね? なら、順番は逆かもしれないが先に謝ろうかと」


「あ、そう……」



 それと、親父的には明かしていなくとも王女のチーちゃんが気落ちしたのを知ったら、性格上真っ先に謝るわね。


 特に、幼馴染として付き合いのある王の娘であるから。


 肝心のチーちゃんは、ロティちゃんを腕に抱えながらまだ間抜けた顔でいるけど。



「チャロナ嬢には誠に申し訳ない! 愚息のために日夜心を砕いていただいてるのは聞き及んでいた故に、拙者カイルキア殿以外の友人が出来ぬと思ってたが。まさか全てを知った上で、朋友ともとなっていただけるなど」


「おい、親父。俺に色々失礼だと思わねーのか」


「お前の普段を知った上で、側にいてくれる友人が少ないだからだろうが。しかし、珍しくその口調……ああ、カイルキア殿がいるからか」


「悪りーか」



 あと、エイマーの前とかエイマーの前とかでもちゃんとしてるわよ!


 そんな一朝一夕ですぐに男言葉に直す訳ないでしょーが!


 全てを知った上で、受け入れて来れる嫁さんと友人はまた別よ!



「ま、なんであれ。あとサイザー達も謝罪しに来るそうだから。カイル、そこは頼んだよ?」


「…………何故あの人達まで」


「期待の新人ちゃんが可愛いからさ。伝え聞いているが、この子の調理技術は飛び抜け過ぎている。先日授賞式があってから一部では話題になっているよ? いにしえの口伝を復活させたかもしれない少女だと」


「あー……」



 まだ全部は公開してなくても、カイルの親父さんは王の弟で元ローザリオン公爵だった男。


 情報はどこから仕入れてるのか未だ不明でも、影の人間を操ってる可能性は高い。うちの親父のように行き場を失ってる孤児を中心に精鋭集団を作ってるわけじゃないでしょーけど。



「だから、マックス。君と一緒にエイマーのところへ行こうと思うんだが、いいかな?」


「断っても単身で行くんでしょ。あなたなら」


「わかってるじゃないか。ほら、フィセル。謝罪はひとまずこの辺りで、あちらに行こうじゃないか?」


「はっ」



 ただ、あたしは行く前にチーちゃんの意識を戻さないとね?



「チーちゃん、チーちゃん。おーい、起きて〜」


「……………………」


「ぜんっぜん起きないんだぞ?」



 シュラも一緒に揺すっても起きそうにないわね?


 ちらっと、カイルを見ても昨日の事を思い出したのか顔が赤くなってるからパスね。


 けど、



「……カイルが起こす方とあたしとどっちがいい?」


「ふぇ!」



 わざと低いイケボを使って耳に吹き込んだら一発だったわ。


 あと、ちょこっとカイルの話題出したら、だけど。


 正気に戻ったチーちゃんは、あわあわしながら部屋を見渡していた。



「ど、どどど、ドユコト!?」


「うちの親父が、あんたに悪かったって言ったのよ。正確には、エイマーの例の見合い計画について」


「へ? エイマーさん?」


「全然聞いてなかったようね?」



 なので、カイルの親父さんから聞いたことも混じえながら伝えれば、またぽけっと可愛い表情になっちゃったけど。



「お酒……の場で?」


「そうらしいわよ。で、親父。あたしがいつまで経ってもエイマーに言わないから、じれったかった訳?」


「い……いつまでも女々しかったからだ」


「今のあんたの方がよっぽど女々しいでしょ!」



 図体デカ過ぎの癖して、戦バカ以外は元女のあたしよりもメソメソするとこがある癖して!



「…………けど。今は、マックスさん達の事には安心されてるんですか?」


「!……あ、ああ。拙者、心から愛し合う者同士の事にこれ以上水を差す事はないでござる」


「…………でしたら、もう謝らないでください」


「……チーちゃん」



 ほんと、今王女様に戻ってもいいってくらい懐の広いいい女よ?


 でも、それは二ヶ月後までのお預け。


 親父達も一瞬目を見張ってたが、軽く会釈しただけで話については終わり。


 その後はシュラとカイルを残して、あたし達はエイマーやレイ達のいる厨房に向かう事になった。

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