50-1.大旦那様との対面






 *・*・*









 風邪を引いて2日目と少し。


 気分的には少しだけ楽になっても、まだまだ体もロティも本調子じゃないので今日もお休み。


 ただ、ずっと寝込むほどではなくなったので、私は日の半分くらい起きてる事に。


 と言っても、ロティは寝てるままだから、私はエイマーさんにお願いしてこのお屋敷にあるレシピ集を読ませてもらえた。


 いつも自分が提案する以外だと、まだまだシェトラスさん達を手伝うだけだったからちょうどよかった。


 パンとお米以外は本当に絶品揃いの、このお屋敷の料理は本当に凄い事ばかりだもの。


 正確には、カイルキア様のご実家があるローザリオン公爵家本家の秘伝らしいけど。


 でも、リュシアだって、お昼ご飯を食べたとこはそこまで悪くなかったもの。


 私が二年間冒険者として活動してた行く先々では、本当にピンキリが激しかった。


 だから、ここのレシピに何か秘密があるのかも。



「うーん。と言っても、前世の知識が戻った私には普通のレシピにしか見えない……」



【枯渇の悪食】により失われたレシピは星の数程あるが。


 それを、無事に元の姿に近いとこまで再現出来てるんだから、すごいと思わないと。



(他のお屋敷とかがどうなのかも確かめたいけど……あ、悠花ゆうかさんかフィーガスさんのお屋敷のが見れれば)



 何か、参考になるかもしれない。


 なら、とりあえずはどちらかが来るまでこのレシピを覚えておこう。


 冒険中の食事は出来合いの材料で作ったり、商業ギルドで購入したレシピを作ったりアレンジしたものだったから結構記憶力はいい。


 前世でも実践で覚えてた事が多かったから、両方がうまく合わさったお陰か、二、三回読み返せばすぐにシミュレーション出来ていた。


 いきなり全部は無理だけど、わからないとこがあればシェトラスさん達に聞こうと言う箇所も出来たくらい。


 さて、休憩のお茶の準備をして、とロティのおでこのタオルでも変えようかとベッドから出ようとしたら。


 やけに慌てたノックの音が聞こえてきた。



「……はい?」


「ちゃ、チャロナちゃん。エピアだけど、今入っていい?」


「? いいよー?」



 何かなきゃ、お見舞い以外に来ないだろうからすぐに返事をした。


 扉が開くと、少し息切れたエピアちゃんの姿があった。



「はー……はー」


「ど、どうしたの?」


「その様子じゃ、まだ……聞いて、ないんだね」


「な、何が?」


「……大旦那様がいらっしゃるよ」


「お、おお……旦那様?」



 ええと、つまり。


 カイルキア様が旦那様だから、その上に位置するって事はまさか……?


 私がわかったような表情をしてたのか、彼女はこくんと首を縦に振った。



「旦那様のお父様……」


「え、え!……けど、なんで私が関係あるの?」



 今は離れて暮らしてるけれど、親子なんだからカイルキア様がお会いされるのは普通じゃ?


 と、すぐに言うと、何故かエピアちゃんは扉を閉めてから大きく息を吐いた。



「…………この流れで、わからない?」


「え?」


「つまり、チャロナちゃんへのお見舞いに来られるんだよ。顔合わせも兼ねて」


「えええええええ!」


『でふ?』



 なんでそんな大事おおごとになるわけ!?


 大旦那様にお会いするのって必須条件だった!?


 思わず大声で叫んじゃったら、ロティがもそっと起きたので慌てて寝かせてあげた。



「メイミーさんも、まだ知らせてなかったんだね。さっき、ちょっと下の廊下で旦那様が『来るのか……』って呟いてたの聞いて」


「そ、それで教えに?」


「うん。お見舞いに来ようとしてたから。ついで、だけど」


「あ、ありがと」


「うんうん。報告は大事だね?」


「はい。……え?」


「え、え!」



 いきなり、エピアちゃんの隣に。


 シュライゼン様もだけど、ダンディなおじ様に筋肉マッチョのおじ様のご登場!


 転移だから気づかなかったけど、この流れだともしや!



「ああ。驚かせて悪いね。病だから無理にベッドから出てこなくていいよ? 僕は、愚息のカイルキアの父でデュファンだ」


「拙者は、愚息のマックスの父でフィセルと申す」


「ははは! 意外と元気そーだね、チャロナ! お兄ちゃん連れて来ちゃったんだぞ!」



 あまりの急展開に。


 私もだが、近くにいるエピアちゃんもカチコチになってしまい、事態がすぐに飲み込めなかった。



「カイル……キア様のお父様と、ゆ……マックスさんのお父様」


「うん」


「いかにも」



 なんで、フィセル……様の口調がござる口調なのかはさっぱりだが。


 私が確認の返事をすると、先にデュファン様が抱えてた何かを持ち直して私の方にやってきた。



「予想以上に可愛らしい新人ちゃんだね? 息子にはもったいない気もするが……はい、お近づきの印とお見舞いも兼ねて用意したものだよ?」


「……え?」



 そう言って差し出されたそれは。


 ロティと同じ大きさの、いかにも手の込んだって感じなモコモコタイプの鳥のぬいぐるみ。


 デザインは錬成素材の基本にもなる、青い羽根が特徴的なチコリョ。


 ちょっと、デュファン様には似合わないそれが、まさか私のお見舞いの品だと思うだろうか?


 反射で受け取ってしまうと、ものすっごく抱き心地のいいクッションタイプのぬいぐるみだった。



「俺からは普段着用のドレスと、預かってるペンダントなんだぞ!」


「拙者はオルゴールを……」


「ふ、ふぇ!?」



 ドレスもだけど、オルゴールってこの世界じゃとっても高級品だったはず。


 なんで、使用人のお見舞いの品にホイホイと与えちゃうんですか!



「はは。価値についてなら然程気にしなくていいよ? 多少は愚息から君の事は聞いているし、大事にしてもらえそうだからね?」



 ベッドの上が少し物でいっぱいになっちゃったけども。


 カイルキア様とは似ても似つかない、柔らかくて人の心を安心させる笑みと髪を撫でてくださる手つきに、少しだけほっとしてしまった。



「うん、いい子だ。エピアも元気そうだね? 前とは違って髪も切ってるし、随分としっかりしてるようだが」


「は、はい!」



 やっと緊張から解けたエピアちゃんもぺこぺこお辞儀をしてから返事をして。


 だけど、メイミーさんを呼ぶからと行ってしまった。


 ここ、私一人で切り抜けろと言うの!?



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