48-1.米を炊いてみる?①(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 米を炊くと言っても、この国は主食に稲を食べる文化に富んでいない。


 どっちかと言えば、チーちゃんとシュィリンが育ったようなホムラみたいな中華文化の国の方がそれは多い。


 でも、基本的にはうまく炊けないから、カチカチだったり、粥状態でも粒が残らないとか。


 それと、冒険者メインで活動してた時は手に入りにくかったから諦めてたのよね〜。


 けどけど、チーちゃんも前世の記憶が戻ったからきっと食べたいはずだわ。


 あたし、ここの農園側でいい物作ってるの思い出したのよん。



「ラスティ〜、いいかしら?」


「はぁ〜い? どうしたの、マックス様?」



 レイと農園に突撃すれば、すぐにラスティは見つかり。


 奥の方では、エピアが何か収穫してるようだったけれど、集中してるのか来る様子はなかった。



「米の種もみが欲しいのよ。出来れば、精米してるの」


「え〜? まさか、マックス様が米を炊くの?」


「そうよん。ちょっといい方法を思いついてね? チーちゃんの故郷に近い料理を作ろうと思ってるの」


「チ……姫様の? って事は、ホムラ?」


「そうそう」



 この屋敷の大部分の人間は、チーちゃんがこの国の王女だとは気づいている。


 けれど、前世の事とか、『幸福の錬金術ハッピークッキング』の事について知る人間はごく限られているが。あたしも、一部以外には隠しているし?


 それでも、この国で戦争を経験した人間が少ないからずいるため、下手に追及したり正体を暴こうと言う奴らが運良くいない。


 ま、選別したカイルがカイルだから、似た思考回路の人間が多いのよね? 性格までは似てないけど。



「お、マックスさーん。どしたんだ?」



 ちょっとしてから、サイラが肥料になる魔物の糞を貯めた桶をリヤカーのような台車で運んできた。


 匂いは牛とかほどしないけど、臭いに代わりないのでさっさと持ち場に持ってって!と言ったら、慌てて片付けに行った。


 と、そこへ。恋人になったばっかりのエピアも仕事が終わったのか手伝いに行ったのが少し微笑ましかったわ。



「で? 珍しく来てるの、どしたんだ?」


「米……と聞こえたんですが」




 手は繋いでいないものの、仲良くやってくるのは初々しいわね。


 じゃなくて、質問に答えなきゃ。



『チャロナはんの故郷が米に特化してた食文化だったようなんで。マスターが炊いてみるでやんすよ』


「……って訳」



 先にレイが大雑把に答えてくれたから、頷く程度で済んだけど。



「チャロナの故郷? あー、ホムラだっけ?」


「……姫様、冒険者になってからは帰っていないって聞いた」


「…………え、チャロナが姫様??」


「『「「んん??」」』」



 どうやら、この屋敷でチーちゃんとロティちゃん以外知ってると思ってたら。


 未来のあたしの義弟分は、何故か知らなかったようね?


 エピアがあわあわと口を開け閉めしながら、ゆっくりと奴の袖をつかんだ。



「な……亡くなった、王妃様の姿絵覚えてない? あと、シュライゼン様と同じ髪色だけど?」


「……………………あ」


「まあ、死んだ人の事は……だけど、王妃様の武勇伝とか観劇とか色々あったでしょ?」


「い、いや〜……劇は、寝てた」


「おい」



 ツッコミどころ満載だけど、ここは全員で呆れるしかないわね。


 あと、ようやく気づいた張本人が面白い顔になってるし。



「って事は……俺達、姫様と友達になってたって事?」


「ものっそ今更だけど。気にしないでいいわよ? 本人はまだ知らないし、シュラから告げるのも最低二ヶ月後になってるから」


「? なんで?」


「大人の事情ってやつよ。だから、本人が気づくか告げられるまではいつもどおりにしてあげて? 友達とか、孤児院の子以外じゃいなかったらしいから」


「……おう」


「はい」



 わかったならよろしい、とあたしはサイラとエピアの頭を交互に撫でてやった。



「で、本題だけど。精米してる種もみってあるのん?」


「あるにはあるけど〜、僕でもうまく炊けないのに方法が?」


「うろ覚えのとこもあるけど、フライパンでたしか出来るはずだわ」


「「「フライパンで??」」」



 疑問に思われるのも当然だけど、実践するにはここじゃ道具とかが足りない。


 だから、出来上がりがうまく行ったら分けてあげると告げて、もらえるだけの種もみの袋を担いで厨房に戻ることに。



「おっまたせ〜。これだけあれば、試作も何回か出来るわん」


「お帰り。道具はこれだけでいいのかい? 本当に」


「充分よ」



 空いてる手で、未来の花嫁の頭を撫でたら面白いくらいに茹で蛸状態になったけど。


 急がなくちゃなので、しっかりしなさいと声をかけてから実践開始。



「洗い方とかは、なんとなく覚えてるけど」



 炊き方については、本当に本当にうろ覚えでしかない。


 だから、失敗を見越して、あえて一合くらいしか洗わず。つけおきも、時計を用意して30分〜1時間つけおきしてみる。


 チーちゃんがいれば、すぐに時間短縮クイック出来る箇所でも、ないものはねだれない。


 だから、この間にサイラ経由で用意してもらったのを準備していく。



「……それは、サケ?」


「何に使うんだい?」


「具よ」


「「サケを!?」」



 そう、あたしが作ろうとしているのは。


 日本人なら最低一度は食べた事があるはずのもの。


『おにぎり』を作る予定よ!







 *・*・*








 次に目が覚めた時は、悠花ゆうかさんどころかメイミーさんもいなかったので、私はベッドでロティと寝てただけだった。


 カイルキア様ももういなかったから、私は大声をあげないように布団の中で少しゴロゴロした。



「夢だと思ってたのに! 夢だと思ってたのに!」



 なんで、私はあんな態勢でカイルキア様に抱きついていたのか。


 覚えてる範囲だと、寝ぼけてた時のせいだとはわかったけど。


 口にした通り、夢だと思い込んでいたのが実は現実で。


 反射的に掴んだ手のせいで、自然と抱きつく流れになってしまった。


 好きな人だったとは言え、なんて大胆な事をしでかしてしまったのだろう。



「もう、もうもうもう! あとからあーんもしていただいちゃったし」



 迷惑でないとは言われても、恥ずかしいものは恥ずかしかった。


 レイ君やシェトラスさん達が作ってくれたシチューのパン粥はたしかに美味しかったけど。



「〜〜〜〜、ああもう。体調悪いのって怖い」



 今は寒気とかはないけど、まだ体全体が熱い。


 それと、パン粥のおかげで汗をかいたのかネグリジェが少し気持ち悪かった。


 今なら少し動けるし、着替えようと思ったら。


 氷嚢とタオルの変えを持ってきたメイミーさんが入ってきたので。


 着替えを手伝ってもらいました。



「あ、マックス様に伺ったわよ? 旦那様に介抱していただいたって」


「〜〜! 悠花さん!」


「多分、私くらいにしか言っていないはずだわ。大丈夫よ」


「大丈夫じゃないです!」



 なんで言うのかなあの人は!

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