47-2.シチューでパン粥(レイバルス視点)






 *・*・*(レイバルス視点)








 俺っちは、今厨房にいる。


 一向に目を覚まさない、愛しいロティとその主人であるチャロナはんのために。


 シチューで作れるパン粥をこさえるためにいるでやんす。


 ちゃんと朝から、厨房の手伝いはしたでやんすよ!



「まだ起きていないようだし、夏でも汗をかくのに温かいものがいいだろう。そのシチューでパン粥と言うのはいいかもしれない」



 シェトラスはんとエイマーはんも賛成してくだはり、まずは肝心のシチュー作りから。


 野菜は皮を剥いて、ほぼ一口大の乱切りと言う切り方。


 シチューにするためのスープ作りの方は、小麦粉とバターを使って、シェトラスはんが丁寧にルゥと言うのを作ってる。


 俺っちじゃ、全部は出来ないから頼れるとこは頼るしかないので。



「せっかくだから、肉はコカトリスのもも肉にしよう。柔らかいし、滋養にもいいしね」



 と、エイマーはんが下処理してたもも肉とやらを用意してくれて。


 次に、俺っちが炒める作業を指示してくれたでやんす。


 まずは、肉を炒めるとか。



「肉の色が変わってきたら、火の通りやすい野菜から順に炒めて。ある程度火が通ってから、水を入れて。沸騰したらコンソメを入れる」


『ふんふん』



 野営の時はマスターにお願いするばっかだったんで、俺っちは本当に手伝い程度しかやっていなかった。


 今日までもそれは同じだったから、一から作るのは多分初めて。


 水が沸騰して、レードルで浮いてきた灰汁を軽く取ったら野菜が煮えるまで煮込むそうだ。



「ここまでは普通のシチューと変わりはないが、これをパン粥にか……」


「普通のパン粥だと、もっとスープ状に近いからね? ロティちゃんご所望の場合だとそれよりは少しとろみがある程度じゃないだろうか?」



 俺っちは料理人じゃないので、そこには口を挟めない。


 ロティに詳しいレシピを聞いてもいないし、覚えているのでも食感が『トロトロ』としか。


 そもそも、パン粥は人間の赤児の離乳食が定番。


 成人くらいになった場合でも、食べさせるのはスープが多いと聞く。


 だからこれは、料理人にとっても初の挑戦だ。



「よし、気持ち少なめにルゥを入れるタイプでやってみようか? パンは水分を多く吸い取ってしまう。それは生地でも同じだったしね? なら、ロティちゃんの言っていた食感にするには逆に水分が多めがいいはずだ」



 元宮廷料理人なだけあって、考察出来る能力が高い。


 加えて、このひと月近くで、チャロナはんがパン作りの基礎を叩き込んだせいもあるだろうが。


 なので、シェトラスはんの言う通りにシチュー作りを再開して。


 パンは、大量にチャロナはんが作っておいた食パンを少し貯蔵庫の結界の中から取ってきてもらい。


 ルゥを入れてからひと口大に、かつ入れすぎないようにしてみてから全員で味見。



「…………柔らかいが、もう少し煮込んだ方が」


「うん、もう少しだね。まだ固い部分が目立っている」


『でやんす』



 昨日のスープもだが、完全に溶ける一歩手前でだったのでこれも同じ方法かもしれない。


 だから、もう少し煮込んでみてから再度味見をすれば。



『……おお。昨夜のスープに近い!』



 ロティが言ってたようなトロトロ具合。


 シチューの味も壊す事なく、野菜もほろほろで食べやすい。


 全員で協力した力作になったでやんす!



「うん、これなら」


「全員に行き渡るには少ないが、姫様達の分だしね。鍋ごと持って行ってあげなさい」


『あざまっす!』



 待ってて欲しいでやんす、ロティ。


 全員で作った美味いパン粥が出来たでやんすから!


 とりあえず、ワゴンに食器と一緒に乗せて魔法陣を使ってささっと移動すれば。


 チャロナはんのお部屋からマスター以外の話し声が聞こえたでやんす?



「…………か、げ。起こさ」


「まーだいいじゃねぇか。ずっとそうしてろよ」


「な!」



 気配と声の感じから、カイルの旦那とはわかったでやんすが。


 見舞いにしては様子が少し変だ。マスターもなんだか楽しげな雰囲気でいるし?



『失礼するでやんすー。食事持ってきたでやんすよ?』


「お、レイか? いいぜ?」


「お、おい」



 なんだか少し慌てているのが不思議に思うけど、こっちとしては早くロティ達に出来立てのパン粥を食べてもらいたい。


 が、中に入るとあり得ない光景が目に飛び込んできた。



『…………は?……だ、旦那……?』



 なんで、カイルの旦那が寝たままのチャロナはんを抱えてらっしゃる?


 しかも、片手繋いでいやしませんか?


 何があった!?



「……レイバルス、大声は出すな。姫が起きる」


『い、いや……はあ? なんでそんな状態に?』


「姫が寝ぼけながら離れるなと言った……」


「だもんで、ロティちゃんはこっちだけどよ?」


『! ロティ!』



 そう言えばいないなと思ってたら、マスターに抱えられてるようだった。


 薄い布にくるまれたロティは、まだ顔が赤いがよく眠っていた。



「んで、ロティちゃんご所望のパン粥の出来は?」


『! うまく出来たと思うでやんす! けど、これだけよく寝てるんじゃ』


「そろそろ起こした方がいいかもな?……おーい、ロティちゃん食事が来たぞ?」


『…………ふにゃ?』



 マスターが軽く揺すった事で目を覚ましたロティは、少し潤んだ目で起き上がった。


 まだ熱があるのか、少しぼーっとはしているが。



『ロティ、大丈夫でやんすか?』


『……にゅ? おにーしゃん?』


『そうでやんす。ロティの言ってたパン粥作ってみたでやんすが、食べれそうでやんすか?』


『…………おにーしゃんが?』


『シェトラスはん達と一緒に作ったでやんす』


『でっふぅ!』



 ちょっと元気が出たようで、ゆっくりと体を起こして俺っちの前に両手を広げてきた。


 よっぽ腹が減ったのか、顔は笑顔全開だ!



「! え、え、カイル様!?」



 さあ、粥をよそおうとしたら。


 どうやら旦那に起こされたチャロナはんが驚いたらしく。


 振り返れば、熱以上に顔が赤い状態で抱き抱えられていた。


 ネグリジェじゃなく、ドレスだったら物凄い絵になる光景。


 陛下が知ったら、絶対怒るで済まない状態でやんすね。俺っちは言わないでやんすが。



「起きたか、チーちゃん。レイが、シェトラス達と一緒にパン粥作ってくれたぜ?」


「え……パン粥?」



 カイルの旦那がさりげなく腰に手を添えて身体を起こされていたが。


 前言撤回でやんす、チャロナはんが寝間着姿でも絵になるでやんす。亡くなられた王妃様と、旦那の親父さんの若い頃のようで。


 それも言わないでおくでやんすが、俺っちは少しだけチャロナはんのとこに近づいた。



『昨夜、ロティに少し教わったでやんす。クリームシチュー仕立てのでやんすが、食べれ』



 そう、と言う前に可愛いお腹の音がチャロナはんから響いてきた。



「あ……あはは……ごめんなさい」


「お前が謝る事はないだろう?」



 たしかに、謝る必要はどこにもない。


 あとを追うようにロティからも響いてきたので、チャロナはんのはカイルの旦那に。


 ロティは、僭越ながら俺っちが!



「じ、自分で食べれますから!」


「遠慮するな、食べさせるくらい出来る」


「そうじゃなくて!」



 やり取りだけを聞くと、このお二人付き合ってるんじゃ?と思うが。実際は両想いでもまだ告白されてないらしく。


 ただ、それぞれ陛下のご命令で婚約者同士にはなっている。チャロナはんは知らないが。



『ふぁ〜ふぁ〜』



 意識を旦那達に向けてたら、ロティが待ちきれないように口を開けていたので。ごめんと言いながら、ゆっくりとスプーンで入れてあげたら。



『むぐむぐ…………美味ちーでふぅ! トロトロふわふわでふぅうう!』


『そうでやんすか?』


『あい。もっちょくだちゃい!』


『わ、わかったでやんす』


「あ、ほんと。美味しい」



 チャロナはんからも高評価をいただけたようで。


 二人とも、二杯程おかわりしたら心地いい眠気が来たのか、マスターと旦那の手を借りてベッドに寝かされて。


 旦那の柔らかい笑みに若干、ぞっとしたけれど、それ以上に俺っちは歓喜に打ち震えていた。



『俺っち、今最高に幸せでやんすぅうう!』



 食べたいと言ってくれた料理をこの手で作れて。


 そして、美味いと言ってもらえたのだから嬉しくないわけがない。


 今日も明日も頑張るでやんす!



「ずっとパン粥じゃ飽きるだろうから……なんとか俺が米炊くか」


「わざわざ米を……か?」


「俺達日本の出身者だと米の方が食いたくなるんだよ。粉にするよか、主食で食う方がな?」


『俺っちも手伝うでやんす』


「やるだけやってみるか」



 そうして、旦那は執務室に戻り、俺っちとマスターは厨房に行くのだった。

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