48-2.米を炊いてみる?②(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 塩シャケなんて大層なもんは作れないけど。


 パーティー時代に作ってみたとっておきがあったのよね〜。



(塩と酒だけで作れる簡単フレーク!)



 海苔もないし、手づかみで食べるなら……個人的には好きなのよん。


 まず、熱湯ボイリングを鍋に入れて。酒を適量入れる。


 酒を入れて冷めた分が再度沸騰したら、サケの尻尾の切り身を入れて火が通るまで煮込む。



「茹で上がったら、冷却コールドで粗熱を取って」



 ここからは地味だけど、皮と骨をフォークと手を使って取り除いたりほぐしていく。


 手が少しサケ臭くなるけど、そこはご愛嬌。


 全部出来たら、次は〜。



「フライパンに入れて、塩少し振ったら乾煎りして〜」



 火加減は中火で。


 ある程度ほぐした身をヘラでさらに細かくしながら炒めていく。


 あんまりパラパラになるまで煎ると、冷めた時にせっかくの食感が台無しになっちゃうから適度に。


 他にも出汁とか醤油とか入れたりする方法があったんだけど。どっちもこの屋敷どころかセルディアスにはないからこれくらいでやるしかないのよね?


 まずは、これを味見。



「「んん!?」」


『懐かしいでやんすね〜サケのフレーク』


「思ったよりは臭みが軽減されている……これを米と?」


「マックス様、どのように合わせるのですかな?」


「おにぎり、ってまんま米を握っただけのものよ。ただ、うまく炊けないとこれも難しいのよね……」



 時間も頃合いになったら、LETS チャレンジ!


 計量カップはないけど、だいたい米に対して少し水をかぶる程度で注ぎ。


 魔石コンロの火をつけて、沸騰させるために少し弱めの強火で。


 沸騰したらすぐに弱火にさせて蓋をして、これも時計で15分を目安に炊くだけ。


 と〜っても簡単に見えるでしょうけど、ここがネックなのよね……。



「火を強過ぎてもいけないし、かと言って水をケチってもいけないのよ。冒険中は高価だったからあえて買わなかったけど、前世でもあんまり挑戦してなかったわ」


「けど、成功すれば美味しい米が食べられる、と?」


「日本人の国民食だったのよ、米って。そのままもよし、塩気の効いたおにぎりに色んな具を入れてもよし、鍋の締めにもいい……とか。あらやだ、夏なのに鍋が食べたくなるじゃなぁい」


「…………ナベ??」


「そうよ。色んな野菜とか肉とか魚を煮込んで、皆でホムラで使う箸でつついて食べるの。コンソメとかと違う出汁をきかせているから美味しいわよ?」


「ざ……材料があれば」


「作れなくじゃないだろうけど、チーちゃんが一番上手だと思うわ。さ、炊けたかしら?」



 ガラス付きの蓋じゃないから開けるしか確認出来ないんだけど……蓋を開けたら悲惨な出来事が!



「す、水分全部消し飛んでいるわ!」



 カピカピでフライパン部分が焦げ焦げ。


 匂いはないけど、完全に木べらじゃ取れにくい状態!


 これは、無理に中央部分を取っても再生出来そうにないわ……。



『あちゃー……これは無理でやんすね』


「水足してふやかして、粥かリゾットにするしかないわね……」


「「リゾット??」」


「あ〜……米で作る粥みたいなものの事よ。コンソメにトマトスープ仕立てとか、チーズだけとか色々。けど、チーちゃんに連チャンで粥状のものを持ってくのは却下ね」



 んもぅ、火加減が強かったかこのフライパンじゃあテフロン加工じゃないから熱が伝わりやす過ぎたせいね!


 2回目は、銀製の鍋で再チャレンジしてみたが……途中で蓋を開けたら思いのほかいい出来だったので一旦火を止めて数分蒸らしてみたら。



「で……出来たわ!」



 つやつやぴかぴかの米よ!


 前世の知識と経験しか能のないあたしでも出来た初の快挙よぉおおおお!


 思わず歓喜に打ち震えていると、三人に拍手されたので、慌てて咳払いしてから小皿に炊きたての米をよそったわ。



「「では……」」


「うまくいってるはずよ……」



 炊きたてだけど、箸は当然ないからフォークで。


 そっと白く艶やかな米粒を乗せれば、ほんわか湯気だって柔らかそうで美味しそう。


 ここは勢いよ!と、パクッと口に入れれば。



(……もちもち、うんま!)



 日本じゃなんの銘柄かは忘れたけど、ササニシキとかなんとかにも負けなんじゃなぁい!?


 噛めば噛むほど甘い米の味が口いっぱいに広がって。


 初めてチーちゃんのパンを食べた時みたいに、涙が出そうになったわ。


 自分の手で、こんな美味しいものを生み出せるなんて思ってもみなかった!



「うん! パンとは違う甘み!」


「実に優しいですな。これが本来の米の旨さ……。マックス様と姫様は前世の世界でこんなにも美味しいものを」


『マスター、成功でやんすね!』



 けど、これで完成じゃない。


 チーちゃんに食べてもらえるためにも、おにぎりにしなきゃ。


 米は念のため二合くらい炊いてたから、あの子の分だけには事足りる。


 二つのボウルに移した米を、ひとつは手作りシャケフレークで絡め。もう一つは塩を少々。


 あとは、あたしのゴツい手を清潔にして塩むすびとシャケフレークのおむすびを作るだけ。


 出来上がったうち、味見用に作った小さいのを三人に食べてもらったら、またまた高評価をもらえたわ。



「あたしはチーちゃんと一緒に食べてくるけど。レイは当然ロティちゃんの事があるからついてくんでしょ?」


『でやんす!』


「マックス、一度失敗した方はリゾットにしてみたいんだが……」


「そうね。濃いめのコンソメスープでよく煮込んでからチーズを三種類入れるのがおすすめよ。楽だし」


「やってみる!」


「頑張ってね〜」



 さぁてさて、神の料理人に等しいチーちゃんからはどんな評価がもらえるかしら?


 ただ、部屋に行くと起きてたのか膨れっ面な彼女とのご対面になっちゃったけど。



「……どうしたのよ?」


「どーしたもこーしたもないよ! カイル様にあんな風に抱きついちゃったの他の人にも言うだなんて!」


「いいじゃなぁい? 一歩前進よ?」


「そうじゃなくて!」


「かりかりしてないで。あたしの力作食べてもらえないの?」


「へ?」


『マスターがおにぎり作ってくれたでやんす!』


「お……米?」


『……でふ?』



 ロティちゃんもちょうど起きたようだから、いざ試食タイムね?


 ロティちゃんは、チーちゃんから少し離れたとこでレイに抱っこされたわ。あたしはチーちゃんがちょこんと座ってる枕下の隣ね?


 この客間、実は将来のカイルの奥方用って知ったらチーちゃんどう驚くかしら?


 どうもあいつ、迷わずここにこの子を救助した時あてがったらしいのよね?


 それはさておき、チーちゃんはあたしが作った二種類のおにぎりを凝視していた。



「綺麗……本当におにぎり」


「シャケフレークも手作りよん?」


「え、そこまで!?」


「せっかく米食べるなら、あたしも食べたかったのよ。フレークの方は旅の中でも時々作ってたから失敗はしてないわ。さあさあ、食べて」


「う、うん」



 そっとチーちゃんはシャケフレークのを手にとり。


 クンクンと匂いを嗅いでからパクッと口に入れてくれた。


 何度か噛んでいくと、ぽろっと涙が出ちゃったようだけど。



「お、美味しい……お米だぁ」


「一回は失敗したんだけど、それ鍋で炊いたのよ」


「けど、美味しい。炊飯器と変わんない。もぐっ」



 味わうようにゆっくり食べてるのを見て、あたしも一個くらいはと自分で作ったシャケフレークのを手に取る。


 半分くらい口に入れたら、懐かしい風味と米の食感が絶妙だったわ。



(あ〜美味し)



 ほんと、うまく出来て良かったわ〜。


 1回目の時は、ほんとどうなるか心配だけで済まなかったけど。



『むぐむぐ。おいちーでふぅう! もう一個!』


『おにぎりは逃げないでやんすから、ゆっくりお食べ?』


『あーい』



 声の感じだけならロティちゃんすっかり元気ねぇ?


 チーちゃんも二個目を食べてたけど……なんか考え込んでるようだったわ。



「どうかした?」


「あ、うーん……。ロティの炊飯モードとだとどっちが美味しいかなぁって」


「…………まあ、ロティちゃんは一人だけしかいないし。今回は急ごしらえだもの。これはこれでいいでしょ?」


「うん!」



 そのあと少し熱は確かめたけど、だいぶ下がってはいるようだった。


 けど、固形物はまだあんまり食べさせ過ぎちゃいけないから、夜はリゾットかしら?


 エイマー達が作ってるのが、うまくいくといいけれど。

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