29-2.垣間見えた力
『ロティがなんでふか?』
ピザトーストに夢中になってたのか、あんまり聞いていなかったみたいだけど。
フィルドさんの手の届く範囲にいたから、彼はにっこりと笑ってからロティの髪を撫でてあげた。
「魔力溜まりの中とは違う次元から生まれた存在。今はロティ、って言うんだ?」
『にゅ?……あ、か──ふごぉ!』
「言っちゃだーめ」
『にゅ?』
ロティがフィルドさんの事を何か言いかけたのだが、彼自身が手を汚れるのを気にせずに、両手で口を塞いだ。
とてもいけない事だったのか、ロティに念を押してから離したので、当然手はベットベト。
でも彼は、それを無詠唱で
「俺の正体については、いずれね? そこのこっわいおにーさんが凄んできてもダメだよ? ここには、レイやロティ以外にも契約精霊がいくつかいるし、驚かせちゃうからね?」
「…………あっ、そう」
私がロティの口周りを、詠唱込みの
見た感じ、カイルキア様とそう変わらないのに。少し、つかみどころのない人に見える。
飄々としてる感じは、シュライゼン様と少し似てなくもないけれど。
「なら、フィルド……殿。あなたは精霊の加護が特別お強い方だと思えば?」
「当たらずとも遠からず、ってとこだけど。君達にならそう思われても無理ないかな?」
あと、敬称とか言いから、と彼はにこにこ笑う。
エイマーさんもとりあえずわかったと言いながら、新しい紅茶を淹れに行った。
本来なら下っ端の私の仕事だけど、話を聞いててと言われたので座ってることに。
「んじゃ、あれ? 今までもだけど、この屋敷にレイを尋ねに来たのもその精霊達からの導きとか?」
「ま、そんなとこ」
『…………あはは』
悠花さんがそう聞くと、フィルドさんはにんまり笑ってから残ってた唐揚げをひょいと口にした。
隣で縮こまってるレイ君はずっと顔色がすぐれないけれど、金髪のお兄さんは本当に何者なんだろうか?
ロティが言いかけた事も聞きたいが、あとでこの子が答えてくれるかもわからないし。
「ま、いいわ。レイの古い友人って思っとくけど、今日は遊びに来ただけ?」
「うん、一応」
「一応?」
「なんか面白いとこにいるって精霊に聞いたのもあるけど、チャロナのパンの事聞いたらお土産に欲しいなぁ。俺の奥さんになんだけど」
「「お」」
「おや、奥方がおられるのかな?」
「うん!」
いや、いてもおかしくない年代ではあるけれど。
カイルキア様くらいのお年で既に、って言うのに少し驚いた。
シェトラスさんだけは、のほほんと聞いていたけれど。
「わ、私のパンをお土産に……?」
「うん。あの子に是非食べさせてあげたいなぁって。ちょっと今回は連れてきてあげれなかったんだけど」
『あのか……あの人はダメでやんすよ!』
「だよねー?」
一瞬、レイ君がまた慌てだしたんで気がついたけど。
おそらく、この人。人間じゃない。
精霊がこんなにも慌てて、しかも敬意を払う相手なら。
異世界テンプレで言うと、精霊王とかのチート的な存在かも。
まさか、神様ではないと思うけど。そこは、あとで悠花さんがレイ君を問い詰めるだろうから聞かないでおく。
それよりも、私へのお願いについてか。
「シェトラスさん、私個人としては構いませんが。どうでしょう?」
「うーん、そうだね。一度旦那様に確認を取ろうか?」
「あ、じゃぁさじゃぁさ。俺、少しは料理とか出来るし。今日のパーティーでこき使ってよ」
『あ』
「レ〜イ〜ぃ、口軽すぎよ〜ぉ?……って、あんた知ってた?」
『い、いやその〜……』
「俺がちょっと聞いちゃっただけだから。で、それなら等価交換にならない?」
「そうだね。それも踏まえてなら、多少は大丈夫だとは思うけれど」
今聞いて来ようか、と。シェトラスさんは旦那様とレクター先生のお昼ご飯を持っていくついでに聞いてくれることに。
なので。
「後片付けついでに、俺の力量見せるから。ちょっと卓から離れてて?」
全員(ほとんどフィルドさんと悠花さん)でお皿の上を綺麗に食べ終えてから、フィルドさんが袖まくりをしてからそう言ったので。
私達は、テーブルから少し距離を置いたとこで待機。
一体何をするんだろうと待っていれば、フィルドさんは手を大皿の一つにかざした。
「んじゃ、綺麗になっちゃえ!」
その掛け声と同時に、部屋全体が白い光に包まれたかと思った。
けど、そう感じたくらいに一瞬すぎて。
気がついたら、油汚れなどでベトベトになってたはずのお皿達が、まるで洗浄機で洗った後のようにピカピカになってるのが目に見えてきた。
「え、あれだけで?」
「ちょっと演出入れちゃったけど。こんなくらいに役立つよ?」
『少し、やり過ぎでやんすよ……』
本当にこの男の人、どんなチート的な存在なんだろうか?
ひとまず、ロティ以外の全員で綺麗になったお皿を食器棚に戻すことになり。
私のお休みは一旦中止に。
夜のパーティーに向けて、他の料理を作るためだ。代わりに別の日をお休みにさせてもらうことになった。
それとエイマーさんだけじゃ、ここのお昼休みの料理作るの大変だから。
だから。
「フィルドさんには、私達が作った料理をカウンターに置いたり。さっきほどでなくてはいいが皿洗いなどをお願いしたい。私はこれから調理に移るので、全部チャロナくんに聞いてくれれば大丈夫だ」
「いいよー」
「じゃあ、服。どうしましょうか?」
このままだと、綺麗な青い服が汚れてしまう。
と思ってたら、フィルドさんが軽く私とエイマーさんを交互に見比べてから、自分の上でパパっと手を振れば。
「これでいーい?」
また一瞬で、今度は早着替え。
服装は、何故か全身黒のコックスーツだけど。
汚れが目立ちにくい色だし、洗い物が多いから気にはならないかも。髪もいつのまにか、一つに縛ってあった。
「……エイマー。あたし達いなくて平気?」
「いいや、客は彼以外いなかったし。いつも通りだから」
「んじゃ、また夜な」
「あ、ああ……」
そう言いながら、悠花さんはレイ君の首根っこを掴んで行ってしまった。
(ああ、甘酸っぱい!)
ちょっとだけ男口調になった悠花さんだけど。
相思相愛になった直後だから、今の短い会話の中でもラブラブ度を感じちゃう。
ちょっと羨ましいが、何故か隣でくすくす笑うフィルドさんに現実に引き戻されてしまう。
「仲が良いのは良い事だね〜?」
「? そう、ですね」
「君も好きな相手いるようだし、頑張ったら?」
「え」
本当に、この人。
下手したら、神様かもと思わずにいられなかった。
*・*・*(シェトラス視点)
私は、いくらか緊張しながら旦那様の執務室に入る事になった。
「あ、料理長。ありがとう、今ちょっと立てこんでるけど」
レクターくんが散らばった書簡などをかき集めていたので、私も手伝ってから応接用に使う卓に、二人分の料理を置く。
旦那様は、少し疲れたご様子であったが下に降りて来られた時よりはマシであった。
おそらくは、チャロナちゃんの作ったピザトーストのおかげだろう。
「旦那様、今お一人様ですがお客様がいらっしゃるのですが……」
「俺にか?」
「いいえ。正確には、チャロナちゃん……姫様にでした。姿だけは、旦那様とそうおかわりありませんが……」
「僕らと変わらない、けど?」
本当に、言っていいものか。
彼の御方について、不用意に口には出来ずとも。あの方からのご要望もあることだから。
「…………………………………………あの方は、おそらく『神』です」
「「げっほげほ!?」」
かなりためらいを含みな口にしても、当然お二人は驚かれて。
口にされてた食事でむせられたが、被害はその程度で抑えられた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って? 今下にいらしてるの?」
「シェトラス……何故わかった」
「…………この世界では、他に名乗れない御名を口にされました」
「「!」」
この事に気付いたのは、おそらく私だけ。
エイマーも、古い神話を知っていても聞きかじりの程度だろうからだ。
「……『フィルド』と堂々と口にされてました。御名はおそらく、『フィルド=リディク=ラフィーネ』。この世界の創世神のはずです」
私も王宮に一時的に仕えていた身なので、たまたま知る事が出来た御名。
どの部分でも、この国以上に世界では誰も付けられることのない名前。
なのに、あの年若い姿の青年でやって来られたあの方は、すべての名を口にせずとも堂々とされていた。
おまけに、レイバルス殿と知己であるなら確実性は高い。
「その神が、下でチャロナ達と?」
「奥様のために土産のパンが欲しい、と。それは本当かもしれないのですが、姫様のご様子も見に来られたはずです」
「姫様の、
「様子見、か。何故今……」
彼女の持つ
たしかに、何故この時期に来られたのかはわからなかったが。
「……シェトラス。その創世神たる青年は、今何を?」
「それが。ご本人の口から、土産の対価がわりに。マックス様達へのパーティーの準備などにご自分を使えと」
「え、神様自ら下っ端の仕事を?」
「一応は普通の青年を装っていらっしゃるようなので……」
私も、平静を保つのが大変だった。
ひとまず、本当に創世神なのか確かめるのにも旦那様方はお仕事で動けないので。
土産の許可を出す代わりに、私が見定めるお役目を引き受ける事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます