29-1.珍客あらわる






 *・*・*








 悠花ゆうかさん達はもう少し話し合いたいところだったけども。


 エイマーさんの方は今日まだまだお仕事があるし、私は本来はお休み。


 だもんで、ロティを頭に乗せてから四人で厨房に戻ったら。


 裏口から戻って来たので、シェトラスさんが急いでやってきたのだ。



「ああ、チャロナちゃん。ちょうどよかったよ」


「どうかされましたか?」


「君にお客さんなんだけど……何故か、レイバルス殿が連れて来られて」


「はぁ? うちのレイ?」



 私にお客様って言ったら。


 まだ離れてそう経っていない、あのパーティーを除くと限られている。


 でも、シェトラスさんにもリンお兄ちゃんの事は話したから彼じゃないようだ。


 ただ、レイ君が連れてきたって言うのが私もだけど、悠花さんも引っかかった気分になる。


 なので、全員でお客さんがいるらしい食堂に向かうと。







 ぐぎゅるるるるるぅううううううううう


 ぎゅるぅううううううううううううう






 仕切りの扉をくぐった直後に聞こえてきた爆音。


 この音には聞き覚えがある。


 悠花さんと初めて会った時にも聞いた、燃費が悪過ぎる人のお腹の音だ。


 一瞬悠花さんかと思って振り向いても、彼女?は違う違うと首を振っていた。



『あ、チャロナはん!』



 向こうがこちらに気づいたのか、レイ君は人型の姿のままやってきた。


 が、私の前に来る手前で。


 当然のごとく、悠花さんに捕まってしまい、胸ぐらを掴まれた。



「ちょっと、どう言う事よ。あんたの知り合いって誰? あたしの知らない奴?」


『ま゛、ま゛ずだー……ぐ、ぐるじ』


「あたしが言えた事じゃぁないけど、この音の主誰よ!」


「まあまあ、悠花さん。落ち着いて」



 今もまだ響き続けてる爆音のBGM。


 いったい誰?と、レイ君の後ろを覗き込めば。


 大人数用の大テーブルの一つで、うつ伏せになってる人がいた。


 けど、顔が見えないし服装も青と白の冒険者風以外性別が不明で。


 髪も、綺麗な金髪が背中くらいまで長く伸ばしてるから余計に。



「えーと、レイ君あの人お腹空いてるの?」



 私がおそるおそる聞くと、悠花さんも仕方がないと掴んでた手を離してあげた。軽く咳き込んだレイ君に、ロティが優しく背中を撫でてあげてたからすぐに落ち着いたが。



『そうでやんす。色々古い知人でやんすけど、俺っちがここにいるのを知って尋ねてきてくださったんですが。まあ、あの通りで』


「そうなんだ。けど、私に用って?」


『……俺っちが、うっかりチャロナはんのパンの話してしまって』


「レ〜イ〜ぃ?」


『不可抗力でやんす!』



 つまりは。


 お腹が空いたけれど、せっかくならレイ君が自慢してたパンが食べたくなったところだろうか?


 念のためにそう聞けば、彼はその通りだと頷いた。



「けど、今出来るパンって作り置きあっためる以外限られてるけど?」


『本人、チャロナはんのパンならなんでもいいそうでやんす。けど、うちのマスターくらい食べる御人なんで』


「って言うと、あれ男?」


『顔見てもわかりにくいでやんすけど』



 とりあえずは、事情は把握出来た。


 なら、ここからはエイマーさん達にも手伝ってもらって、分担作業するしかない。



「じゃあ、とりあえずピザトーストとサンドイッチ作りましょう。シェトラスさん達もご協力頂きたいんですが」


「了解したよ」


「じゃあ、私がサンドイッチを作るよ」


「補助にあたしも入るわ〜」



 と言う事で、ほぼ全員が調理に取り掛かり。


 せっかくなら、全員分のお昼ご飯も兼ねて、とおかずも少々作り。


 30分は待たせてしまったけど、未だに顔を上げないお客さんの前に、パンをメインにした料理が出揃いました。



「お待たせしました!」


『ほんと、ありがとうごぜぇやす! ほら、いい加減起きてくだせぇ。出来たでやんすよ?』


「ん、んんぅ〜〜?」



 レイ君が肩を揺すってあげると、聞こえてきた声はたしかに男の人のもので。


 何回かレイ君が揺さぶってからようやく顔を上げたら。


 寝起きではないけど、ぼんやりした表情の、中性的な美貌の持ち主さんだったとわかった。


 どうして、私以外皆顔のいい人ばっかりなんだろう?


 リュシアで出会った、あの胸糞悪い元子爵も、趣味悪い服着ててもイケメンではあったし。


 それとは別に、この人は本当に綺麗な顔立ちをしていた。


 カイルキア様とは違う、神秘的要素があるって意味で。



『ご所望の、チャロナはんのパンでやんすよ?』


「え……ほんと? わ、ほんとだ! ありがと!」



 レイ君がまた声をかけてからやっと目の前の料理を認識したのか。


 すぐに体を起こして、表情も満面の笑みに。


 見慣れないであろう、ピザトーストを目の前にすると闇色のような黒い瞳が輝いてるようになった。



「あ、あの。私がチャロナです。お腹空かれてたようですし、召し上がってください」


「あ、君? 俺はフィルドって呼んで! 一応レイバルスの友達」


『と、友達……?』


「まあ、とりあえずはね?」



 レイ君が何故か引きつった表情になると、フィルドさんはまあと言いながら彼の方をぽんぽんと叩いた。



「俺がそいつの契約主だけど……あんた、レイとどう言う経緯で『友達』になったんだ? 食べながらでいいから聞かせてくれ」


「んー、全部は話せないけどー?」


「ま、いいぜ」



 初対面の相手だからかレイ君のお友達だからか。オネエ口調を引っ込めて、普通の男の人の話し方になった。


 ともかく、フィルドさんのお腹を落ち着かせなくては話も進まない。


 未だに大音量で聞こえているから、結構うるさいのだ。


 私が全員分の紅茶を配ってから、やっと手を付けだし。



「うっわ! すっごいパンがふわふわで甘〜い! 俺こんなパン食べたの初めて! レイの言った通りだね!」



 フィルドさんの勢いが、とにかくすごかった。


 ピザトーストは、カイルキア様にも作った種類を全種網羅は当然のことで。


 サンドイッチも、最近ほとんど作るペポロンパンも。


 即席で作ったサイドメニュー的なサラダやフライドポテトも作ったのを、これまたかなりの量を食べられて。


 下手すると、悠花さんの残念称号『燃費最悪魔王』に匹敵するんじゃないかってくらい。彼女?以上に遠慮なく食べてしまってた。


 体つきは、当然優花さんより断然細いのに。すっごく、大食らいの人みたい。



「あ〜……美味しかった。ほんと、ありがと」


「い、いえ」



 あまりの食べっぷりに、お話どころじゃなかったけれど。


 悠花さんも食べ損ないたくなかったから、急いで食べてたし。


 私は、食べてない分のピザトーストで十分だったが。ちなみに、PTは合計で90だった。



「…………で? あんた、見た感じ俺より少し上なようだけど。いつ、どこでレイと知りあった?」


「そんなに不思議な事なの?」


「基本的に、契約精霊は主人の側を離れない存在なんだ。俺がわざと言わない限りな? なのに、俺は冒険中も実家にいた頃も、フィルドに会った事すらねーよ」


「え」



 でも、実際はフィルドさんとレイ君は結構仲が良い感じ。


 なのに、レイ君の契約主である悠花さんまったく関与してないって言うのは。


 事情を聞くと、たしかにおかしかった。



「ふふ。まあ、俺も普通じゃないしね〜? 精霊じゃないけど、精霊達と関わりが深いから。魔力溜まりに漂ってた状態でも知ってただけ」


「……………………はぁああ!? ちょっと、ちょっとそれどう言うことよ!」



 たしかに、驚く内容だったから。


 私達もびっくりしたが、悠花さんは元のオネエに戻っちゃった。



「ふふ。そっちが素なら無理しなくていーよ?」


「…………そうさせてもらうわ。けど、実体のない頃だった精霊の個体感知なんて」


「俺だから、としか今は言えないかなぁ? そこの小さな精霊は、ちょっと色々違うようだけど?」


『でふぅ?』



 話の矛先が急に自分になったロティは、口周りをピザソースでベトベトにしながら自分のピザトーストを食べていた。

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