28-2.何事なにごと?
「あ、チーちゃん!」
私達に気づいた
未だ、自分の腕の中でポロポロと泣いているエイマーさんの頭をヨシヨシと撫でてあげていた。
カイルキア様にすこーし、デバガメ云々の事は聞いたけど、なんで今も落ち着いていないんだ?
「あんた、なんで今日は休みなのにコック服着てんのよん?」
「えっと、伝言ついでになっちゃうけど……お祝いの料理作ってたの」
「誰の??」
「エピアちゃんとサイラ君……もだけど、シェトラスさんから少し聞いたの。悠花さん達のこと」
「あら、ありがとう!……そこは嬉しいんだけど、このエロボイス野郎のせいで今大変なのよん!」
『でふ?』
そこは見てわかるんだけど、何が?とフィーガスさんを見ても。ニヤニヤと笑ってるだけだ。
私と目が合えば、さらに口元を緩めてにんまりとされて。
「嬢ちゃん、カイルとさっき会ったか?」
「ええ、お会いしましたが」
「なら、見合いは中断出来なかったとか言ってただろ?」
「え、何故それを?」
「意地が悪いんだけど。エイマーのお見合い計画してたの、こいつ……と言うより、僕ら幼馴染の父親達の作戦だったんだって」
「……………………は?」
補足で、少々レクター先生が割り込んでくださったが、まだイマイチ状況が読み込めず。
悠花さんを見ても、縦に数回首を振っただけだった。
「ハナから見りゃ、お互い誰が見ても相思相愛だっつーのに。マックスはともかく、エイマーの方が身分差諸々気にし過ぎで一歩踏み込めてなかっただろ? だから、それならいっそっつーわけで。うちを含める幼馴染ら大半の父親連中が画策して、わざとエイマーを見合いさせようとしたわけ」
「…………なんで、そんな回りくどい事を?」
私はまだ最近加わったばかりの人間なので、悠花さん以外の皆さんの事情は知らないのは当然でも。
二人をよく知っている人達なら、なんでそんな回りくどい面倒ごとを計画した意味が少しわからない。
私の思ってる事がわかったのか、フィーガスさんはまた口をにんまりと緩める。
「俺の提案とかもカイルに聞いたんだろ? 半分は、アークウェイトの人間を引き込むためでもある。俺とカレリアの婚礼のために、身内に引き込めば豪族でもトップクラスのやつとつながりを持てば。うるさい連中の盾になるからな? もちろん、逆にうちもアークウェイトの後見になってやれる。そこを言い出したのはうちの親父じゃなくて、シュラ様のとこだけどよ」
「全員グルよグル! あたしが言えなかったからって、わざとギリギリまでエイマーにもお見合い話言わなかったらしいのよ!」
「ま、見合い自体は偽計画だが。会わせたい奴がいるから会ってくれってだけだ。ついでに、報告してくれっつー感じで中断出来ねーだけで、本物の見合いじゃねーよ」
「ムカつく〜〜〜!」
「えっと……つまり?」
これはもしや、私が反省する必要はどこにもなく。
むしろ、お父さん世代の皆さんで巧妙に計画された……ただのキューピッド計画だったと?
「わ……私は……そんな、にも……わかりやすかった……のか」
エイマーさんは辛い涙じゃなく、恥ずかしさから出てる生理的なもので。
とにかく、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないのだろう。
私は収納棚に一応入れておいたフェイスタオルを渡し、ぽんぽんと顔を拭ってあげた。
「大丈夫ですよ。エイマーさんは、巻き込まれた側なんですから」
「あたしもだけど〜」
「そうだね。……けど、私が言い出さなかったらいつ言ってた?」
「う゛」
たしかに、悠花さんも巻き込まれた側ではあるけれど。
その実、ヘタレ過ぎて周囲に心配かけまくった結果もあるからかも。
私が焚きつけたのはきっかけだけどね?
「ま、嬢ちゃんのお陰もあって、今日俺から言う必要なくなったわ。あんがとさん」
「え、フィーガスさんが?」
「おう。そろそろ期日も近いし、親父から頼まれてな? ま、先に言ってくれたもんで種明かし出来たってわけ」
それと、言葉をためてから私に向かってにっこりと笑顔を向けてきた。
「シュラ様やカイルから許可もらってっから、俺とカレリアの結婚披露宴に出すパン。嬢ちゃんに依頼していいか?」
「わ、私、が?」
急な話題転換に頭がついていかなかった。
この話題は、ほかの皆さんも知らなかったようで目を少し丸くされたが。
「カレーパンしか食ってねーけど、めっちゃ美味かったんだよ。俺ら貴族のパンでも、庶民より少しマシってだけで進んで食べる連中は少ない。なら、
「け、けど」
まだごく一部にしか、私のパンの味や技術は広めていない。
カイルキア様は少しずつと言っていたのに、さっきのお話で何も言われなかったのに。なんで急にそんな事に?
「ああ、カイルが言わなかったからか? それはシュラ様が許可出したのと、俺の口から言って嬢ちゃんに判断してもらってからだ。と言ってたのもある」
「私の、意見で?」
「嬢ちゃんは、『特別』だかんな? ふつーの使用人でくくれる相手じゃねぇ。それに今度、受賞もされるんだろ?」
「!……それは、そうですけど」
異世界転移。
元パン屋の製造員。
この二つの事柄が重なったお陰で、大きな災害が過去にあったこの世界の未来で役に立てているだけ。
これに加えて、初めて今の自分の功績?らしいものを、感謝状として渡される事にも。
生産チート特典以外でも、ローザリオン公爵ご当主の使用人として、少しずつ経験値を積み始めたばかりなのに。
またもや、そんな大きなお仕事を。今度も自分の意見で決めていいのだろうか?
「顔出しはさせねーよ。悪いが、嬢ちゃんは参列させてやれねーからな? 客の反応とか感想は伝えてやっから」
「作る、だけでいいんですか?」
「おう。焼きたてはどのみち無理だから。俺んとこの屋敷貸すから作ってほしい。この前も言ったが、まだ半年先だけどよ」
「…………」
パン屋にいた頃でも、ケータリングサービスくらいでしか経験はないけど。
まだ半年くらい先なら、この世界での経験値……技術や『
試行錯誤しながら、メニューを決めることも出来る。
なら。
「私の……いえ。私と、ロティでお役に立てれるのなら喜んで」
『でっふぅ!』
「決まり! ついでに、も一個頼みてーのがあんだけどよ」
私の目を見て質問しようとしてたのか、フィーガスさんは強く指を鳴らした。
「頼み、ですか?」
「マックスに昔聞いたんだけどよ」
「あたしが何よ?」
「ほら、あれあれ。結婚式っつーか、披露宴だと定番の……デザート?」
「ああ、あれ…………って、チーちゃんに作らせるの!?」
悠花さんが声を上げるほどの料理。
かつ、結婚式とかにはつきもののデザートと言えば。
「ま、まさか……私にウェディングケーキを作ってほしいと?」
「そうそれ! ケーキ切るとか、お互い食べさせ合うとか。カーミィがやりたがっててよ」
「「ああ……」」
女性の憧れ、もだけど。女の人はスイーツ大好きだものね?
とは言っても。
「パン作りの技術がほとんどなので。そこは、かなり練習させてください」
ケーキなんて、趣味範囲がほとんどで仕事としては携わっていなかったからだ。
それを伝えれば、フィーガスさんはしっかり頷いてくださった。
「ケーキなら、シェトラス料理長とエイマー先輩に指導してもらえば。多分大丈夫じゃないかな?」
「いえ、先生。ムッチャクチャ大きいんですよ、そのケーキ」
「え? 僕もマックスには聞いたことあるけど……そんなにも?」
「高さより、大きさを言うんなら。カイルの執務用の卓くらいあるわよ?」
「……あ、ははは」
何はともあれ。
お見合い騒動にならずに済みそうでよかったよかった。
「あ、そうそう。悠花さん、お祝いのパーティー夜に食堂でやるから。ピザ作るよ!」
「ピザ……ですって!」
私が料理名を言えば、悠花さんはすっごく表情を輝かせていく。
「トッピングはお楽しみ。せっかくですから、フィーガスさんもどうですか?」
「あー、めちゃくちゃ食いてーけど。夜は帰んなきゃ……いや、いっそカーミィ連れてくっか?」
「いいんじゃない? たまには彼女もこっちの屋敷に連れてくるなら」
「じゃ、適当に仕事片付けてから合流するわ」
と言うなり、例の指パッチンでの転移魔法であっという間に消えてしまいました。
「先生、カイル様にお時間の事だけ伝えていただいてもいいですか?」
「もちろん。参加者って、どれくらいいるの?」
「えーと、メインの二組以外……カイル様、シェトラスさんまでは。サイラ君達は、エスメラルダさん達を呼ぶかもしれないですけど」
「じゃ、僕は姉さんにも伝えてくるよ」
さてさて、先生も中に戻られてから私達だけになったけど。
「色々ありましたけど、お二人ともおめでとうございます!」
『おめでちょーでふぅう!』
とりあえずこれが言えたので、すっきり出来た。
そして、悠花さんは照れ臭そうに笑って、エイマーさんもタオルの陰から泣きながら笑っていた。
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