28-1.反省と幸せの報告
*・*・*
一難あってまた一難、って言葉もあるけれど。
せっかく、
カイルキア様からも、もう一度なんとか出来ないか手は尽くすと言われたけれど。多分、悠花さんがエイマーさんのお見合い相手さんと会うのは確実に近い。
けど、結構前から段取り組まれてしまってるから、一方的に断るのは失礼過ぎる行為だったのかも。
私も、自分勝手な発言で『ぶっ壊しちゃえ』とか言うんじゃなかったと反省。
カイルキア様とのお話が終わってから、私は少し重くなった足を動かしながらも厨房に戻った。
「おや、チャロナちゃん。顔色がすぐれないように見えるが」
『ご主人様ぁ?』
ちょっと顔を見られただけでわかるくらい、今の私は表情も心の中も曇り以上に曇天模様なのだろう。
ここはひとつ。もっと大人の人であるシェトラスさんに、きちんと打ちあけよう。
「実は、旦那様に教えていただいたんですが」
カイルキア様から教えていただいたご報告に加え、私と悠花さんが考えていた計画を少しだけ打ち明ければ。
当然、いくら温和なシェトラスさんでも渋い表情になられました。
「……そうか。エイマーのお見合いの件については少しばかり聞いてはいたけれど」
「悠花さん……マックスさん、まだお見合いが中止出来なかったの知らないと思うので」
このままだと、素直に喜べない。
せっかく、大好きな人同士で結ばれた記念すべき日であるのに。
「まあ、たしかに。日取りも近いし、相手方の身分問わずに謝罪はしなくてはいけないからね? チャロナちゃんが、そこまで落ち込む事はないと思うよ?」
「…………そうでしょうか?」
前世で、お見合いとか結婚関連の行事に関わった機会が少ないので作法も知らないのは無理あるけど。
やっぱり、勢いで決めた事に対して、いけなかったなとよく反省しなくちゃいけないなと思えてきたのだ。
漫画や小説のワンシーンであるような、お見合い騒動なんやかんやのように、
せっかく、シェトラスさんが大丈夫と言ってくださっても、私はなかなか顔を上げられなかった。
『だーいじょぶでふぅ、ご主人様ぁ〜』
気分がしおしおになってると、ロティがちっちゃな手で私の髪を撫でてくれた。
ほんの少し、温かいその手に癒されはするものの。
まだ罪悪感の募った心は、すぐには晴れなかった。
「ロティちゃんの言う通り。大丈夫さ。事情をきちんとマックス様にも話せば、彼らは彼らで動くよ。君もだけど、彼らも子供ではないからね?」
「…………はい」
私は前世もだけど、今の自分も成人してるのに、まだまだ子供っぽいところがある。
それは多分、悠花さんのお陰もあった。
責任感がないわけじゃないけど、あの人と話してるとまるで日本人だった時の10代を思い出せるから。
今の性別は男性でも、口調と性格のお陰で、本当に女子の親友を持てたみたいに楽しくて。
だから、彼女?には幸せになってもらえたらって。あんな事言っちゃったんだ。
『…………あにょ、ご主人様ぁ』
「なーに?」
『しょの…………ピザの生地、大丈夫でふ?』
「…………あ!」
そう言えば、ロティの
慌てて置いてある窓際に向かって確認すると、ちょうどいい膨らみのとこまでなってたのでセーフ!
『にゃー、良かったでふぅ』
「ごめんごめん、ありがとう」
『でっふ!…………ゆーかしゃんのお祝い、どうしまふ?』
「…………そうだね」
エピアちゃん達はうまくいってるだろうけど、悠花さん達にはいずれカイルキア様からお見合いの件は伝えられるだろう。
が、彼女?の性格を全部知ってるわけじゃないけど。
『謝罪で済むんなら、いくらでもしてやるわよ!』
とか、言ってもおかしくないからなぁ……。
「まあ、お見合いはともかく。二人が結ばれたのが確実なら内輪で祝ってあげようじゃないかな?」
「いいんですか?」
「どのみち、祝うのなら先でも後でも一緒だろうから。それも、無駄に出来ないしね」
「はい」
食材を無駄にしては、調理人の恥だ。
なら、今から生地の続きをしようとボウルに手をかけた時。
通用口の方から、ノックが聞こえてきた。
「私が行ってこよう」
シェトラスさんのお言葉に甘えて、私は先に膨らんだピザ生地に拳を打ち付けてガス抜きをした。
パン生地と違って、ピザの場合はこれが大事なんだと製造員の先輩に教わったので。
「チャロナちゃーん、君にお客さんだったよ。今来れそう?」
「はーい。少しだけ待ってください!」
どのみちすぐに使う生地じゃないけど。
保存しておく段階まで、すぐに取り掛からないといけないので急いだ。
分割、軽くまとめて。
それから手を洗ってようやく向かえば、通用口の向こうにいたのは悠花さんじゃなかった。
「サイラ君!」
「俺だけじゃねーぞ?」
作業着のまま立ってた彼の後ろから、恥ずかしそうに顔を赤らめたエピアちゃんが出てきたとなれば。
私は沈んでた気持ちが少しずつ軽くなってきて。
思わず、二人の顔と手元を交互に見た。
やはり、付き合うことになったのかしっかり手を握りあっていた。
「おめでとう、二人とも!」
『にゃっふぅ!』
私の言葉に、ロティも拍手しながら喜んでいた。
サイラ君は土汚れの鼻を軽くかいていて、エピアちゃんはさらに恥ずかしくなったのか縮こまっちゃった。
少しだけ自信を持てるようになってても、やっぱり元からの気質はすぐに改善されないようだ。
「部屋にいねーからって。もしかしたらと思ってこっち来たけど、何してんだ?」
「ふふ。実は、君達へのお祝いの料理作ってたの」
「マジ!?」
「…………ほんと?」
私がしっかり頷けば、二人ともぱあってくらいに顔を輝かせてくれた。
「パンはパンなんだけど、エピアちゃんの好きなチーズをたっぷり使ったのなんだー」
「食う食う!」
「チーズ……嬉しい」
「ふふ。あと、実はマックス様とエイマーのも合同で行いたいんだが、構わないかな?」
「え、じゃ……エイ姉。伯爵夫人様とかになんの!?」
「すごい……」
やっぱり、付き合って
サイラ君は、お見合いの件知らないかもしれないけど。目がすっごく輝いていた。
「すっげ、すっげぇ! あの二人じれったいよなぁって思ってたけど! やっとかよ!」
「知ってたの?」
「エイ姉からは、ずーっとマックスさんの自慢ばっか聞かされてたし」
「oh......(´・ω・`)」
それは、知ってて当然かも。
「けど、いいんじゃん。合同! え、何? まさか宴会っぽい?」
「あ、ごめん。そこどうしようか決めてなかった」
料理を作るのだけは考えてたんだけど。
肝心の会場や他に募るメンバーをどうすればいいのか決めてなかった。
「なら、時間帯を少しだけ遅くして。食堂にすればいいんじゃないかな? 今日は大きな仕事もないし、皆もいつも通りの時間に食べに来るだろうから」
「ありがとうございます」
料理長からのご提案があれば、受けないわけにはいかない。
それから、サイラ君は仕事に戻っていき、エピアちゃんは服をメイドの先輩に返しに行くからと寮の方へ戻っていった。
私は私で、ピザの準備は作る直前のところまで用意して。
そのあとは、厨房を出てロティと悠花さん達を探しに行くことに。
パーティーの事と、エイマーさんをそろそろ戻らせなきゃいけないので伝言役を買って出たのだ。
「どこだろー?」
『ゆーかしゃん、あっちでふー』
裏庭かなと思ったら、ロティが気配か魔力を感知出来るのかすいーっと先に飛んでくれた。
予想通り、裏庭には居たんだけど……。
「だーっはははは! 俺の義妹はおんもしれーなぁ!」
「あんたのせいだっての!」
「あー……もう、フィー一度帰ったら?」
「やなこった」
居たには居たんだけど、カイルキア様がおっしゃったようにまだフィーガスさんも一緒にいて。
なんか泣いてるっぽいエイマーさんを抱えた悠花さんと、むっちゃ口論しまくってた。悠花さんの一方的だけど。
「あれ、チャロナちゃん達?」
と、一緒にいらっしゃったレクター先生に見つかり。
エイマーさん以外に驚かれながらも、私とロティは大人しく物陰から出て行きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます