25-1.告げる言葉(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 決めたからには、全力で行くのみ!


 最初はカイル達の仕事を、ちょ〜っとは手伝う気あったけども。


 見合い当日まで、時間があるようでない。


 それに、ぶっ壊す前にもエイマーにきちんと気持ちを確かめたかった。それまでの時間があるようでない。


 今は、仕事よりもあたしの人生がかかってる非常事態だもの!


 相手の気持ちを、マブダチから聞いたとなれば黙っていられるか!



【レイ。悪いけど、話し合う時は離れてて】


【了解でやんす】



 別にいてもいいかもしれないけど、これから告白するんだから、レイに筒抜け状態は正直言って恥ずかしい。


 一応心は未だ乙女?でも、この世界に転生して20年。


 感覚的には、男のとこも多くなってるけど……だからか、人生最大のポイントでヘマはしたくない。


 レイの性格上、終わったら絶対ツッコミ入れてくる。


 それが予想出来るくらい、付き合いは長いからこそ、ここは引いてもらいたい。


 だから、探すとは言っても、いる場所は予想済みだから、扉の前に立ったらすぐに開け放った。



「エイマーいるかしら!」



 結構大きな音立てちゃったけど、出てきたのはシェトラス。


 呼んだ相手が相手だからか、えらくにこにこ顔なのが癪だけど!



「おやおや、マックス様。エイマーに用ですかな?」


「その顔。わかってて聞く?」


「はっはっは。いい加減ふっ切られましたかな?」


「そうよ。そのためよ! 入らせてもらえるかしら?」


「構いませぬが……その口調のままで?」


「最初はね? 確かめたいこともあるのよん」


「左様にございますか」



 理由を明確に言わずとも、もともと通す気でいたのかシェトラスはあっさりと道を開けてくれた。


 場所は告げないでいると言うことは、すぐ近くと言うこと。


 その予想通りに、エイマーは奥の調理場で何か仕込みをしていた。



「…………柔らか過ぎてもいけない。粉をつけ過ぎてもいけない。難しい……」



 ひとり言が聞こえたが、おそらくパン作りの練習をしているのだろう。


 チーちゃんが、仕込みの合間に毎日つきっきりで調理人に手ほどきをしているとは聞いてはいた。


 けれど、今日はそのチーちゃんが初の休暇を取っている。


 だから、暇を見てはこうやって練習に打ち込んでいるのだろう。チーちゃんが言うには、練習用のパンは主にパン粉行きらしいが。


【枯渇の悪食】のせいで、一度失われたレシピの大部分は復元されたこの世界ではあるが。


 パンを筆頭に主食だけが、未だにうまく再現出来ていない現在なのだ。


 それを、たった一人の女の子が、条件が揃ったとは言え『開花』させてしまった。


 20数年以上努力して、やっとマシに近いものを会得したエイマーを、簡単に追い抜く程の技術で。


 表面上は、積極的に教わる生徒風ではあっても、実際は悔しいでしょうね。


 転生者の特典があるからって、年下の女の子が簡単に美味しいパンを作れちゃったら。



(けど、今はそれを止めなきゃ)



 研究熱心なとこに水を差すのは悪いとは思うけど、あたし達の人生ロードを思えば、今は関係ない。


 肩を叩くか、声を掛けるかで悩んだけど……マックスあたしならではなら、とまずは肩を軽く叩いて。



「エイマー、今いいかしら?」


「っ!…………マックス、殿??」



 シェトラスだと思ってたのか、振り向いてきた顔は粉まみれ。


 ちょっと可愛いと思ったけど、目に入りそうだったから肩に置いてた手で払ってやった。



「シェトラスから許可もらってるから、ちょっといいかしら?」


「話? しかし、この生地が……」


「ベンチタイムとかなら、乾いた布で覆っておけばいいわよ。ちょっと……いえ、結構大事な話があるの」


「わ、わかっ……た」



 ちょ〜っとだけ、声に凄みを感じさせれば、面白いように彼女は首を縦に振り。


 片付けなどをある程度してから、あたしは人気の少ない裏庭に連れて行った。


 食堂でもいいけど、いつ誰が来るかわかんないし邪魔はされたくない。


 完全に人の気配がない事を確認してから、レイは予定通りにあたしの影から出てってどこかに行ってくれた。



「話……と言うか。あたしの言いたい事わかってんじゃなーい?」


「? なんだろうか?」



 相変わらず、こう言うとこほんとに鈍感娘ね!


 仕方ないから、シェトラスにも言ったように『口調』を変える事にした。



「……………………あんたが、『見合い』させられるって聞いたんだが?」


「そ……それは! チャ、チャロナくんか!」


「わかってんなら、俺の言いたい事わからね?」


「わ、わわわ、わかっ……と言うよりも、その口調!」


「昔披露したっきりだろ、あんたの前じゃ」



 今ならわかるけど、あたしが『男口調』でいる時のエイマーって。


 好きな相手、だから。ものすごーくドキドキしてるのよね?


 まだ距離を置かれる前に、試しに使ったらやめてくれ!って顔真っ赤にしてたんだけど。



「や、ややや、やめてくれないか! そ、そんなのあなたらしくもない。い、いつもので」


「それは、俺が『ユーカ』じゃなくて『マックス=ユーシェンシー』と意識するからか?」


「なっ! わ、わかって!?」



 もう、ここまで来ると爆笑したいくらいの確定事項だ。


 なら、もう告げるしかないでしょうよ。



「じゃあ、聞くが。あんたが『好きな俺』はどっちだ?」


「ま、ままま、まさか、チャロナくんがそこまで!」


「教えてくれたが、俺らのためだと」


「…………わ、私……達のため?」



 そう、チーちゃんは自分のを自覚してないのにもかかわらず、言ってくれたのだ。



「『想い合ってるのに。結ばれる方法もあるのに、目を逸らすのはもったいない』んだと」


「ほ、方法……?」


「俺の案なら、最低レクターの家に養子に入るか。あんたんとこの本家の養子に入るか」


「そ、その方法って!」


「俺は本気だぜ? うちの親父も昔っからあんたの事は気に入ってるんだし、それ相応の覚悟もしてる。なのに、俺が『伯爵家の嫡男』って理由だけで、否定しないでくれ」



 過去の国王達も。身分差が激し過ぎる恋をしても結ばれた事例が多いこの国で。


 強固派を除けば、身分差なんてなんのそのって感じなのに。


 それを、エイマーも知ってるはずなのに。


 何を今更否定するのだろうか。あたしとしては意味がわからないわ!



「…………けど」


「?」



 理由を言うつもりなのか、少しか細い声で口を開き出したが。



「…………私、胸が大き過ぎるじゃないか」


「……………………はあ?」



 今更過ぎる事をなんでまた?と思ったが。


 彼女には結構重要な事だったのか、いきなり顔を真っ赤にして、少し睨んできた。



「か、形の良い胸の女性が好みだとか。昔、ユーカは言ってたじゃないか!」


「…………へ?」



 これは拍子抜けするのも無理はない。


 なんの、席で言ったかはとんと覚えがないのだが。彼女の胸にはずっと突き刺さっていたらしい。


 思わず、昔のように呼び名と口調は戻ったものの、あたしの頭の中はパニックになってしまった!

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