25-2.告げる想い(マックス《悠花》視点)








 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)









 いつ、どこでどこでいついつ?


 酒の席、と言うのなら納得はいくが。


 ここは、恥をしのんでも確かめねばならないわ!



「お、おい。エイマー……? 俺、そんな事誰の前で言ったんだ……?」


「覚えてないのも当然だろうな。5年ほど前の、君が成人の儀を受ける前。冒険者にもなる前さ。フィーガス殿が無理矢理ひらいた酒の席で!」


「!」



 思い出したわ。


 フィーの野郎は、絶対半殺し確定なのはすぐに過ぎるくらい衝撃的な出来事。


 この世界では、成人じゃなくとも12歳を越えてからならタバコはNGでも飲酒は可。


 ただし、少しずつ弱い酒で慣らしていかねばならない。


 そこはいいとして、15の時のあたしはそりゃもう飲んでた。


 まだ冒険者の宣旨が下る前で戦争も落ち着いて間もないから、そりゃもう前世のOL時代とかにやってたような終業上がりからの飲み会並みに。


 だって、フィーの奴が飲みやすい酒とかを家の酒蔵からくすねてきたんだもの。


 美味しくて美味しくて、ついつい飲んじゃってたわ。


 けど、待って?



「あんた、どの時に居たんだよ?」



 あの頃は一応男同士の幼馴染みだけで飲んでたはず。


 なのに、なんでエイマーは酒の席の戯れ言みたいなのを知ってるわけ?



「…………ああ、そうとも。一応は調理人の身分だったから同席はしていない。君はともかく、フィーガス殿の酒癖の悪さは知ってたしね」


「なら、どこで……」


「場所は、大旦那様の屋敷が多かっただろう? 夜分故に、メイド達もヘトヘトだったさ。そこで、ツマミを私本人が持って行く機会があってもおかしくはないと思わないかい?」


「っ、そこ……かよ」



 たしかに、宴会の会場はカイルの実家が多かった。


 無愛想な本人の性格はともかくとして、なんだかんだと自然に集まる屋敷が奴の実家が多く。


 シュラも含め、幼馴染みの男同士で結構な頻度でどんちゃん騒ぎはしてた。


 んで、一番若いあたしはとにかく潰れるのが早かった。今は別よ。


 だから、どの酒の席だかわかんないけど前世知識丸出しの論争をしたとかよく聞いてたが。



「君は相当にへべれけだったよ。酔っ払い過ぎて、思わず私に抱きついてきたくらいに」


「は!?」



 そんな大胆不敵な事を、5年前にあたしやらかしてたの!?


 是非とも、感触を覚えておきたかったのに!



「だが、そこで言ってたんだ。…………『あたし、女の子の胸なら、綺麗で形のいい胸が好きよ〜』と」


「覚えてねぇえええええ!」



 飲んだのは覚えてても、そこだけは。


 全然、ひとっかけらも覚えがない!


 へべれけの状態だから、無理があるとは言え。


 胸のコンプレックスを持ってるエイマーに、なんて事言ったのよ当時のマックスあたし



「たしかに。その後すぐに寝落ちてしまったくらいだ。覚えていないのも無理はない…………が、私はあの言葉がきっかけで、さらに自分の胸が嫌になったよ」



 声が、少しずつ震えていく。


 まさか、とうなだれてた顔を上げれば。


 泣くのを堪えているエイマーの顔が、目に飛び込んできた。



「え、エイ……」


「だから、見込みがないと思ってたんだ。そこそこ年上だし、身分差を越えても仲が良いと思ってた相手の。目にも入らないのだなと」



 本当に、酒の席のバカ過ぎる戯れ言ではあっても。


 あたしは、自分で人生最大のミスを犯していたのだ。


 元女のあたしだけど、生まれ持ってしまった性別を初めて喜んだくらい、想う相手が出来たのにその人を傷つけて。


 もうこうなったら、遠回しに言うのはやめよ!



「俺は!」


「っ、ちょっ、ユーカ!?」



 まずは逃げないためにがっちりホールドするしかないでしょ!


 当然暴れたエイマーだけど、逃すものかと痛くならない力加減で抱きしめた。



「俺の前世を知っても、今の俺を見せても受け入れてくれたエイマーだから好きになったんだ!」


「は……えぇ?」


「言っとくが、今は素面だし。嘘じゃねーよ」


「そ、れは……わかって、いるん……だが。え、本当に?」


「ここまでして嘘つく必要あるか?」


「な……いんだろうか?」


「納得してくれよ!」



 ここでなんで疑問形なのよ!



「いや……だって、この流れではと言うのはわかる。わかるんだが……頭が追いつかない」


「ここで一発キスしてやろうか?」


「殴るぞ!」


「ほら、正気に戻っただろ?」


「あ」



 本当は勢いでしてやりたかったとこだけど、ファーストキスをそんなもったいない使い方したくないもの。


 今世では自分がムードを作る側だから、大事にしたいからね。


 わざと茶化してやれば、暴れるのをやめてエイマーはぽかんと口を開けたまま、あたしの顔を見上げた。



「俺もまだな、最初のキスを無駄遣いしたくねーよ。んで? せっかく一世一代の告白したんだから、返事は?」


「へ、返事?」


「ちなみに俺は、『はい』しか受け付けねーぞ?」


「お、横暴だ!」


「この間だって、形態変化メタモルフォの俺を散々を褒めちぎってくれたのに。見込みねーとか思わせた罰だ」


「あ、あれは!」



 何か言いたい事があるのか、口をもごもごとし出した。



「?」


「…………その、本当に美し過ぎたからだ。私とは比べ物にならないくらいに。少し……嫉妬もしたけど」


「……エイマー」


「っ、ここで力込めないでくれ! 痛い!」


「あ、のなぁ!」



 ただの変身だからって、好きな相手に嫉妬って何よ!


 嬉し過ぎて、力がこもっちゃうくらいしょうがないじゃないのさ!



「ちょ、本当に痛い……っ」


「もう言ってくれよ、俺の事どう思ってんのか!」


「ほ、ほぼ言ったじゃないか!」


「いいや。俺みてーに直接的には言ってないなぁ?」


「だ、だからって」


「じゃ、俺が改めて先制攻撃でもするか?」


「…………へ?」



 元女……いいえ。


 今世を男として生き抜いていくためなら、日本のサブカルチャーを駆使しまくった、くっそ甘ったるい台詞くらい言ってやるわ!


 だから、お約束のアゴクイも当然やっちゃうわよ?



「俺の、男として生まれた中で……あんたが初恋なんだ。頼む、結婚を前提に俺と付き合ってくれ」


「え、え、え!」


「これ以上甘ったるい台詞言ってやろうか?」


「い、いい! いいから、心臓保たないから!」



 その言葉通りに、顔面真っ赤どころか耳や首まで赤くなった。


 あと、生理的に出てしまった涙目が最高に可愛いんだけども。


 まだ、キスもダメよあたし!



「んで、返事は?」



 追い打ちをかけてやれば、もう最高に可愛く体を震わせちゃって。


 男になったからねわかるんだけど、この状態の好きな相手を美味しくいただいちゃいたい気持ち、わかるわぁ。


 まだ、あたしには女心があるから食べないでおくけど。



「の……」


「ん?」



 少し待っていたら、ようやく口火を切り出したのか小さく声を出してくれた。



「望んでも……いい、のか? ユーカ……いや、マックスの隣に立っても」


「俺が先に望んだんだろ?」



 ほんとに、あたしは自分勝手なとこは今も多いけど。大抵の女の子って、謙虚なとこが多いわね?


 言葉の後に、にかっと笑ってやれば、エイマーの瞳に綺麗な光が射した。



「な……なりたい。養子でもなんでも受ける! 君の隣に立てるなら!」


「よし来た!」



 婚約込みでのOKの返事をいただけたので、更にぎゅーっと抱きしめてやった。


 痛いと言わない代わりに、背中に腕が回ってきたので良しとする。


 なら、お約束の……と体を離そうとした時。


 あたしは、『ありえない存在』がいるのに気づく。



「ちょ…………、なんであんたらがここにいるんだ!」


「へ?」



 びっくりし過ぎて、一旦エイマーを離して奴らに詰め寄るくらいに。


 あたしの頭の中は現場を見られてた羞恥心と、怒りでいっぱいになってた。



「いんや〜? 俺は、確認の書簡があっから転移でここに来ただけだぜ?」


「…………俺は、巻き込まれた」


「僕も」



 なんで、ここにシュラ以外の幼馴染み三人が出揃っているのよ!



「ど、どどど、どこから!」


「割と最後? おっ前の、エイマーに対する熱〜い告白から」


「……俺が、近くで気晴らしの素振りをしてたんだ。そこにこいつが来て」


「なんか、話し声聞こえるね?って気づいたから……覗きに?」


「あ・ん・た・ら〜〜〜!」



 カイルの日課が裏庭なら少ないからと思ってたのが仇に。


 一世一代の大告白が、見世物にさせられてしまった!



「まあまあ、決まっていーんじゃね? 養子の話が出るんなら、レクターんとこじゃなくてもうちでいーだろ?」


「は?」



 最悪は、うちの縁戚とかも考えてたのに。なんで、このエロボイス野郎のとこになんのよ?



「うちは、カーミィの件もあっから。次に義妹の事例があると色々助かるんだよ。お互い利用する形でちょーどいいじゃねぇか?」


「あっそう……」



 それはたしかに。うってつけの案ではあるけども。



「それなら……いっそのこと、見合い自体を取り止めるように伯父上達に掛け合おう。俺も、それくらいなら協力する」



 カイルは、そう言うなりさっさと屋敷内に入ってしまった。



「ああ言ってるけど。昔っから見守ってたんだよ、君達のこと」


「えー?」



 レクターが言うから信じるけど、仕事真面目以外のカイルが?


 恋愛事については、今を除くとパーティー内でもからっきしだったのに。



「ところで、マックス。エイマーが大変な事になっているのにいいのか?」


「は?」



 何が、と彼女の方を振り向けば。


 フィーが大変と口にするのがわかるくらいに。


 エイマーは地面に膝をつきながら、声を出さずに大泣きしてた!



「ぜ、全部……全部見られて……………………っ!」


「うわぁあああああ! ぎゅってしてやるから落ち着けぇえええええ!!」


「ふぇ……ユーカぁ」


「あーはいはい」



 やっぱり、あたしより肉体的な年齢は上でも。


 中身はただの女の子だったのね。


 普段の口調は、伯父様らしいアークウェイト当主の影響らしいけど。それも、実は取り繕ってた仮面のようだった。


 素は、こんなにも女の子らしいのに。



「んま。何はともあれ、おめっとさん?」


「あんたらが見てなきゃ、もっとハッピーだったわ!」


「はいはい。僕らも段取り組まなきゃなんだから、戻るよフィー?」


「へいへい」



 レクターのお陰で、フィーの野郎は連れてってもらったが。


 緊張の糸が切れてしまったエイマーが泣き止むまで、結局二時間もかかったわ!


 その後に、なんでかフィーの奴も戻ってくるし。


 ほんと、幼馴染みって!

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