24-2.友達とおしゃべり(エピア視点)








 *・*・*(エピア視点)







 お休みの日は、いつもただ寝てるだけだった。


 まだまだ若く、体力の有り余ってる年頃ではあっても私は女。


 ずっと働いていくのだし、体の成長が落ち着いてからたっぷり働けばいい。


 叔父でもある上司のラスティさんだって、まだまだ若いのに……そこは、指導を受けた先代のお陰だからか。


 私も一年くらいしか一緒にいられなかったが、早く追いつきたい。


 なので、休日は体力回復のためにお寝坊をしてたのだが。



「目……覚めちゃった」



 朝ごはんもいつもは抜くくらい寝てたのに、目覚まし時計を見たら9時前。


 いつもよりは、だいぶ早い。


 けれど、二度寝しようにも眠気はほとんどなかったので、身支度は簡単にすることにした。



「…………前髪、切った方が洗いやすい」



 顔とかが特に。


 お風呂の洗顔の時とかは、先にべったり濡らしてから上にあげてたけれど。今は、そんなことする必要がないくらいに短い。


 きっかけは、サイラ君やチャロナちゃんのお陰だけど、切って良かったと思う。


 ほんの少しだけ、勇気を持てたからか。



「……ご飯、もらいに行こうかな?」



 少しだけなら、チャロナちゃんとも話せるかもしれない。


 昨日のお風呂は、彼女の仕込みの時間の関係で一緒にじゃなかったから、少し久しぶりに一人で済ませたのだ。





 コンコン。





 誰だろう?


 管理人のヌーガスさんでも、私の部屋に来る事は少ない。


 それか、ラスティさんに何かあったのだろうか?



「エピアー、あんたにお客さんだよ。女の子だから連れてきたけど」


「え? は、は、はい!」



 嘘、もしかして、と思わずにはいられない。


 女の子でもし訪ねてくる子って、一人しか思いつかなかったもの。


 少しだけ片付けをしてから、私は急いで扉を開けた。



「ご、ごめん、なさい。時間かかって」


「いいさ。ほら、お友達二人だよ?」


「おはよう、エピアちゃん」


『はにょーでふぅ!』



 ヌーガスさんが体をずらしてくれたそこには、ロティちゃんを抱っこしたチャロナちゃんが立ってた。


 服は、いつもの作業着じゃないから……もしかして、彼女もお休みなのだろうか?



「んじゃ、チャロナ。帰りは一言あたしに声かけてくれればいいから」


「ありがとうございます」


『でっふぅ』



 本当に、ヌーガスさんは案内役をしただけなのか。ロティちゃんの髪を撫でてから、受付のとこに帰ってしまわれた。



「私もお休みなの、言うの忘れてたね? 菜園に行ったら、ラスティさんがエピアちゃんもって言ってたから来ちゃったんだけど」


「あ、ううん。ありがとう、嬉しい」



 ここで立っててもなんだから、部屋に入ってと案内する。


 チャロナちゃんの部屋と違って、本当に一人部屋だから座るとこと言えばベッドくらいだけど。


 彼女も気にしてないのか、ロティちゃんをお膝に乗せてそこに座ってくれた。


 私は、その間に洗面所の隣にある給湯用のスペースでお茶を淹れることに。



「部屋ってこんな感じなんだね?」



 物珍しそうにきょろきょろしてるけど、悪い気分じゃない。


 彼女の部屋は、本来来客用のゲストルームだったから広過ぎるし。まさか、エイマーさんと一緒とは言え入る機会があるとは思ってなかったけど。


 少しぬるめに淹れた紅茶を作業用の机の上に一旦置いて、二人に手渡した。



「お茶しかないけど……」


「ううん。いきなり来ちゃったのに、ありがとう」


『ありがちょーでふぅ!』



 二人とも笑顔になってくれたので、私もつられて笑顔にはなったが。


 直後に、私のお腹がどう言うわけか盛大に鳴ってしまった!



「あ、あ、ご、ごめんなさい! ま、まだ、朝食べてなくて!」


「え。じゃあ、さっきまで寝てたの?」


「う、うん。ちょうど、身支度してたところで」


「そっかぁ。あ、ちょっと待ってて!」



 すると、チャロナちゃんは。


 私には見えないけど、何か技能スキルを使ってるのか空中で何か指を動かして。


 強く押すような動きをした後に、彼女の手には紙に包まれた何かが出てきた。



「昨日、リュシアの孤児院に持っていった『カレーパン』の残りなの。良かったら、食べて?」


「い、今の、空間収納?」


「近いみたいだけど、私の固有技能スキルみたいなのかなぁ?」



 さあさあ、と差し出してくれたので受け取れば。


 紙越しでもわかる暖かいぬくもりと、油のいい匂い。


 これは、本当にパンなのだろうか?


 カレーと言うのも初めて聞くけど、冒険者だけでなくホムラ皇国の出身だからあちらの料理を参考にしたかもしれない。



(けど、すっごくいい匂い)



 空きっ腹に直撃してくるような、香ばしい小麦の香りだけでなく、香辛料の匂いもする。


 せっかく出してもらったのだから、美味しいうちに食べなくちゃ。


 紙は全部むくと手が汚れちゃうからと、半分だけにしたら。



「う、っわ……!」



 香ばしい匂いは、コロッケのようにパン粉をまとわせているせい。


 コロッケ以上に大きいのに、コロッケよりも段違いに柔らかくて。


 食べるのがもったいなく感じちゃうけど、もう空きっ腹が黙っていられない。


 大口は恥ずかしいから、ほんの一口。


 サクッとした食感に少しびっくりしたけど、その後が。



「お、美味しい!」



 油をよく吸ったパンの部分はくどくなくて。


 パン粉の部分はサクサクしてて。


 少し、少しかじっていくうちに出てきた、おそらくカレーと言う部分は香辛料がたくさん使ってあるのに、ほとんど辛くなくて。


 ものすごく、ものすごく美味しい!



「良かったー。辛いの苦手な人とかもいるだろうから、今回のは甘めなんだけど」


「私は、平気……だけど」


「ほんと? それなら、今度は辛口で作ってみるね?」


「う、うん」



 もっと食べたくなったけど、油で揚げてたせいかお腹の空き具合は落ち着いてきた。


 手を洗ってから、三人でベッドに座りながら。主に、チャロナちゃんの昨日のお仕事について話を聞くことにした。



「あのね、あのね? 私がホムラの孤児院にいた時に、ちょっとだけ一緒に住んでた幼馴染みのお兄ちゃんにも会えたんだ!」


「お兄、さん?」


「うん。マックスさんのお店で普段は働いてるらしいんだけど、とっても美人になっててびっくりしたよ!」


「マックスさんの、お店って」



 片手で数えるくらいしか、ラスティさんとかエイマーさんとかにひっついて行く時にしか連れてってもらえてないが。


 たしか、女装する男の人がいる茶店、だったような?


 なんであんなとこに、チャロナちゃんの幼馴染みさんがいるのかはわからないけど、聞いていくうちに少し納得出来た。


 あそこの人達は、リュシアを含める孤児院出身者の救済措置のような場所らしい。



「もうカッコいいのに、綺麗でびっくりしたんだぁ! でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだなぁって」


「そんなに綺麗な人だったんだ?」


「うん。タイプだと、エイマーさんをもう少し男性寄りにした感じ」


「それは、たしかに綺麗かも」



 エイマーさんと言えば、大旦那様からの勧めとは言えお見合いすると、あのパジャマパーティーの時に知った。


 サイラ君の親戚のお姉さんだからと、よく話す間柄ではあったが。


 あの機会がなきゃ、あれだけマックスさんを好きでいるのは知らなかった。


 いつも彼が来る時は、適当にあしらっていたから。



「あ、そうだ。エピアちゃん」


「うん?」


「マックスさんにお見合いの件話したら、ぶっ壊す事に決定しちゃった」


「な、なんで話しちゃうの!?」



 たしかに、両片想いの二人ではあるけれど。


 私以上に、この子はマックスさんとすっごく仲がいいけど。


 なんで、話してしまったんだろうか?


 あの人なら、やりかねないと思ってたけど!



「うーん。私も最初は、ぶっ壊すとか提案しなかったけど……なんだか焦った過ぎて」


「提案したのチャロナちゃん!?」


「けど、考えてもみてよ? サイラ君はエピアちゃん一筋だけど、同じようにあの二人もそうなんだから……幸せになってほしいし」


「それは……まあ」



 私は、単に返事をしてないだけだけど。


 サイラ君もあれ以降特に変わった様子はなかった。


 もう少し積極的になろうにも、お互いに働く場所が違うから、話す機会もあんまりない。


 ただ、一つ。


 前髪を切ってから、彼の様子が少し変になったのだ。



「エピアちゃん?」


『おねーしゃん?』



 二人の声に、私はすぐに気持ちを切り替えて、顔の前で手を振った。



「う、ううん。大丈夫。それで……マックスさん、お見合いを破談させるのに、何か打ち合わせでもしたの?」


「まだよく聞いてないんだよ。先に、エイマーさんには告白するって言ってたけど」


「そうなんだ?」



 本人が、ちゃんと伝えるのならきっと大丈夫だろう。


 エイマーさんの褒め言葉だけで、あれだけ反応してるのに気づかれないでいたのはずっと不思議だったけど。



「告白かぁ。皆、お相手さんがいるから……いいなぁ?」


「チャロナちゃんには、いないの?」


「え、い、いや……いる、と言うか」


「幼馴染みのお兄さん?」


「ううん。お兄ちゃんは初恋の思い出……ああ、しまった!」


「ふふ」



 誘導したつもりではないが、言わせてしまったので少しおかしくなってしまった。


 恥ずかしいのか、顔を真っ赤にさせたチャロナちゃんのお膝の上で、ロティちゃんが胸を反らして力強く言い出した。



『ご主人様は〜、あのおにーしゃんでふ。あんまりわりゃわにゃい』


「ろ、ロティ!?」


「え、笑わないって……」



 シュライゼン様は、本当のお兄さんなのとよく笑う方だから除外だけど。


 年がまだ近く、表情の乏しい方と言えば一人しか思いつかなかった。



「…………旦那、様?」


「無理無理無理! 私、孤児だし、絶対ダメ!」


「……聞いてみた、だけだけど?」


「ああっ!」



 本当に自分の、本当の身分を知らないからか。


 エイマーさんの時以上に諦めてる感じだ。


 だけど、ご自分が『王女様』と知った時には。


 この人は、どう思われるのだろうか?

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